基調報告においては、まず欧州連合(EU)側から、ロシアの侵略は地域的紛争にとどまらず、主権尊重、国境不可侵、法の支配といった戦後国際秩序の根幹に対する挑戦であるとの認識が示された。EUおよび加盟国は、ウクライナ支援を通じて欧州自身の安全を守るという立場を明確にし、防衛能力強化、制裁措置、凍結資産の活用、さらには将来の安全の保証を視野に入れた包括的対応を進めていることが説明された。

ウクライナ側からは、同国が直面する戦争の性格が単なる領土防衛ではなく、国民が自らの進路を選択する権利を守る闘いであることが強調された。和平に向けた議論が進む中にあっても、主権、領土一体性、安全保障保証という「譲れない原則」が存在すること、また不十分な和平は将来の再侵略を招く危険があるとの強い警鐘が鳴らされた。併せて、ウクライナは支援の受け手であるだけでなく、実戦経験と防衛産業を通じて欧州全体の安全保障に貢献し得る存在であるとの見解が示された。

ポーランド、フィンランド、スウェーデン、ドイツの各登壇者からは、ロシアの侵略が各国の脅威認識を根本的に変え、防衛政策、NATOとの関係、国防投資、社会全体のレジリエンス強化を促している現状が報告された。特に、北欧・中東欧諸国においては、ロシアを長期的な安全保障上の脅威と位置づけ、防衛費の大幅な増額やNATO加盟・関与の強化を通じて、抑止力の再構築が進められていることが共有された。また、ハイブリッド攻撃、サイバー攻撃、重要インフラへの脅威といった非軍事的手段への対応も、欧州安全保障の重要な課題として指摘された。

パネルディスカッションでは、戦争終結の条件や和平プロセスの現実性について意見が交わされ、短期的な妥協よりも、持続可能で正義にかなった和平の重要性が確認された。欧州の結束が揺らぐことへの懸念も示される一方で、全体としては、欧州が「戦略的覚醒」を遂げつつあり、安全保障における主体性と責任をより強く担おうとしているとの評価が共有された。

さらに、議論を通じて、ウクライナ戦争は欧州に閉じた問題ではなく、インド太平洋地域を含む国際社会全体の安全保障と不可分であるとの認識が繰り返し強調された。「今日のウクライナは明日の東アジアになり得る」との問題意識のもと、日本と欧州諸国が法の支配に基づく国際秩序を維持するために協力を深める必要性が確認された。

総じて本シンポジウムは、ウクライナ戦争を通じて顕在化した欧州安全保障の変容を多角的に検討するとともに、その経験と教訓が国際秩序および日本外交にとって持つ意義を明らかにする場となった。

なお、会場にはズィグマールス・ズィルガルヴィス駐日ラトビア大使、マルチン・クルチャル駐日チェコ大使、オーレリウス・ジーカス駐日リトアニア大使、ヤニス・ミハイリディス駐日キプロス大使をはじめ、在京の欧州大使館、また各国の大使館からも多数の関係者が参加した。

シンポジウムの終了後には、登壇者、主催、共催団体の関係者の参加によるカクテル・レセプションが開催され、尾形武寿日本財団会長の乾杯のあと、懇親が深められた。

以上、文責在事務局