「ミドルパワー・ミニラテラリズム」:オーストラリア・日本・韓国の三国間関係
2025年2月21日
トーマス・ウィルキンズ
日本国際フォーラム上席研究員/シドニー大学准教授
1.序論
米国とインド太平洋地域の同盟国の間で「ミニラテラル」形式の会合が頻繁に開催されている[2]。例えば、2024年末には米国、オーストラリア、日本の防衛大臣がダーウィンで会合を開き、地域の抑止力に関する集団的姿勢を固めている(これは、元々は日米豪戦略対話(TSD)プロセスの下で始まったものである)[3]。その後まもなく米国、日本、オーストラリア、フィリピンが四国間会合を開き、地域の安全保障に向けたアプローチの調整を図っている[4]。また、これに先立つ2024年7月には、2023年にキャンプ・デービッド・サミットで合意された米日韓による画期的な三国間協力体制を固めるために外務次官/国務副長官会合が開催されている[5]。政府高官の招集や、米英豪による「AUKUS」などの公式な体制を通じて、様々な形態のミニラテラル協力関係が拡大と発展を続けている[6]。
しかし現在、インド太平洋における米国の重要な同盟国であるオーストラリア、日本、大韓民国の三ヵ国が、米国抜きの新たなミニラテラル・グループを形成する可能性に目を向けている。このミニラテラル体制はまだ初期段階にあるものの、キャンベラ、東京、ソウルはこの可能性を探ることに積極的なようである。これら三ヵ国による防衛大臣会合や官僚レベルのインド太平洋対話が初めて開催されたのは2024年6月のことであった[7]。同月、議論を深め、三国間の絆を確認する目的で、米国研究センターのシンクタンクもシドニーでトラック1.5対話を開催している[8]。
2.三国間のミニラテラル協力を支える強固な基盤
豪日韓の三国間連携を動機づける要因はいくつかある。第一に、米国の同盟国であるこれら三ヵ国は、インド太平洋地域における安全保障環境の悪化について見解が一致しており、南シナ海・東シナ海、台湾海峡、および朝鮮半島の不安定な情勢について懸念を示している。加速する米中間の対立や戦略的競争という文脈の中で、三国間の連携を強化する可能性を模索することは戦略的に理に適っている。第二に、キャンベラ、東京、ソウルは、二期目のトランプ政権がインド太平洋の同盟国や地域の秩序にとって何を意味するのかについて、同等に不安を感じている。そのため、状況の評価を共有し、米国に完全に依存することのない新たな政策上の選択肢を創出していくことは検討に値する。
第三に、三つの強力な自由民主主義国家の間で、共有する価値や利害の強力な収斂を基に関係を構築すること自体が理由として十分である。三ヵ国の間では米中と比較して国家の権力、資源、能力が限られているため、各国の資源を併せて政策の整合を図ることは、「二番目の国家(secondary power)」が争いの絶えない地域情勢を乗り越える余地を生み出すための一つの手段となる。最後に、ソウルは、TSD、Quad(クアッド)、AUKUSといった、韓国が加盟していないミニラテラル体制によりますます定義されつつある地域安全保障構造の中で、自国の存在感を強めるためにミニラテラルな協力関係を追求することに積極的になっているようである。
これら三ヵ国の相性を簡単に評価してみると、強力なパートナーシップの可能性が見えてくる。オーストラリア、日本、韓国は、米国にとってインド太平洋で最も重要な同盟国であり、共通の価値観を擁護する確固たる自由民主主義国家であるとともに、インド太平洋における規則正しい秩序の維持に大いに依存している。さらに、よく「ミドルパワー」(ただし、日本についてはこの名称で呼ぶにあたり、いくつかの注意点がある)と呼ばれるこれらの国家は、多国間組織と協働し、「善良な国際市民」の役割を果たし、(三国間関係そのものなどの)連合を構築する傾向を持っている[9]。また、多大な経済力、外交力、および軍事力をそれぞれが有していることから、これらによる影響力は協調して行動することでさらに大きくなる。戦略的パートナーシップを通じた強固な日豪関係、深化する豪韓の戦略的パートナーシップ、そして比較的良好な日韓関係は、三国間協力を追求するための十分な基盤となっている。
3.三国間アジェンダに向けて
この初期段階では、三国間協力が多くの政策の方向性に関与し、網の目のように張り巡らされている現行の二国間協力関係を基盤として発展していく可能性がある。簡潔にまとめると、今後協力関係が機能する分野として、以下が挙げられる。
まず、協力スペクトルの尖端にある(そして最も「困難な」)分野として、パートナーが(TSDに従って)地域の抑止力の調整に集中できる可能性がある。特に、海洋安全保障に関するある程度の三国間協力として、情報・監視・偵察(ISR)活動と海洋状況把握(MDA)は説得力があり、実行可能であるようにも見える。ただし、合同軍事訓練などといったより強固な活動は、もっと遠い未来に限定される可能性が高い。しかし、この分野での協力は、第一にその本質的な機密性により、第二に米国が関与する必要性により疎外されている(米国を交えた「四国間」形式を提唱することになるのではないか?)。さらに、三ヵ国が地域に対して持っている脅威の認識も完全に一致しているわけではなく、韓国は当然ながら日本、そして特にオーストラリアよりも北朝鮮の脅威を重視している[10]。これらのことは米国の文脈外という空間において追求できる活動の程度を制限しつつも、三国間での防衛の統合を進めることが共通の米国主導の抑止戦線を補強することにも繋がるため、活動自体を排除しているわけではない。この制約の結果、このような協力関係が最小限の断片的なものになり、三国間アジェンダの主な重点分野にはならない可能性が高い。
しかしながら、防衛・産業・技術分野での協力を通じて、地域の抑止力となる能力の全体的な底上げを実現する要因に三ヵ国が今後集中していくことは可能である。日本と韓国は共に優れた防衛産業基盤と技術的優位性を有している一方で、オーストラリアもこれらに対する需要があり、さらに協力関係に貢献しうるいくつかのニッチな技術的専門分野(量子コンピューティングなど)も有している。各国には、共同研究開発や共同生産事業の機会を検討できる可能性が秘められている。また、AUKUSや英日伊のグローバル戦闘航空プログラム(GCAP)などといった他のミニラテラル体制は、軍需品の生産やその他の軍事能力を実現するシステムといったバリューチェーンの比較的低いレベルにおいて模倣できるモデルである。一方で、先進技術については商業的にも軍事的にも応用できることから、AI、量子コンピューティング、ロボティクスなどといった重要・進行技術(CET)に関する協力は比較的実現しやすい。
これは、より広範な経済協力へと綺麗に続くことである。三ヵ国はすでに相互に重要な貿易パートナーであり、それぞれが比較優位を持っている。自由貿易協定(FTA)はそれぞれの二国間パートナーシップで結ばれており、三国間でそれらをさらに活用し、活性化させることができる。トランプ大統領による厳しい関税措置の見通しを伴う対中貿易の「リスク回避」の必要性により、三国間で焦点を合わせ、そのような危険を相互に軽減するために協調する強い動機もある。これにはさらに、重要鉱物を含むサプライチェーンへの不自由のないアクセスの確保や、他の経済的強制に耐える(またはそれを抑止する)準備態勢の整備を通じた「経済安全保障」の強化も伴う。したがって、国家(および集団)の経済的弾力性を向上させるための相互支援は、協力関係を強化できる有望な分野である。また、グリーン・エネルギーへの移行を進めるための協力など、その他の経済技術協力の形態も考えられる。最後に、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CTTP)、地域的な包括的経済連携(RCEP)、インド太平洋経済枠組み(IPEF)などの多国間経済フォーラムへの相互支援と関与は、三ヵ国がパートナーとして政策を調整することでより大きな印象を与えることができる場である。
これら三ヵ国は、安全保障と経済の両方において規則に基づく地域秩序に大いにコミットしている。このことは、日本が最初に提唱し、その後オーストラリアが採用し、さらに韓国も実質的に支持している「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」ビジョンに象徴されている[11][12]。これは規則に基づく秩序により統治される地域を構想し、経済的繁栄を高め、平和と安定にコミットするものである。これを速く促進させるため、三国間パートナーは、国内や二国間での取り組みに基づき、地域の国家に経済と安全保障のガバナンスの施策を提供する役割を果たせる。政府開発援助(ODA)の提供や、太平洋諸島や東南アジアといった重要なサブ地域における投資や能力開発は既に各国が深く関与していることであり、それらの成果を高めることも三国間で調整できる[13]。これは人道支援・災害救助活動(HA/DR)にも言えることであり、三ヵ国の海洋軍事能力を踏まえると三ヵ国間で促進させることが可能である。さらに、「インド太平洋に関するASEANの見通し」との繋がりも含めたASEAN主導の地域安全保障構造への支援も、地域秩序を強化する余地を提供するものと思われる。
4.次のステップと課題
上述の議論では、これまでの実績を基に、三ヵ国間の調整が効果的でありうる潜在的な分野や可能性の高い分野に注目した。しかし、この台頭しつつあるミニラテラルが効果的で永続的なものになるかどうかは、それを適切に制度化できるかどうかにかかっている。トラック1.5対話またはトラック2対話やアドホック形式の三国間の協定や活動を伴う、三ヵ国の大臣らによる散発的な会合を通じた「非公式」な体制に留まる可能性もある。各パートナーは、共通の目標に向けて並行する国家の努力の路線を調和させ、それらを「三国間のレンズを通じて」捉えるとよい[14]。これにより柔軟性が維持され、大規模な資源配分を必要とせず、国内外の問題(北京からの非難など)を引き起こす可能性も低くなる。
または、AUSUやTSDなどや、限定的であるがクアッドなどといった他のミニラテラルに見られるような、より「正式な」制度という装いを採ることも考えられる。この場合、注目度の高い閣僚会議や首脳会議を定例化し、三ヵ国で目標やアジェンダ(そして実施に向けた行動計画)の公式な声明を発表するとともに、これらを促進させるためのワーキンググループや三国間協定といった組織的なインフラを構築することになる。これは、政治的・外交的資本や資源の両面において高度なコミットメントを要するものの、そのインパクトも各段に大きくなる。例えば「豪日韓(AJK)」といった認識しやすい名称、あるいはその他の人目を引く適切な略称を適用することで、地域政策の言説にしっかり定着させ、他の無数の(そして忘れられやすい)「三国間協定」と区別することができる。
これとは別に、三国間プロジェクトを進める上で障害となりうるものがある。まず、既存の調整ルート、とりわけ米国との同盟という枠組み(特に抑止力の問題の場合)では(よりよく)達成できないような任務を通じた強力な国家的理由が必要である。AJK三国間関係は確実に米国の同盟網の中で「スポークを繋げる」プロセスを前進させる(このことは価値ある目標である)ものの、この機能の外側における、ならびにこの機能に追加される三国間関係の価値提案を明確に正当化する必要がある[15]。三国間関係の非公式の目的の一つが、「二番目の国家」/米同盟国がトランプ政権下の孤立主義化・不安定化する米国政策にどう対処すべきか議論できる場を設けることであることも可能性として考えられる。また、変化の激しい国内政策も考慮しなくてはならない。このような考慮は、国内のみならず(特に韓国政府は現在混乱状態にある)、特にソウルと東京の関係性という点でも必要である。二国間関係はこれまで、未解決の歴史問題や領土問題が政治的に露呈すると、一般的に混乱に陥ってきた。二国間関係の現状は良好であるものの、依然として多くの課題が残っており、良好な軌道が約束されているわけではない。
まとめると、三国間連携を強化すべき理由には説得力があるが、これがどの問題に集中し、どのような形で現実となるのかはまだ決まっていない。しかし、これらのミドルパワー国家にとって有用な目的を果たすように三国間協力を実現できても、実質的に置換も複製もできない各国の米国との同盟関係を補足(または補完)するものであり続けるであろう。
Rethinking Middle Powers in the Asian Century: New Theories, New Cases (London: Taylor & Francis, 2018); Abbondanza, Gabriele. “The odd axis: Germany, Italy, and Japan as awkward great powers.” Awkward powers: Escaping traditional great and middle power theory (2022): 43-71を参照。
Japan Ministry of Defense’s Approach’, MOFA, (no date). https://www.mod.go.jp/en/d_act/exc/india_pacific/india_pacific-en.html