高市自民圧勝後の日本と世界
2026年3月2日
坂本 正弘
日本国際フォーラム上席研究員
Ⅰ.高市自民の圧勝
II.高市政権出現と日本政治の革新
1.自民・維新連立による保守政治の深化
令和 7 年 10 月、自民党は党勢混迷の中、初めて女性総裁を誕生させたが、起死回生のドラマの面があり、自民党の生存能力の高さを示したといえる。しかし、高市総裁の出現は公明党からの 4 半世紀続いた連立解消を結果し、政局の更なる混迷にも見えた。だが、公明の制約から解放され、維新との連立によって、日本保守の革新の道が開けた。
自民・維新の連立合意書は 12 項目に及ぶが、安保 3 文書の改訂、武器輸出の促進、原潜開発、スパイ防止法、情報機能の拡大、憲法改正など、自公では作成できないものがある上、政府効率化局設置、給付付き税額控除や社会保障改革など広範である。維新主張の副首都圏構想や議員定数削減も入っているが、高市総裁の主張も色濃く出ており、自民党内部を抑え、日本政治の保守化を進めた意義は大きい。連立合意書は、その後の総合経済対策をはじめ、高市政権の諸政策に生かされ続けるが、第 2 次高市政権の所信表明演説でも強調された。絶対多数の自民党にかかわらず、高市首相が入閣入りを求めるのは、維新との連立が自民党の保守性を支援する役目を持っているからだと考えられる。
2.総合経済対策と補正予算・26 年度予算
高市政権は、2025 年 11 月末、「「強い経済」実現する総合経済政策」を閣議決定したが、その内容は 12 月 17 日成立の補正予算及び 26年度予算案に組みこまれ、その後の衆議院総選挙の主張となった。
総合経済対策では、日本の現状を①デフレ・コストカット型経済から投資と生産性向上の成長型経済への移行期と認識し、②、「責任ある積極財政」により、日本の底力を引き出し、潜在成長力を引き上げ、強い経済を目指す。官民力を合わせ、社会課題の解決の投資により、リスクを最小化し、先端技術を開花させる。このための 3 つの柱とは:①「生活の安全保障・物価高への対策」②:危機管理投資と成長投資による「強い経済」の実現、更に ③:防衛力と外交力の強化を目指すとした。
3.異色・巧妙な高市外交
首相就任直後ながら、続く外交日程での卓越した行動は高市首相の人気を一気に引き上げた。トランプ大統領との米空母・ジョージワシントン号での演説に続く、ガッツポーズ、日アセアン首脳会議、韓国での APEC 首脳会議、習主席との首脳会談などに続き、11 月のG20 首脳会議での巧妙な外交により、ごく短期間に世界での目覚ましい外交デビューを果たしたことになる。その後の奈良での韓国李大統領とのドラム外交は意表を突き、伊メローニ首相との深い交流やスターマー英首相との儀仗礼付き会談も、高市首相の異色、巧妙な外交を示した。今回の、高市選挙の圧勝に関する強い国際的反響は、首相の人気の反映だが、国内基礎を固め、長期政権への道を開いたことへの評価でもあり、高市首相の対外的影響力を大きく高めたことになる。
さらにいえば、片山さつき財務大臣のダボス会議での成果、小野田紀美大臣の活躍など女性閣僚の活躍が目立つが、小泉防衛大臣の国際的活動も効果的である。本年も日米首脳会議、G7、アセアン首脳会議の他、APEC 首脳会議が中国深圳で、G20 が米マイアミで行われるが、世界の中で花開く高市日本外交への期待が高まる。
III.一強高市政策の課題 ―国論を 2 分する問題
今後の政局だが、自民党、高市政権は一強の態勢をどう活用するか。次の参議院選は 2年半後だが、過去に大勝した中曽根内閣や小泉内閣も次の選挙で、大敗した歴史がある。高市総理は、選挙に勝利したと驕っている余裕はないとする。26 年 1 月 18 日より、一強の国会が始まり、閣僚全員留任の第 2 次高市内閣の発足となった。高市首相は全閣僚に指示文書を出し、日本と日本人の底力を信じ、強い経済、強い外交・安全保障を作るとするが、高市政権の重点政策は次の諸点である。
1.責任ある積極財政
高市首相は政権発足時から「責任ある積極財政」を主張して来たが、2 月 20 日の所信表明演説で、高市内閣の政策転換の本丸は「責任ある積極財政」だとした。その第 1 の柱は、成長・危機管理投資促進のため、多年度で管理する別枠予算方式の導入とする。第 2 に、給付税付き税額控除制度に関し、社会保障と税の一体改革について、国民会議で結論する。第 3 に、補正予算を組まない方式の予算編成を 27 年度予算から行うとするが、歳出の効率を高めるため、政府効率局を新設するとする。
第 4 に、さらに、日本政府はこれまで健全財政の目標として、PB(プライマリーバランス・基礎的財政収支)均衡を掲げてきたが、高市政権は「責任ある積極財政」の指標を PBから、債務残高の GDP 比に転換する。成長投資や減税の積極財政が、経済成長を高め、税収増を生じるとの主張も強めたが、25 年度補正予算、26 年度予算案を通じて、債務残高のGDP 比は低下していることを指摘した。しかし、円相場や国債市場は選挙前の少数与党時代には微妙な動きだった。防衛費増や食品減税などが、財政赤字を増やすと、PB を通じる財政状況判断を重視したためか、また、日本の債務残高の GDP 比も国際的にはかなり高いことを注目したためか、市場の動きは弱気だった。しかし、選挙での高市政権圧勝ののちの市場では円相場は上昇し、長期国債の金利も低下し、政権への信頼回復が見られる。
なお、高市首相は 26 年度予算について、政策の早期推進のため、本年度内の成立を期待している。
注:プライマリーバランス(PB)とは、国・地方財政のうち、公債関係の歳出入を除き、社会保障や公共事業など様々な行政サービスの政策的経費を税・税外収入で賄えているかを示す指標である。日本の PB は赤字が続いており、不足分は毎年国債の発行等で賄っている。
2.食品消費税と給付付き税額控除
高市首相は給付付き税額控除の導入までの2 年間に限り飲食料品消費税率をゼロとする方針で、超党派の国民会議で検討し、夏までには結論を得たいとする。飲食料品 2 年間減税は中低所得者向けの選挙公約であり、給付付き税額控除は中低所得者向けの給付と高所得者への減税を組み合わせた制度で米英でも採用されている。しかし、財務省のみならず、自民党の一部にも消費税の減免には一時的にせよ消極的な意見もあるとされる。8%の飲食料品消費税ゼロは年約約 5 兆円の減収になり、その財源はあるか、また、2 年後に簡単に 8%に復帰できるか? 給付付き税額控除制度は所得の把握が容易ではない、外食産業への悪影響についての懸念などがある。
片山財務大臣は、本年 6 月までに給付付き税額控除制度へのつなぎとして、厳密に 2 年間飲食料品消費税減税を受け入れる。5 兆円の財源については補助金、特別措置の見直し、税外収入などで捻出し、赤字公債は出さないとしたが、財務当局の保証は効果的である。
3.危機管理投資、成長投資と潜在成長力
高市内閣は、強い経済実現のため、担当閣僚と有識者からなる日本成長戦略会議を 25 年11 月に発足させたが、その柱は、危機管理投資と成長投資の促進である。危機管理投資は、経済安全保障の見地から、インフラを整備し、成長のリスクを減らすことが成長を支えるという観点で、食糧安全保障、エネルギー、国土強靭化(副都心構想も入る)、健康医療対策が入る。成長投資は 17 の戦略部門に分かれるが、AI、半導体、量子、情報発信、バイオ、造船、航空宇宙、海洋、医療、核融合などに対し、規制緩和、即時償却などの投資促進とともに人材育成、スタートアップ振興などの支援により官民の積極投資を引き出し、潜在成長力を高めるとする。
成長・危機管理投資の促進策は 25 年度補正予算に既に計上されているが、26 年度本予算案には、多年度別枠で管理する仕組みを導入するとする。経済成長に向けて、事業者が研究開発や設備投資に取り組みやすくするため、長期的予算や基金により、予見可能性を高め、民間の投資を引き出す狙いである。
アベノミックスも第 3 の成長の矢の引き出しに不十分であったのは民間企業の反応の消極性にあった。高市政策はこの苦い経験を踏まえてのものである。日本経済の現状は AI 投資の普及、半導体部門の活性化など希望が持てる部分もあるが、需要面もさることながら、人手不足という供給面の制約も浮上している。インバウンドは需要面から日本経済を活性化させるが、外国人労働者も 25 年 10 月で 287万人と労働力人口の 4%にのぼり、不可欠なものとなっており、その適宜な活用策も必要となっている。
4.3 文書改正、防衛力増強、インテリジェンス充実
22 年制定の安保 3 文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の早期改定は自民・維新連立合意文書でも述べられていた。世界の安全保障環境が悪化し、日本の役割が重要になる中、アジアでは中国の国防力の充実、北朝鮮の核開発など、日本の安全保障環境の一層の緊迫がある。日本の国防能力の充実が必要であり、高市政権は 25 年度中に防衛費 2%超を達成し、さらに 26 年度にも増強を続けるとする。その重点は、敵基地を攻撃する反撃能力、ドローン革命対応の無人兵器開発、航空宇宙対応、原潜保有、継戦能力の充実などがあるが、防衛産業基盤充実のため、武器輸出の解禁、国営工廠と国有施設民間操業も検討されている。
また、インテリジェンス機能拡充のため、スパイ防止法制を早期に成立させ、内閣情報調査室を「国家情報局」に格上げするとともに、対外情報庁・情報要員養成機関を創設し、日本の対外情報機能を強化することとしている。従来、日本のインテリジェンス機能の弱体ぶりが指摘されてきたが、その充実は対外関係上の秘密保持からも緊急の課題となっている。
5.憲法改正
自民党の圧勝により、衆議院では憲法改正発議が可能だが、既にみたように、参議院での 2/3 獲得には困難がある。高市総理は、9 条改正は自民党の党是とし、各派の協力を得ながら改正案を発議し、賛否を問う国民投票が行われる環境が作れるように粘り強く取り組むとする。
IV.激動・混迷の世界 ―世界の中で咲きほこる日本
1.世界の混迷
以上により、日本の底力を発展させ、世界の真ん中で咲きほこることができるかであるが、既に述べたように、世界の情勢は激動・混迷である。まず、トランプ政権の齎す波乱-ドルと軍事力を背景とするアメリカ第一主義は関税賦課の混乱を生み、グリーンランド割譲を含む西半球支配、大国主義外交は、欧州諸国との分離を強め、カナダ・カーニー首相の中堅国連携論を生んだ。ロシアは打ち続く、ウクライナ戦争で巨大な被害を被り、中露関係は逆転し、大国失格である(坂本 2026)。トランプ関税を跳ねのけた中国にはG2 の呼び声もあるが、国内不況と世界との貿易摩擦を強める中で、習政権は台湾併合への意欲を示し、高市首相への非難は続く。
2.日本の強み
国際情勢は激動だが日本に不利なものだけではない。第一に、近く、3 月 19 日、日米首脳会談が行われる予定だが、対米投融資 5 千 5百憶ドルの第一弾(ガス発電、テキサス州原油積出港整備、人工ダイヤの製造)が合意され、多数の日本企業の参加が見込まれ、レアアース共同開発の提案もある。また、防衛費の増額も行っており、対中関係でも、アメリカも台湾を援助しており、日米関係が悪化する状況にはない。
第 2 に、TPP を主導し、インド太平洋協力を主張する日本の実績が、豪州、韓国、アセアンなどアジア・太平洋諸国のみならず、欧州諸国も引き付けている。日英関係は準同盟ともいわれ、イタリアとともに戦闘機の開発を務めるが、EU や仏、独とも良好な関係にあり、カナダ首相の中堅国結束論にも通じる状況がある。
第 3 に、何よりも、技術力、経済力を持ち、だれにも警戒されない強みがある。中国の一帯一路戦略には、政治の意思があり、被援助国、世界の警戒があるが、日本の経済援助・交流には、アフリカ、アセアン、中東、南米諸国の警戒はない。
最後に、自民圧勝・長期安定の高市政権は日本の強みであるが、更に首相の異色の外交巧者ぶりがその強みを増している。世界の中で咲きほこる日本外交への期待である。
《参考文献》
- 坂本正弘(2026)「令和 8 年の激動―権威主義国・ロシアの波乱」世界経済評 論『IMPACT NO.4169』 2026.2.2
- 高市早苗(2021)『美しく、強く、成長する国へ-私の『日本経済強靭化計画』』WAC
1.圧勝
令和 8 年の日本政治は、高市首相の衆議院解散に始まり、2 月 8 日の総選挙となったが、表 1 のごとく自由民主党が総議席 465 の 3 分の 2 を超える 316 を獲得する歴史的大勝利を得た(他党に分与した比例の 14 を加えると330 となる)。議会運営において絶対多数といわれる 261 をはるかに超え、参議院の議決を覆す 310 を上回るものである。連立を組む日本維新も 36 と 2 議席増やし、参政、みらいも2 桁の躍進だが、対立の中核の中道改革連合は49 と選挙前の 167 から激減の崩落ぶりであり、共産党や社民党も低迷である。
2.圧勝の原因
高市圧勝の原因として、果敢な年明けの短期決戦や SNS 利用、更に、「高市か否か」を迫るような選挙戦術や、対立の中道改革連合の準備不足などの要因も寄与したであろうが、基本的には、令和 7 年 10 月以来の、初の女性宰相としての、日本を強く、豊かにするという一貫した強い姿勢の上に、異色の、巧妙な外交力によって日本の国際的地位を高めている業績が効果したものと考える。高市首相は選挙で 49 の演説場で熱弁をふるったが、いずれの場所も自民党員だけでなく多くの人が集まり、大雪のなかながら、若者や無党派層が投票率を引き上げた。さらに言えば、中道連合の惨敗だが、準備不足よりも、厳しくなる国際情勢の中、日本の世論の軸は保守に移動し、同党の「平和主義」が通じなくなる状況の反映だということは、共産党や社民党の低迷が裏書きする。
日経とテレビ東京が行った、2 月 13 - 15 日の世論調査によれば内閣支持率は 69%の高率で、 1 月調査の 67%から増加であり、高市人気の継続がみられるが、自民党の支持も41%と参議院選後の 25 年 7 月の 24%から倍増であり、中道改革 8%、国民民主 7%、参政、みらい 6%、維新5%と対照的である。選挙前には高市人気は、自民党の支持につながらないとの指摘があったが、この世論調査からは高市人気が自民党への支持も大きく高めたことになる。
3.高市構想の進展―維新の役割
高市首相の政権構想は、既にその著書『美しく、強く、成長する国へ-私の「日本経済強靭化計画」』(2021)に述べられているが、令和 7 年 10 月の総裁選、公明の離脱、維新との連立を経て(連立合意書)、保守の流れが強化、発展し、10 月 21 日の所信表明演説に結実している。その後、「「強い経済」を実現する総合経済対策」が出されたが、その骨子は、「責任ある積極財政」を推進し、3 つの柱である、①生活の安全保障、物価対策、②危機管理、成長投資の促進、③防衛力と外交力の充実により、「強い経済」を実現する主張に示される。総合経済対策は 12 月 17 日成立の補正予算とその後の 2026 年予算案に組み込まれ、現在推進されている。以上から見ると、「サナエノミックス」の根は深く、維新との交流を経て、保守を強め、一貫した主張として、今回の選挙でも効果を発揮したといえよう。
4.圧勝の齎したもの ―高市首相の影響力増大
自民党は、衆議院で圧勝したところで、常任委員会 17、特別委員会及び審査会 10 の計27 のうち、懲罰委員会と消費者問題審査会の2 を中道改革に充て、与党がそれ以外の 25 をとった(自民が常任委員会 15 を含む 23、維新は常任員会 1 を含む 2)。自民党は議院運営委員会はじめ主要な委員会・審査会の委員長を握ったが、特に、これまでてこずっていた野党支配の予算委員会、財務金融委員会、憲法審査会などを奪還した状況で、強い主導獲得した。参議院では今なお与党は過半数もないが、否決された議案は衆議院 2/3 で可決することができ、法案の審議はスムースになる。唯一、憲法改正の提案には、参議院の 2/3を得ることは容易ではないが、多数派工作の可能性がないわけでもない。なお、内閣不信任提案も 51 票を超える野党が不在なので難かしくなる。
首相の決断が今回の劇的勝利をもたらしたところから、首相の権力、首相官邸の力も強まり、対内閣、対国会とのバランスが有利になるとの観測がある。首相の自民党への影響力は強いとみられるが、議員数は衆議院 316+参議院 101 = 417 と巨大であり、どのような統御となるかである。衆議院の 316 の内訳は、前議員 195、元議員 55、新人 66 であるが、特に新人の教育をどうするか、派閥復活が必要との意見もある。
5.一強高市政権の課題
今後の流れとして、28 年夏の参議院選挙まで国政選挙はない状況で、卓越の一強となった高市政権がその政治力を今後どう生かすかが問われている。高市総理は、選挙後の記者会見で、勝利に浸っている余裕はないとして、まず、26 年度予算と予算関連法案を早急に通す、食品消費税 2 年間ゼロを給付付き税控除制度につなげる、憲法改正、インテリジェンス機能の強化、安全保障関連 3 文書の見直しの他、定数削減を進めるとした。
高市政権の大勝利は、強い政権の誕生として、国際的反響を呼び、トランプ氏をはじめイタリア、EU など欧州諸国、韓国など首脳からの祝意とともに、各国のメディアが大きく取り上げる異例ぶりであるが、その背景には高市首相の外交デビュー以来の高い国際的評価がある。中国からは厳しい言動が続くが、強い関心の表れともいえる。しかし、現在、世界は大変動の時期にある。なお続く 2 つの戦争、トランプ大統領による米国第一主義、米欧関係の混迷、中東の動乱、中国の地域覇権の追求、北朝鮮の核武装などがある。この中で、日本は高市政権への高評価を支えに、世界の真ん中で咲きほこる日本外交を実現することができるか?