第211回外交円卓懇談会
「トランプ政権の政策がもたらす世界経済への影響」

2025年10月3日(金曜日)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
日本国際フォーラム等3団体の共催する第211回外交円卓懇談会は、マーカス・ノーランド(Marcus Noland)米ピーターソン国際経済研究所副所長を講師に迎え、「トランプ政権の政策がもたらす世界経済への影響」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2025年10月3日(金)15:00〜16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室における対面、オンライン形式(Zoomウェビナー)
3.テーマ:「トランプ政権の政策がもたらす世界経済への影響」
4.講 師: マーカス・ノーランド (Marcus Noland) 米ピーターソン国際経済研究所副所長
5.出席者:46名
6.講師講話概要
マーカス・ノーランド (Marcus Noland) 米ピーターソン国際経済研究所副所長による講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われた。
(1)はじめに
(2)トランプ関税の世界経済への影響
2025年2月、米国は国際経済緊急事態権限法(IEEPA)に基づき、カナダ・メキシコ・中国に対して関税を発動したが、IEEPAは本来関税を認めておらず、法的に問題視された。米国最高裁判所は、トランプ政権による関税措置の合法性をめぐる複数の訴訟を受理し、現在訴訟は最高裁にまで持ち込まれており、年末までに判決が出る見通しである。ただし関税は「解放の日」関税などの名目で大幅に拡大され、経済的理由だけでなく政治的理由でも適用されている。米国は国家安全保障上の理由を掲げ、鉄鋼・アルミ・自動車・部品などへの関税を世界的に拡大した。これによりカナダなどが報復関税を発動し、米国金融市場はリスクプレミアム上昇で動揺した。
こうした状況を踏まえつつ、G-Cubed(モデルを用いて、2025年9月11日時点のトランプ政権の関税政策が世界経済に与える影響を分析した。それによると、米国が最も大きなGDP損失を被り、いわば「自傷的」な結果となった。カナダおよびメキシコは米国との経済的一体性ゆえに比較的小幅な下落にとどまった。米国ではインフレが急上昇し、中国でも同様の傾向が見られた。日本の場合、恒久的な生産減少、一時的なインフレ上昇、通貨安、貿易赤字の縮小、労働需要の減少、耐久財製造業の落ち込みが予測された。
(3)大規模国外退去の影響
また、トランプ氏が提案した大規模国外退去政策が経済に与える影響をG-Cubedモデルを用いて試算した。
米国における不法移民は産業間で偏在しており、特に農業、製造業、サービス業で高い比率を占める。これらの労働者を排除すれば、レストランや農場など低賃金・移民労働者に依存する業界で労働供給が深刻に不足し、物価上昇と生産減少を引き起こす。
試算では次の2シナリオが想定された:
・130万人の国外退去 → 米実質GDP 約1%減
・830万人の国外退去 → 米実質GDP 約8%減
一方、関税のみでは成長率を0.8%程度押し上げる可能性があるが、国外退去と組み合わせた場合、米国経済はリセッションに陥ると予測される。全産業で雇用・生産・投資が減少し、インフレが上昇する。日本にとっては、輸出需要の減少というマイナス面と、資本流入増加というプラス面が相殺する結果となった。
(4)FRB独立性の弱体化の影響
トランプ氏が中央銀行への個人的統制を強化しようとする動きに対するG-Cubedモデルの分析では、FRBの独立性喪失はマクロ経済に重大な影響を与えるものであり、独立した中央銀行は通常、低インフレと経済安定を維持するが、政治的影響が強まるとインフレが上昇する。短期的には政治主導の金融政策により一時的な景気拡大が起こるものの、その後インフレ上昇と金融不安定化を招く。この場合、米国ではインフレが悪化し、為替が上昇する一方で、日本など他国は米国からの資本流出により金融面で相対的な恩恵を受けることになった。
(5)おわりに
このように、関税、大規模国外退去、FRB独立性の弱体化という3政策を組み合わせた場合、米国は最も大きな損害を受け、深刻な生産損失とインフレ圧力に直面することがわかった。日本は関税によるマイナス影響を受けるものの、資本流入や相対的な経済安定によって最終的には若干の利益を得る可能性がある。関税は米国自身に損害を与えるとともに、日本などの同盟国にも悪影響を及ぼす。大規模国外退去は国際的に悪影響を与えるが、日本への純影響は限定的である。FRB独立性の弱体化は米国の安定を一層損なうが、日本や他国は米国からの資本流出の恩恵を受ける可能性がある。
(文責、在事務局)
本報告では、関税、大規模な国外退去(強制送還)、および連邦準備制度(FRB)の独立性の弱体化という3つの政策が、G-Cubed(Global General Equilibrium Growth)モデルを用いて、国内および国際的にどのような影響を及ぼすのかについて分析した内容を述べることにする。
1930年代以降、米国議会は大統領に対して特定の状況下で議会の承認なしに関税を課す権限を徐々に委譲してきたが、トランプ政権下の現在の関税は、歴代で最高水準に達している。またトランプ政権による大規模な国外退去は、国内の資源配分を混乱させ、成長を鈍化させ、物価を上昇させ、外国投資を抑制する結果をもたらすものとして、関税以上に深刻な経済的脅威となっている。さらにFRBの独立性の低下は、金融政策の安定性を損ない、長期的な損失を引き起こす。これらの政策の総合的な影響は、米国経済成長の減速を示唆するものであり、日本などの同盟国にもマイナスの影響を及ぼすと予想される。ただし、資本流入や貿易転換による一時的な利益を寧国にもたらす可能性はある。