第215回外交円卓懇談会
The Day After: ロシア・ウクライナ戦争の和平合意の可能性
2026年2月18日(水曜日)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
日本国際フォーラム等3団体の共催する第215回外交円卓懇談会は、ウクライナの外交・安全保障政策の立案に関与している同国の民間シンクタンク「ウクライナ・プリズム」の訪日団をお迎えし、そのうちHanna Shelest同外交政策評議会ディレクターおよびDmytro Shulga 国際ルネッサンス基金(IRF)ディレクターを講師に、下記1.~6.の要領で開催されたところ、その概要は下記7.のとおりであった。
1.日 時:2026年2月18日(水)16:00〜17:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室における対面、オンライン形式(Zoomウェビナー)
3.テーマ:The Day After: ロシア・ウクライナ戦争の和平合意の可能性
4.講 師: ハンナ・シェレスト(Hanna Shelest)
「ウクライナ・プリズム」外交政策評議会ディレクター
ドミトロ・シュルハ(Dmytro Shulga) 国際ルネッサンス基金(IRF)ディレクター
5.モデレーター:杉田弘毅 共同通信客員論説委員/明治大学特任教授
6.出席者:34名
7.講師講話概要
2名による講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われた。
(1)ハンナ・シェレスト(Hanna Shelest)「ウクライナ・プリズム」外交政策評議会ディレクター
(2)ドミトロ・シュルハ(Dmytro Shulga) 国際ルネッサンス基金(IRF)ディレクター
「ウクライナ戦争の終結シナリオと正義・安全保障の課題」
4年前に始まったウクライナ戦争がいかに終結し得るのか、その現実的なシナリオと課題についての見解を述べたい。
まず、戦争の終わり方にはいくつかの可能性があると考えている。①一方の全面的敗北、②合意と妥協による政治的解決、③正式条約を伴わない停戦(凍結状態)のような形もあり得る。しかし、どの形をとるにせよ、単に戦闘を止めるだけでは十分ではない。
特に重要なのは「正義」の問題である。米国ではこの論点への関心が必ずしも高くないと感じているが、核心的な問題である。本件は双方に等しく責任がある紛争ではない。侵略の責任は明確にロシアにある。この点を曖昧にしたままの解決は、将来的な不安定化を招きかねない。この点を明確にするため、欧州評議会を中心に特別法廷設置の議論も進められており、日本を含む国際社会の関与が重要である。
次に賠償の問題である。原則として、ロシアが戦争による損害を賠償すべきである。今年時点で被害総額は1兆ドル規模に達する可能性も指摘されている。ただし、仮にロシアが全額を負担できない、あるいは負担しない場合、国際社会、とりわけ世界銀行や国連といった国際機関が一定の役割を担う現実的シナリオも想定せざるを得ない。しかしそれは、ロシアの責任を免除することを意味してはならない。
安全保障の問題も極めて重要である。停戦交渉において、ロシアはウクライナ軍の大幅な規模縮小を要求しているが、ウクライナ側は単なる兵力数の問題ではなく、能力制限を受けない形での実効的な安全保障を重視している。私たちは、この戦争を二度と繰り返してはならない。そのための理想的な選択肢の一つは、NATOのような外部の安全保障枠組みに依拠することである。しかし、過去から得た最大の教訓は、自らが戦う能力を持たなければならないという点である。国際社会の支援は重要だが、それだけに依存することはできない。現在、ウクライナは自国生産の兵器能力を強化しており、特定国の供給に全面的に依存しない体制を構築しつつある。これは極めて重要な進展である。ロシアは圧倒的な兵力規模を有しているが、能力と技術革新によってその差を補うことが可能である。
ロシアの行動は、ウクライナだけでなく、欧州諸国や日本を含むロシア周辺国すべてに対する脅威であると認識している。そのため、ロシアの経済的基盤を弱めることは、これら諸国にとっても共通の利益である。欧州連合(EU)諸国において制裁政策が短期的措置からより長期的戦略へと移行しつつあるのは、その理解が広がっている証左である。
最後に、ウクライナが持続的に自国の能力を維持し、迅速な復興を実現するためには、強固な経済基盤が不可欠である。その観点から、EU加盟は極めて重要な意味を持つ。加盟が進めば、より多くの民間投資が呼び込まれ、復興と成長の加速につながる。現在、この点について欧州側と活発な議論を行っている。以上のとおり、戦争の終結は単なる停戦ではなく、正義の確立、責任の明確化、安全保障体制の強化、そして経済的再建を含む包括的な枠組みでなければならないと考えている。
(文責、在事務局)
「ウクライナ戦争の現状と持続的和平の条件」
「ウクライナ・プリズム」は現在、グローバル・アウトリーチとパートナーシップ構築を進め、ウクライナの実情と優先課題を国際社会と共有することを重視している。まずは、日本政府および日本国民によるウクライナに対する継続的支援に対し、この場を借りて心より謝意を申し上げたい。ウクライナの視点から、戦争の現状と和平をめぐる課題について述べていく。
開戦以降、国際社会ではたびたび早期停戦への期待が高まってきた。とりわけ米国における政治的発言を契機に、「24時間以内」「1か月以内」「100日以内」といった形で終戦の見通しが語られたこともあった。しかし現実には、戦闘は長期化し、状況は依然として和平に向かっているとは言い難い。そもそも「和平」とは何を意味するのか、そしていかにして戦争の再発を防ぐのかという問いが、いま改めて重要になっている。
現在の戦況について言えば、ロシア側は前進を強調しているものの、ウクライナ軍の抵抗によりその進軍は限定的であり、多大な人的損失を伴いながらも小規模な前進にとどまっている。ロシアは軍事的前進のみならず、交渉を有利に進めるための情報戦も展開しており、戦果を誇張する発信が繰り返されている側面がある。実際に、直近ではウクライナ側が一部地域を奪還する動きも見られている。ただロシアは戦場での大規模前進に苦戦するなか、エネルギー施設や暖房インフラへの攻撃を強化している。それによりウクライナは、氷点下の気温のなかで数日間にわたり電力や暖房が停止する事態も発生しており、市民生活に深刻な影響を及ぼしている。
軍事技術面では、ロシアはドローン運用などで一定の適応を示しているが、革新的技術や高度な装備の分野では外国への依存を強め、長期的な自立的戦争遂行能力には限界が見え始めている。特に中国製部品・機材への依存が拡大しており、中国は結果としてロシアの戦争継続能力を支える「重要支援者(enabler)」となっている。ただし中国は欧州市場との経済関係も重視しており、ロシアに対して一定の慎重さも見せている。他方で、米国が制裁強化を示唆するたびにロシアが「和平の用意がある」と発信する構図も見られ、ロシアが国際政治の力学を踏まえて戦術的に対応している現実も無視できない。
和平交渉に関しては、そもそもロシアとウクライナでは和平に対する前提認識や交渉の論理そのものが異なっている。ウクライナは最も大きな犠牲を払っている当事国として当然和平を望んでいるが、その前提はロシア軍の撤退である。軍事的制約のもとで交渉のテーブルにつくことは現実的判断であるが、それは原則的立場の放棄を意味しない。捕虜交換のような実務的合意も重要であり、たとえ人数が限られていたとしても、一人ひとりの命を重んじる姿勢を貫いている。なによりロシアはウクライナ国家の解体を志向しているとの認識を持たざるを得ない。ロシアによる占領地域では、ウクライナ語の使用を理由とした拘束や書籍の焼却、児童の再教育などが行われており、文化的・民族的同化を強制する政策が進められている側面がある。また、ロシアが要求している地域の一部は現在の防衛線の要衝であり、これを譲ればさらなる侵攻を容易にすることになるため、受け入れることはできない。
持続的な安全保障のためには、実効的な軍事的抑止力が不可欠である。ウクライナにとって現実的な枠組みは、NATOである。同機構は防衛同盟であり、加盟は侵略を抑止するための手段である。また、戦後復興費用は侵略を行ったロシアが負担すべきであると考える。さらに、停戦後あるいは交渉過程においてロシアの行動を監視する国際的枠組みが必要である。特定の一国ではなく、国際社会全体が関与する監視体制を構築することで、本件を「ウクライナ対ロシア」の問題に矮小化するのではなく、国際秩序全体の問題として位置づけるべきである。
総じて、短期的な楽観論は現実的ではない。しかし、持続的和平のためには、主権と領土の原則、安全保障の担保、復興責任の明確化、そして国際的関与の制度化という複合的条件が不可欠であると考えている。