(1)ミハル・ハトゥエル=ラドシツキ(Michal Hatuel Radoshitzky)上級顧問「グローバルな動向と変容する世界秩序におけるイスラエルの立場」

現在の国際秩序を左右する主要な潮流としては、人工知能(AI)を中心とする技術革新、流動性を増す取引的な国際システム、そしてサプライチェーンの再編が挙げられる。AIは政治・社会・軍事の各領域で影響力を高めつつあり、紛争管理や意思決定の在り方にも変化をもたらしている。

イスラエルの国際的立場は、2023年10月7日のハマスによる攻撃以降、軍事的脅威と並行して、国際世論、情報空間、外交関係といった複数の領域が相互に作用する複合的な環境に直面している。ガザ情勢をめぐる情報戦や国際的なソフトパワー競争の重要性が高まり、学術・経済・文化・デジタル空間など広範な領域でイスラエルに影響を及ぼしている。

こうした環境下で、イスラエルにとっては、AIや新興技術を踏まえた情報空間への対応、各国が価値と利益を基準に行動する国際システムへの適応、そして戦略物資・エネルギー・先端技術を支えるサプライチェーンの強化が重要な課題となっている。日本との協力余地は技術・経済・供給網の各分野で大きい。

(2)アロン・バル(Alon Bar)国際プログラム上級顧問「中東の変化と地域におけるイスラエルの立場」

中東地域の安全保障環境は、ガザ、レバノン、シリア、イランなど複数の要因が相互に重なり合う複雑な構造を形成している。ガザではハマスの軍事能力が長年蓄積され、レバノンではヒズボラが政府を凌ぐ影響力を保持してきた。シリアではイランの影響力が一定の存在感を示してきた。

2023年以降の情勢変動により、ガザでは軍事的状況と人道状況が、周辺諸国との関係や国際社会の関与と連動しながら推移している。レバノンではヒズボラの武装をめぐり国内政治が不安定化し、シリアでは権力構造の変化が地域全体の力学に影響を与えている。

ガザにおいては、統治構造、治安確保、復興支援など複数の課題が併存し、国際社会、アラブ諸国、イスラエルなど多くの主体が関与する複雑な状況にある。ハマスの影響力低下とともに統治空白が拡大しており、今後の枠組みが確定していない。一方で、地域諸国との新たな協力の可能性が議論されるなど、従来にはなかった動きもみられる。

イスラエルにとっては、複数の戦線にわたる脅威管理、イランの核・ミサイル開発をめぐる不確実性、アブラハム合意諸国や湾岸諸国との連携を通じた地域秩序形成が、安全保障上の中核的課題となっている。その際、国際社会が持続的な関与を通じて地域の安定化に寄与できるかが重要な鍵となる。

(3)ユヴァル・ヴァインレヴ(Yuval Weinreb)先端・新興技術プログラム主任「中国がグローバルサプライチェーンに与える影響」

AI、量子技術、サイバー、防衛技術などの先端分野は、国家間の競争と協力の構造を左右する重要な要素となっており、サプライチェーンの安全保障は民主主義国にとって共通の課題である。重要鉱物、半導体、エネルギー関連素材などの供給をめぐり、中国依存の縮小と信頼性の高い供給網の構築が国際的なテーマとなっている。

日本が過去にレアアースの供給制限を経験し、多元化やリサイクル、代替技術開発を通じて強靱性を高めてきた例は、現在多くの国で注目されている。米国による対中輸出規制を含む主要国の政策も、経済と安全保障が密接に結びつく時代を象徴する動きである。

また、近年の戦争では、低コストの無人機やミサイルが大量投入される一方で、防御側の迎撃コストが膨らむという非対称性が顕在化している。イスラエルでは電子戦や高出力レーザーなど、新たな防衛技術の実用化を進めているが、これらは大量のエネルギー供給を必要とし、エネルギー技術の革新とも密接に関連する。

総じて、技術力、産業力、供給網の安全確保は、軍事的レジリエンスと国際秩序の維持にとって不可欠であり、日本、イスラエル、米国、欧州など志を同じくする国々の協力が、今後の国際環境の安定と繁栄に大きな影響を与えるであろう。

(文責、在事務局)