第208回外交円卓懇談会
「ユーラシア時代におけるハンガリーとEU」
2025年7月10日(木曜日)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
日本国際フォーラム等3団体の共催する第208回外交円卓懇談会は、レヴェンテ・ホルヴァート(Levente Horváth)ジョン・フォン・ノイマン大学ユーラシアセンター所長を講師に迎え、「ユーラシア時代におけるハンガリーとEU」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2025年7月10日(木)10:30〜12:00
2.場 所:日本国際フォーラム会議室における対面、オンライン形式(Zoomウェビナー)
3.テーマ:ユーラシア時代におけるハンガリーとEU
4.講 師: レヴェンテ・ホルヴァート(Levente Horváth)
ジョン・フォン・ノイマン大学ユーラシアセンター所長
5.出席者:30名
6.講師講話概要
レヴェンテ・ホルヴァート(Levente Horváth)ジョン・フォン・ノイマン大学ユーラシアセンター所長による講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われた。
(1)ユーラシア時代への転換
(2)多極化した時代に必要な文化への理解
今日、中国、インド、ロシア、イラン、サウジアラビア、EU、ブラジル、米国といった国々が、それぞれ固有の文化的・文明的基盤をもつ「極」として存在している。このような多極的構造のもとでは、各文明への理解が不可欠である。文化、言語、伝統は、政治体制だけでなく、人々の生活様式、思考法、コミュニケーションの在り方にも深く関わっている。たとえば、言語を学ぶことは、まったく新しい認知枠組みを獲得することに通じる。例えば、言語学習は全く新しい認知的枠組みを獲得することにつながる。
しかしながら、異文化間の誤解は依然として多く見られる。実際、ハンガリーの総領事として中国に駐在していた際、意思疎通に困難を感じたという実体験があった。さらに、西洋メディアは中国やロシアを「危機」や「権威主義」といったイメージとともに描写する傾向があり、報道には偏向が見られる。今日の中国に対する恐怖をあおる言説は、1970〜80年代における日本の経済的台頭に対する西側諸国の警戒心と酷似している。ユーラシアセンターは、中国、ロシア、西洋といった多様な情報源を参照し、よりバランスの取れた視座を持つことの重要性を提唱している。
(3)ハンガリー固有の歴史的視点
ハンガリーは、地政学的・文化的に独自の位置にある。アジア的な起源を持ちながら、NATOやEUといった西側に属している。歴史的には、征服者というより被征服者としての経験が多く、モンゴル、オスマン帝国などの支配を受けた。さらに第一次世界大戦後には、国土の3分の2を失うという大きな国難を経験している。冷戦終結後に西側陣営へと参入したハンガリーは、その歴史的背景ゆえに、国際社会における「正義」への懐疑を持ち続けている。19世紀のハンガリーの詩人ヤーノシュ・アラニの作品は、「正義」の名のもとに力を持つ者が支配するという、制度の偽善性を痛烈に批判している。
(4)ハンガリーが見るEUとアジア戦略
ハンガリーはEU内部の制度的衰弱性についても懸念を表明している。リーダーシップの分裂、仏独連携の不調、ユーロ導入の不均一性やシェンゲン協定の運用の不整合など、統合の不完全さが指摘されている。EUがより競争力と統一性を高めるためには、実質的な改革が不可欠であるというのがハンガリーの立場である。
これを踏まえて、2010年以降、ハンガリーは「東方開放政策(Eastern Opening Policy)」を推進しており、アジア諸国との経済的結びつきを強化してきた。アジアからの海外直接投資(FDI)はほぼ2倍に増加し、全FDIの34%を占めるまでになった。国別内訳としては、韓国が14%で首位、中国が9%、日本が3%となっている。オルバーン首相の外交方針は、対話、相互尊重、国益の重視を基盤としており、様々な国々と会談を設けている。東西関係において「平和的かつ双方に利益のある」アプローチを志向している。
(5)日本との友好関係
日本との関係はその代表例である。両国は1869年から外交関係を持ち、冷戦後にはスズキが初の主要アジア投資企業となった。現在でもスズキは人気を維持している。今日では180社を超える日本企業がハンガリーに進出し、3万人以上の雇用を創出している。文化交流も盛んであり、「俳句の日」の制定やアニメの人気、空手が第4位の人気スポーツであることなどが挙げられる。学生交流も活発であり、現在日本には約600人のハンガリー人が、ハンガリーには約500人の日本人が留学している。
こうした人的・経済的・文化的交流は、ハンガリーが異文明の理解、制度改革、そしてよりバランスの取れた協調的な国際秩序の構築に向けて取り組んでいる姿勢を体現している。
(文責、在事務局)
過去500年間にわたり西洋が主導してきた「大西洋の時代」から、「ユーラシアの時代」への構造的転換が世界規模で進行している。ユーラシアセンターは、こうした国際秩序の変容に注目している。歴史的に見れば、中国は優れた技術を有していたが、西洋の拡張を支えた「植民の精神」は欠いていた。この対比は、コロンブスの小型船と中国の巨大艦隊との違いに象徴される。
米国の政治科学者グレアム・アリソンが提唱した「トゥキディデスの罠」の概念によれば、新興国が既存の大国の地位を脅かすとき、両国間に緊張が高まり、戦争が発生しやすくなるという歴史的なパターンが存在する。過去500年間に16回の覇権交代があり、そのうち12で戦争に至ったことが指摘されている。現在進行中の覇権移行─アメリカを中心とする西洋と、中国を中心とする東洋の対立─は、単なる地政学的再編にとどまらず、世界観の相違による17番目の文明的衝突とも位置付けられる。
この大転換の主要因は、経済力の地理的な移動である。経済の重心は、もともとアジアにあったが、大西洋の時代に西洋へと移り、現在は再びアジアに戻りつつある。特に中国およびインドは、2050年までにG7諸国を大きく上回る成長を遂げると予測されている。この動きは、アメリカ一極支配の終焉と、多極的な国際秩序の形成を後押ししている。