(1)研究の背景と目的

私の研究の焦点は、中国がロシア・ウクライナ戦争をどのように理解し、どのような結論を導き、いかなる行動をとっているのかを明らかにする点にある。分析は外交、経済、技術、情報など多様な側面にわたり、中国によるロシア支援の実態を包括的に把握することを目指している。

(2)2022年時点における中国の立場

2022年において、中国は「中立」を強調し、交渉による解決を唯一の手段と主張した。しかし、実際にはロシアを批判することなく、戦争の原因をNATO拡大や米国の挑発政策に帰属させ、西側諸国の制裁や武器供与を非難したため、国際的には「親露的中立」と評された。

こうした中国の立場をより深く理解するために、ウクライナの研究機関は2022年3月以降、中国の外交部や国防部に直接つながる中国の専門家との非公開円卓会議を継続的に開催した。これらの会合は3〜4時間に及ぶことが多く、表面的な外交辞令を超えた議論の中で、中国側の真意や本音を把握する手がかりとなった。

その結果、中国の見解はロシアの立場に極めて近いことが明らかになった。第一に、中国は「ロシアは西側に侮辱され、欧州の安全保障体制から排除され、NATOに脅かされた結果として正しい行動をとった」と繰り返し主張した。さらに、中国自身も米国に軍事的に包囲され、脅威を感じていると語り、ロシアの立場に共感を示した。第二に、中国は2022年の戦場におけるロシアの失敗に強い不満を抱いていた。ロシアの損失に強い懸念を抱き、ウクライナ軍の高い士気やNATOによる訓練の実態に関心を示し、ウクライナの強みと弱みを探ろうとしていた。第三に、中国は米国と欧州の強固な結束に深い失望を表明した。彼らにとって米欧の緊密な団結は「大きな災厄」であり、いかにして米欧間に楔を打ち込み、分断を引き起こすかに強い関心を抱いていた。

さらに、2022年冬にロシアがウクライナの電力や水道などの重要インフラを集中的に攻撃し、市民生活を破壊した際、ウクライナ側はこれを戦争犯罪として中国に訴えた。しかし中国の専門家は、これを「社会に圧力をかけ、政府に譲歩を迫る効果的な手段」と評価し、人道的な被害を戦争犯罪とは認めなかった。この態度は、中国が国際法や人道の基準よりも、戦争遂行上の実利を優先する姿勢を如実に示すものであった。

以上のやり取りを通じて、2022年から2023年初頭にかけての中国の立場は、表面的には中立を装いながらも、実質的にはロシアに極めて近い「親露的中立」であったことが浮き彫りとなった。

(3)2023年以降の中国によるロシアの支援の質的・量的拡大

2023年以降、中国の対露支援は急速に拡大した。貿易は年率約20%増加し、ロシア経済を支える生命線となった。技術支援では、軍民両用の半導体や電子部品の供給量が2022年比で約10倍に増加し、ロシア兵器に占める中国製部品の割合は飛躍的に高まった。さらに、防衛産業に不可欠な精密工作機械の供給は、2022年の7%から2024年には70%へと急増し、ロシアの軍需産業は中国製機材への依存度を大きく強めた。

加えて、中国は無人機用エンジンなど高度な装置の供給にも踏み込み、単なる基礎部品提供を超えた質的転換が見られる。こうした背景から、NATOは2024年に中国を「ロシア侵略の決定的なイネーブラー(Enabler)」と公式に位置づけ、もはや中国なしではロシアの戦争継続は困難であるとの評価が共有されるに至った。

(4)認知戦と外交操作

中国は軍事・経済面のみならず、認知戦を通じてウクライナや欧州に影響を及ぼそうとした。2023年、ウクライナの反攻作戦直前には、中国の専門家が異例の早さで緊急会合を要請し、会談の中で50回以上にわたり停戦交渉を求めた。これは反攻を未然に妨害し、ロシア軍を救うことを狙った行動とみられる。また、同年には中国の李輝ユーラシア事務特別代表が特使として欧州各国を歴訪し、公式には中立的発言を繰り返す一方、随行した中国の専門家は欧州のシンクタンクで「ロシアは欧州に脅威を与えない」と主張し、ウクライナ支援停止を求めた。これは米欧分断を誘発する意図的な情報工作であった。

さらに2024年のスイス平和サミットに際しては、中国自身が参加を見送るだけでなく、アフリカやラテンアメリカの十数か国に対し経済的影響力を用いて参加を控えるよう圧力をかけた。その後、共同声明への署名をためらう国々にも働きかけ、最終的に複数国が署名を拒否する事態を引き起こした。こうした行動は、単なる外交的中立を超えた積極的なロシア側支援であったと評価できる。

(5)情報戦と国内世論工作

中国国内のSNSでは、ウクライナを「ナチス」「西側の傀儡」と呼ぶ極端な言説が広がっている。さらに、「ウクライナが和平を拒否している」「捕虜交換を妨害している」といった虚偽の情報を流布し、ウクライナ政府の正統性を傷つけようとしている。動員政策についても「全体主義的」と描写し、社会の戦意を削ぐことを狙った。これらはロシアの宣伝の転載にとどまらず、中国独自の言説生成による部分も確認されている。

(6)結論と示唆

以上の分析から、中国は当初の中立姿勢から大きく転換し、ロシア侵略の実質的支援者となったことが明らかである。その支援は軍事産業に不可欠な技術・部品の提供から、認知戦、外交工作、情報操作に至るまで多岐にわたる。中国はロシアから戦場の教訓を吸収し、人民解放軍の能力向上に活用しようとしているとみられる。最終的な戦略目標はNATOの弱体化と欧米の分断であり、これは台湾をめぐる将来の行動とも深く結びついている。

(文責、在事務局)