公開シンポジウム
「ウクライナ戦争と欧州安全保障」
2026年1月22日
日本国際フォーラム事務局
日本国際フォーラムは、一般社団法人霞関会とともに、日本財団共催のもと、さる1月22日に複数の駐日欧州連合(EU)各国大使などをパネリストに、公開シンポジウム「ウクライナ戦争と欧州安全保障」を開催した。その概要は以下のとおりである。
1.日 時:2026年1月22日(木)14時30分から16時45分まで
2.開催場所:笹川平和財団国際会議場
3.参 加 者:約200名
4.プログラム
モデレーター: 渡邊 啓貴 JFIR上席研究員/帝京大学教授/東京外国語大学名誉教授
開 会(主催者挨拶) :
渡辺 まゆ JFIR理事長
川村 泰久 霞関会理事長
基 調 報 告 :
ジャン=エリック・パケ 駐日欧州連合大使
ユーリ・ルトヴィノフ 駐日ウクライナ大使
パヴェウ・ミレフスキ 駐日ポーランド大使
タンヤ・ヤースケライネン 駐日フィンランド大使
ヴィクトリア・リー 駐日スウェーデン大使
マルティン・フート 駐日ドイツ大使館 副代表
登壇者によるパネルディスカッション :
上記基調報告者及び以下の討論者が登壇
柳 秀直 前駐ドイツ大使
松田 邦紀 前駐ウクライナ大使
渡邊 啓貴 JFIR上席研究員/帝京大学教授/東京外国語大学名誉教授
伊藤 武 東京大学教授
閉 会:
5.パネリストの略歴:
【モデレーター】
渡邊 啓貴日本国際フォーラム上席研究員/帝京大学教授/東京外国語大学名誉教授
1978年東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業、1983年慶応義塾大学大学院博士課程修了。1986年パリ第一大学パンテオン・ソルボンヌ校現代国際関係史専攻博士課程修了。その後、東京外国語大学助教授、同教授等を経て、1999年同総合国際学研究院教授、2011年同国際関係研究所所長。その間、高等研究大学院(パリ)・リヨン高等師範・ボルド―政治学院、ジョージワシントン大学エリオット・スクールなどで客員教授、在仏日本国大使館広報文化担当公使等、外交専門誌『外交』・仏語誌『Cahiers du Japon』編集委員長などを歴任。1992年『ミッテラン時代のフランス』で渋沢クローデル賞受賞。主な著書に『米欧同盟の協調と対立』『ポスト帝国』『アメリカとヨーロッパ』など、主な編著に『ヨーロッパ国際関係史』『ユーラシア・ダイナミズムと日本』など。専門はヨーロッパ国際関係論。
【開会(主催者挨拶)】
渡辺 まゆ日本国際フォーラム理事長
千葉大学卒業後、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。2000年日本国際フォーラム研究助手、2007年同主任研究員(専門はエピステミック・コミュニティと文化外交)。2011年同常務理事、2018年同副理事長、2019年より現職。現在、グローバル・フォーラム執行世話人、東アジア共同体評議会議長を兼任。
川村 泰久一般社団法人霞関会理事長
1981年一橋大学法学部卒業、1984年米国アマースト大学卒業。1981年外務省入省、2002年EU日本政府代表部参事官、2012年在ニューヨーク総領事館首席領事、2013年在インド大使館次席公使、2015年外務報道官(戦略的対外発信とパブリックディプロマシー推進)、2017年国際連合日本政府代表部特命全権大使(安全保障理事会非常任理事国として北朝鮮問題、平和維持活動、平和構築などに関与)、2019年駐カナダ特命全権大使(自由で開かれたインド太平洋に向けての協力推進)、2022年日本ユネスコ国内委員会委員(現職)、同年霞関会理事、2025年から理事長。
【基調報告】
ジャン=エリック・パケ駐日欧州連合大使
2022年秋より駐日欧州連合(EU)大使を務める。パケ大使はこれまで欧州委員会でさまざまな役職を歴任し、多様な分野でEUの政策形成に貢献してきた。2018年~2022年まで研究・イノベーション総局長として、「欧州イノベーション会議」の創設に関わり、主要な環境・社会・経済上の課題の解決を目指す複数の「EUミッション」の立ち上げなど、研究・イノベーション分野における組織を挙げた取り組みを推進した。欧州近隣政策・拡大交渉総局西バルカン局長や駐モーリタニアEU大使(2004~2007年)を務め、豊富な国際経験を積む。2015年~2018年まで、欧州委員会の副事務総長(より良い規制・政策調整担当)として、「欧州グリーンディール」に関する全ての政策分野を担当した。欧州横断運輸ネットワーク(TEN-T)政策の立案を主導し、欧州の輸送インフラ政策や投資戦略、単一欧州鉄道領域および内陸水路・港湾政策も担当した。業務においては、常に共創と組織的な変革を意思決定プロセスの中心に据え、また公共政策の課題設定に一般市民がより関与すべきだとの信念を持つ。
ユーリ・ルトヴィノフ駐日ウクライナ大使
1996年にタラス・シェフチェンコ記念キーウ国立大学外国語学部東洋学科を卒業。2006年にウクライナ外務省付属ヘンナジー・ウドヴェンコ外交アカデミーを修了し、外交政策学の修士号を取得。1995年にウクライナ外務省に入省し、1995年から1998年まで同省アジア太平洋・中東・アフリカ局アジア太平洋課において、アタッシェ、三等書記官および二等書記官を歴任。1998年から2004年まで在日ウクライナ大使館にて三等書記官および二等書記官として勤務。2006年から2007年までは、ウクライナ外務省第三地域局アジア太平洋課にて一等書記官を務めた。2007年から2012年まで在日ウクライナ大使館にて一等書記官および参事官を歴任。2012年から2015年まで、ウクライナ外務省において東南アジア・オセアニア課長を務め、アジア太平洋・東南アジア局第四地域総局、ならびに東南アジア・アジア太平洋局アジア太平洋・コーカサス・アフリカ総局に所属。2015年から2021年まで在日ウクライナ大使館にて公使参事官を務めた。2022年から2023年まで、ウクライナ外務省国家儀典局副局長を務めた。2023年から2025年まで、ウクライナ大統領府において欧州統合課長(欧州・大西洋統合局)を務め、続いて欧州・大西洋統合総局副局長を歴任。2025年9月23日に来日した。
パヴェウ・ミレフスキ駐日ポーランド共和国大使
1975年生まれ。1999年アダム・ミツキェヴィッチ大学にて中国学修士号を取得後、1996年より首都師範大学(中国)、続いて1997年より廈門大学(中国)に留学。2003年ワルシャワ経済大学国際経済研究室研究課程(PG Dip)修了。1999年ポーランド共和国外務省入省。2000年よりアタッシェ、三等書記官としてアジア・太平洋局にてアジア・太平洋諸国問題に従事。2003年から2009年にかけ駐中華人民共和国ポーランド共和国大使館にて二等書記官、一等書記官、参事官として勤務。2009年よりポーランド共和国外務省アジア・太平洋局 東アジア・太平洋課長、2011年よりアジア・太平洋局副局長を務める。2013年に駐オーストラリア・ポーランド共和国大使に就任する。この間、駐パプアニューギニア・ポーランド共和国大使を兼任。2017年ポーランド共和国外務省アジア・太平洋局局長に就任。2019年10月に駐日ポーランド共和国大使として来日。
タンヤ・ヤースケライネン駐日フィンランド大使
1995年外務省入省。在ハンガリー大使館二等書記官、在シリア大使館副代表兼一等書記官、外務省政治局欧州共通外交安全保障課副欧州連絡官・参事官、外務大臣上級顧問、在英大使館公使兼副代表、駐チュニジア大使(リビア兼轄)、外務省中東・北アフリカ課シリア危機特別代表(大使)、外務省政治局副局長を歴任後、2022年9月から駐日フィンランド大使。
ヴィクトリア・リー駐日スウェーデン大使
1995年外務省入省。クロアチア・ザグレブ、ブリュッセル・EU代表部、イタリア・ローマ、中国・北京に駐在。その後、中国・上海総領事、駐チェコ・スウェーデン大使、スウェーデン外務省広報部長などを歴任。スウェーデン・ストックホルム大学法学修士(1993年)、オランダ・アムステルダム国際関係学院国際関係論修士(1994年)、スイス・フリブール大学児童権利修士(2005年)。
マルティン・フート駐日ドイツ大使館副代表
マーティン・フート駐日ドイツ大使館副代表は、1991年にドイツ連邦外務省に入省する以前、コンスタンツ大学で法律を学ぶ。外務省入省後、中東、ジュネーブ、ニューヨークでさまざまな役職を務める。2015年から2018年までドイツ駐レバノン大使、2019年から2021年までEU駐イラク大使を務めた。
【パネルディスカッション】
柳 秀直前駐ドイツ連邦共和国日本大使
1982年東京大学教養学部(国際関係論)卒業、外務省入省。1983-85 西独コンスタンツ大学に留学以来、計5回、15年以上にわたりドイツに勤務。外務本省では経済局、朝鮮半島、日米安保、経済協力局,国際情報局、総合政策局などで勤務。2004年 在インド大使館公使(経済)、2006年 在ドイツ大使館公使(政務)、2009年 内閣官房に出向。 2012年~2014年 領事局・軍縮科学技術部審議官、南部アジア部審議官(ASEAN諸国担当)、2014年4月 ミュンヘン総領事、2017年12月 駐ヨルダン特命全権大使、2020年11月~2024年10月 駐ドイツ特命全権大使。2024年11月退官。
松田 邦紀前駐ウクライナ大使
1982年東京大学教養学部卒業、同年外務省入省。以降、在米国日本国大使館一等書記官、在ロシア日本国大使館参事官、大臣官房海外広報課長、日本国際問題研究所主任研究員兼研究調整部長、在イスラエル日本国大使館公使、在デトロイト日本国総領事館総領事、在香港日本国総領事館総領事(大使)、駐パキスタン特命全権大使などを歴任後、2021年10月から2024年10月まで駐ウクライナ特命全権大使を務めた。退任後は、戦時下の外交経験を『ウクライナ戦争と外交』として出版し、現在も講演などで発信を続けている。
伊藤 武東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻・教授
1995年・東京大学法学部卒業、1997年・同大学院法学政治学研究科修士課程修了、同博士課程進学・日本学術振興会特別研究員(DC1)採用[助手採用のため1998年退学・辞退]、1998年〜2002年・東京大学社会科学研究所助手、東京大学大学院法学政治学研究科特任研究員・特任講師を経て、2006年専修大学法学部専任講師、准教授、教授。2018年東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻・准教授、2019年より現職。その間、フィレンツェ大学歴史学部客員研究員、ヨーロッパ大学院(EUI)シューマンセンター客員研究員を歴任。主な編著書に『イタリア現代史』『近代イタリアの歴史』『専門性の政治学』『ヨーロッパのデモクラシー』『ヨーロッパ・デモクラシーの論点』など。専門はヨーロッパ比較政治・イタリア政治。
(プログラム登場順)
6.議論概要:
本シンポジウムでは、ロシアによるウクライナ侵略を起点として、欧州安全保障秩序の構造的変容、戦争の長期化がもたらす国際秩序への影響、ならびに欧州とインド太平洋地域の安全保障の相互連関について、実務・政策の第一線に立つ登壇者による包括的な議論が行われた。
基調報告においては、まず欧州連合(EU)側から、ロシアの侵略は地域的紛争にとどまらず、主権尊重、国境不可侵、法の支配といった戦後国際秩序の根幹に対する挑戦であるとの認識が示された。EUおよび加盟国は、ウクライナ支援を通じて欧州自身の安全を守るという立場を明確にし、防衛能力強化、制裁措置、凍結資産の活用、さらには将来の安全の保証を視野に入れた包括的対応を進めていることが説明された。
ウクライナ側からは、同国が直面する戦争の性格が単なる領土防衛ではなく、国民が自らの進路を選択する権利を守る闘いであることが強調された。和平に向けた議論が進む中にあっても、主権、領土一体性、安全保障保証という「譲れない原則」が存在すること、また不十分な和平は将来の再侵略を招く危険があるとの強い警鐘が鳴らされた。併せて、ウクライナは支援の受け手であるだけでなく、実戦経験と防衛産業を通じて欧州全体の安全保障に貢献し得る存在であるとの見解が示された。
ポーランド、フィンランド、スウェーデン、ドイツの各登壇者からは、ロシアの侵略が各国の脅威認識を根本的に変え、防衛政策、NATOとの関係、国防投資、社会全体のレジリエンス強化を促している現状が報告された。特に、北欧・中東欧諸国においては、ロシアを長期的な安全保障上の脅威と位置づけ、防衛費の大幅な増額やNATO加盟・関与の強化を通じて、抑止力の再構築が進められていることが共有された。また、ハイブリッド攻撃、サイバー攻撃、重要インフラへの脅威といった非軍事的手段への対応も、欧州安全保障の重要な課題として指摘された。
パネルディスカッションでは、戦争終結の条件や和平プロセスの現実性について意見が交わされ、短期的な妥協よりも、持続可能で正義にかなった和平の重要性が確認された。欧州の結束が揺らぐことへの懸念も示される一方で、全体としては、欧州が「戦略的覚醒」を遂げつつあり、安全保障における主体性と責任をより強く担おうとしているとの評価が共有された。
さらに、議論を通じて、ウクライナ戦争は欧州に閉じた問題ではなく、インド太平洋地域を含む国際社会全体の安全保障と不可分であるとの認識が繰り返し強調された。「今日のウクライナは明日の東アジアになり得る」との問題意識のもと、日本と欧州諸国が法の支配に基づく国際秩序を維持するために協力を深める必要性が確認された。
総じて本シンポジウムは、ウクライナ戦争を通じて顕在化した欧州安全保障の変容を多角的に検討するとともに、その経験と教訓が国際秩序および日本外交にとって持つ意義を明らかにする場となった。
なお、会場にはズィグマールス・ズィルガルヴィス駐日ラトビア大使、マルチン・クルチャル駐日チェコ大使、オーレリウス・ジーカス駐日リトアニア大使、ヤニス・ミハイリディス駐日キプロス大使をはじめ、在京の欧州大使館、また各国の大使館からも多数の関係者が参加した。
シンポジウムの終了後には、登壇者、主催、共催団体の関係者の参加によるカクテル・レセプションが開催され、尾形武寿日本財団会長の乾杯のあと、懇親が深められた。
以上、文責在事務局