(1)溝渕正季明治学院大学法学部政治学科准教授からの報告

冒頭、溝渕教授より、次のような報告がなされた。

(イ)問題設定

2月28日のイスラエルと米国による大規模なイランへの空爆については、正直なところ全く予想していなかった。なぜなら、米国にとってイランを攻撃することのメリットがなく、また事前の準備が周到に行われていたようにはみえなかったからである。例えば、国際法違反であるとか、国連安保理決議がないなど散々たたかれた2003年のイラク戦争の時でさえ、当時のブッシュ政権は一年以上かけて国内および国際社会を説得してから開戦を行った。今回はそのような事前の準備も明確な戦略目的なく始めてしまったようにみえる。28日の攻撃でアリ・ハメネイ最高指導者を殺害したわけであるが、米国は、1月のベネズエラへの軍事作戦が成功したように、イランでも同じように体制が崩壊して、米国にとって都合の良い政府がすぐに誕生するのではないかとみていた節がある。しかし実際には、ハメネイ氏の次男である反米反イスラエルのモジタバ・ハメネイ氏が最高指導者になって強硬派路線は維持され、今日までイランからイスラエルや湾岸諸国の米軍基地などに攻撃が続いている。特にイランからの攻撃でホルムズ海峡が事実上封鎖に近い状態となり、タンカーの通航量が激減し、石油市場さらには国際経済全体に大きな影響が出ており、中東のみならず国際社会全体に関わる大きな問題になってきている。果たしてトランプ政権は、どこで落としどころをつけるのかを中心に、本日の報告を行う。

(ロ)イラン攻撃の背景

今回の攻撃を理解するためには、2023年10月7日以降の中東全体の変化を踏まえる必要がある。10月7日、ハマスがイスラエル南部に対して大規模攻撃を行い、イスラエルはその後、ガザに対する大規模な軍事侵攻を続けてきた。さらにイスラエルは、ガザのハマスだけではなく、レバノンのヒズボラ、シリアのアサド政権、さらにはイランと結びついた各地の武装勢力に対しても、段階的に圧力を強めてきた。イスラエルは2023年10月以降、周辺の脅威を一つずつ叩いていき、最終的に残った「親玉」がイランであった。

そもそもイランは、2001年の9・11以降、とりわけ2003年のイラク戦争以降に、中東地域における影響力を大きく拡大してきた。2003年のイラク戦争によって、イランにとって最大の脅威/地域的敵対国であったサダム・フセイン政権が崩壊した結果、イランはイラク国内で自らに近い武装勢力を育て、影響力を浸透させることができた。また、レバノンのヒズボラや、イエメンのフーシ派などを含む、いわゆる「抵抗の枢軸」を通じて、アラブ世界においても影響力を拡大してきた。

さらに2006年には、レバノンのヒズボラがイスラエルとの戦争で善戦し、政治的勝利を収めた。これによってヒズボラの名声が高まり、それは間接的にイランのアラブ社会における影響力の拡大にもつながった。加えて、2011年の「アラブの春」以降、イエメンやシリアなどで内戦が始まると、イランはそうした混乱を利用して親イラン勢力を育成し、中東各地に影響力を浸透させていった。2015年にはイラン核合意(JCPOA)が成立し、制裁の一部解除も実現した。さらに2023年には中国の仲介でサウジアラビアとイランの国交が正常化し、中東外交秩序の大きな転換と受け止められた。

2023年当時のイスラエルは、こうしたイランの軍事力や地域的影響力の拡大をもはや放置することはできないと考え、イランおよび親イラン勢力を一網打尽に粉砕する機会を虎視眈々と狙っていた状況であった。2023年10月7日以降、国内的支持が高止まり、国際社会がイスラエルに対する寛容な姿勢を維持する中で、イスラエルは「今なら何をしても許される」と認識した節があり、周辺の脅威を順次排除していった。その結果、最終的に残った「親玉」がイランであり、2025年6月の「十二日間戦争」を経て、今回の大規模攻撃へと至った。今回のイラン攻撃は、まさにこの流れの延長線上にあり、2023年10月以降の中東秩序の再編の中で理解されるべきものである、というのが報告者の整理である。

(ハ)米国・イスラエル・イランの三者関係

今回のイラン攻撃は、米国・イスラエル・イランの三者関係の中で理解する必要がある。まず、イランとイスラエルは1979年のイラン革命以降、「不倶戴天の敵」となっている。革命後に成立したイランのイスラム体制にとって、イスラエルおよび同国が体現する西洋帝国主義・植民地主義に抵抗することは、体制の理念的正統性の根幹にある。その意味で、イランにとってイスラエルとの対峙は、単なる外交上の対立ではなく、体制の存在理由(レゾン・デートル)にも関わる問題である。他方、イスラエルから見れば、イランは単なる地域大国ではなく、自国の存立に関わる脅威である。イランは核能力の獲得を追求し、ミサイル能力を発展させ、さらにヒズボラやフーシ派などの親イラン勢力を通じてイスラエルを包囲するような態勢を築いてきた。

一方、米国とイランの関係は、単純な「不倶戴天の敵」と言い切れない複雑さを持っている。もちろん、1979年の革命とその後の米大使館占拠事件以降、両国が深く敵対してきたことは事実である。しかし他方で、必要に応じて協力してきた局面も存在する。たとえば、1980年代のイラン・コントラ事件では、両国の間に秘密裏の取引が存在した。また2001年のアフガニスタン戦争では、イランはアフガニスタンに関する情報を米国に提供するなど、実質的に協力した。2015年のオバマ政権期にはJCPOAも成立していた。したがって、米国とイランの関係は、表面的な対立だけでは捉えきれず、必要なときには互いに手を結ぶことも辞さない関係であった。その一方で、そうした米国とイランの接近を最も嫌うのがイスラエルである。イスラエルは、米国とイランの交渉が進めば、自国の安全保障にとって不利になると考え、繰り返し米国に対してイランへの強硬姿勢を求めてきた。今回の攻撃も、まさにこの三者関係の力学の中で起きたものと位置づけられる。米国はこれまで、核武装したイランそのものよりも、むしろイスラエルが単独で対イラン軍事行動に踏み切り、それに巻き込まれることを警戒してきたのであり、今回の危機もその延長線上で理解されるべきである。

(二)なぜ交渉は失敗し、攻撃に至ったのか

2025年6月の攻撃では、イランの核能力やミサイル能力に打撃は与えたものの、決定的な解決には至らなかった。その後、2026年2月にオマーン仲介のもとでジュネーブにおける間接交渉が再開されたが、ここで米国側は、ゼロ濃縮、弾道ミサイル、地域の武装勢力支援の三点を含む包括的な譲歩をイランに求めた。他方でイラン側は、核兵器不拡散条約(NPT)に基づく平和的濃縮の権利は放棄できず、ミサイルも抑止の中核として交渉対象にはしないという立場を崩さなかった。したがって、交渉の争点はきわめて根本的であり、双方の妥協可能範囲は最初から大きく隔たっていた。

さらにイラン国内では、2025年末から大規模な抗議運動が続き、これに対する治安機関の弾圧によって、国家と国民の間に大きな亀裂が生まれていた。この状況下で、対米交渉で弱腰な姿勢を見せれば、体制の動揺をさらに深めかねないとの危機感があり、イランとしては一層譲歩しにくくなっていた。加えて、トランプ大統領が体制転換を示唆する発言を繰り返したことで、イラン側には「少しでも譲歩の姿勢を見せれば、さらに要求がエスカレートするだけだ」という不信感が強まり、核、ミサイル、地域の武装勢力といった抑止力を手放せないとの認識がかえって強まった。

そこにイスラエルの存在が加わる。イスラエルは、昨年6月以降、弱体化したイラン体制に決定的な打撃を与えるべきだとトランプ大統領に強く働きかけ、交渉がむしろ攻撃計画を妨げるものとして警戒していた。ネタニヤフ首相は2025年だけで少なくとも6回はトランプ大統領と会談を行い、電話や側近を通じても同大統領に強く影響を与えたとされる。こうして、米国・イラン・イスラエルそれぞれの妥協可能範囲が最後まで収斂せず、最終的にはイスラエルに押し切られる形で、2月28日の共同攻撃に至ったのではないか。

(ホ)今回の軍事行動の目的と限界

今回の米国からのイラン攻撃について、何を目的として始めたのかが非常に曖昧である。イランは米国にとって、地球の裏側にある国であり、米国本土を直接脅かす存在ではない。そうした国に対して、十分な準備もなく、開戦理由もはっきりしないまま軍事行動に踏み切ったこと自体が不可解である。

また、仮に核能力の無力化や体制転換が目的であったとしても、空爆だけではそれを達成できない。空爆は敵の意志を破壊するというより、軍事能力を部分的に削ることしかできず、地上戦や信頼できる代理勢力なしに体制転換や降伏を実現することは困難である。イランは山岳地帯に囲まれた地理的条件を持ち、核施設も地下深くに存在しているため、空爆だけで核能力を完全に除去することは不可能に近い。さらに、たとえ一部施設を破壊しても、知識、人材、分散インフラといった「核能力の核心」は残る。

加えて、外部からの攻撃はイラン国内で反米感情と短期的な結束を喚起し、体制崩壊どころか、むしろ強硬派を利する可能性が高い。実際、最高指導者が死亡した後も体制が揺らいだ様子はなく、次男モジタバ・ハメネイが最高指導者に選出され、反米・反イスラエルの路線は維持されている。今後はさらに革命防衛隊を中核とする軍事主導体制が強化されるシナリオもありえるだろう。したがって、今回の軍事行動は、目的が曖昧であるうえ、手段としてもその目的達成にそぐわないものだったとなる可能性が高い。

(へ)現時点での戦況と「落とし所」

現時点では、軍事的に米国・イスラエル側が優位に立っているが、イランは紛争を「政治化」している。すなわち、軍事的に真正面から勝つことはできなくても、ホルムズ海峡を通るタンカーの保険停止や通航量の減少などを通じて、石油・LNG・物流市場を混乱させ、世界経済に影響を及ぼすことで、国際社会から米国に圧力をかけさせようとしている。ホルムズ海峡は、世界の海上石油貿易の約25~30%、LNG貿易の約20%が通過する最大級のチョークポイントであり、日本の原油輸入とも直結する。このため、今回の戦争は中東域内にとどまらず、国際秩序全体に関わる問題になっている。

「無条件降伏」や「体制転換」は現実的ではない。米国の情報機関の事前評価でも、大規模攻撃によって体制崩壊が起こる可能性は低いとされていた。またモジタバ・ハメネイの最高指導者就任は体制の断絶ではなく継続を示している。他方で、イランも長期戦を続ければ軍事的、経済的、外交的なコストが拡大し、体制の動揺につながり得る。したがって、現実的な落とし所としては、それぞれ自国向けに一定の成果を示しつつも、両者に不満を残したままの限定的停戦以外には考えにくい。

ただし、停戦後も問題は終わらない。残存する高濃縮ウランをどのように査察するのか、また交渉再開に向けた枠組みをいかに再構築するのかが、その後の最大の争点となる。さらに、停戦が成立したとしても、石油市場や物流市場が直ちに正常化するとは限らず、その影響はしばらく残る可能性が高い。以上を踏まえ、攻撃後に問われるべきは、作戦がどこまで成功したかではなく、核交渉再開に向けた枠組みの再構築、核物質管理および査察体制の復元、そして世界的エネルギー危機の立て直しである。

(2)菊池誉名日本国際フォーラム常務理事からのコメントと質問

続いて、モデレーターの菊池常務理事より、次のようなコメントと質問がなされ、これに対して溝渕准教授より返答があった。

【菊池常務理事】

今回のご報告では、イラン攻撃に関して、米国、イスラエル、イランの三者関係の力学からひも解いていただいたが、この三者関係から考えると、重要な要素として、安全保障上のジレンマの問題があると理解した。米国、特にイスラエルにとって革命後のイランは、イスラエルの抹殺を公言し、核開発をすすめ、さらに反イスラエルの代理勢力を支援するという極めて深刻な脅威であり続けている。他方イランからすると、核や代理勢力への支援というのは、革命以後の体制の維持のための米国やイスラエルへの抑止措置として位置づけられている。こうしてみると、米国およびイスラエルとイランの間では、双方の脅威認識を取り除くことは非常に困難であり、安全保障のジレンマを解消することは容易ではない。こうした中で長期的にみて、地域の秩序や核管理体制を構築していくことができるのか、お考えなどお聞きしたい。

また短期的なことで、今回の戦闘の落としどころがどこになるのか。米国、イスラエル、イランにおいて、それぞれ自分たちが勝利したという状況をみせなければ国内的に難しい状況に陥るわけで、反対に相手が勝利したという状況にさせるわけにもいかない。停戦に至るには、それぞれが自らの勝利を主張しうる説明が必要になるわけであるが、そのようなことは可能なのか。

【溝渕准教授】

イスラエルとイランに関しては、両国が消滅することは無論あり得ず、和解や国交正常化というのも予見する未来においては不可能である。したがって、結局のところ両国は冷戦期の米ソのように一定の秩序の下で共存していかざるをえないのであり、今後も安全保障のジレンマは続くだろうが、互いに抑止し合う勢力均衡を慎重に維持していくほかないのではないか(制度による補強があればなお良いが)。

今回の戦闘を停止する落としどころは非常に難しい。例えば米国では、イランに求める無条件降伏というものの意味はトランプ大統領が決めるというような旨が広報されていた、このように、実際はどうであれトランプ大統領がイランを無力化したと公言して攻撃をやめる、というようなシナリオになるのではないか。

【菊池常務理事】

今回のイラン攻撃に対して、日本国内では「米国の戦争に日本が巻き込まれる」というような観点から議論されることが多いが、実際にイランが核兵器をもってしまうことはどういうことなのか、核不拡散に対して日本が何をすべきなのか、などの観点から論ずることも必要なわけであり、日本が国際社会の秩序を維持するために、何をすべきで、何をすべきでないのか、その一方で何ができて、何ができないのか、そして今回の事態においてはどう行動するのか、という議論も深めていく必要があるだろう。

(3)質疑応答

他に、視聴者から「イラン国内で、現在の体制に対する反感が高いわけであるが、本当に体制転換は起こらないのか」、「今回の戦闘に対して中国の関与はどうなるか」など様々な質問が出され、それらへの返答がなされた。

以上
文責:事務局