第204回外交円卓懇談会
「トランプ2.0における中国外交と日中関係」

2025年1月16日(木曜日)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
日本国際フォーラム等3団体の共催する第204回外交円卓懇談会は、苗吉(Miao Ji)中国外交学院 アジア研究所日中韓協力研究センター主任研究員を講師に迎え、「トランプ2.0における中国外交と日中関係」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2025年1月16日(木)14:00〜15:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室における対面、オンライン形式(Zoomウェビナー)
3.テーマ:トランプ2.0における中国外交と日中関係
4.講 師: 苗吉(Miao Ji)中国外交学院 アジア研究所日中韓協力研究センター主任研究員
5.出席者:36名
6.講師講話概要
苗吉(Miao Ji)中国外交学院 アジア研究所日中韓協力研究センター主任研究員による
講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われた。
(1)トランプ政権の政策と中国からの視点
ドナルド・トランプ氏は僅差で大統領選に勝利し、共和党は現在、上下両院を掌握している。トランプ氏は第1期目の政権で公約の履行率が高かったことから、再選後も同様に公約を着実に実施すると考えられ、政策の方向性は比較的予測しやすい。
トランプ政権の政策は、主に国内問題に焦点を当てるものと予測される。具体的には、減税の実施、不法移民の強制送還、政府支出削減を目的とした「政府効率向上省(DOGE)」の創設に取り組むとされる。しかし、これらの政策には矛盾もみられる。トランプ氏は、2兆ドル以上の政府支出削減を目指し、不法移民の強制送還という高額な費用を伴う施策を実施しつつ、同時に税収を大幅に削減するという方針を掲げている。
外交政策に関しては、特に対中関税の大幅引き上げを主張しており、就任初日から中国製品に10%の関税を課すと明言している。また、ウクライナ戦争も、6か月以内に終結させることを約束している。現在のウクライナ・ロシア両国の疲弊を考慮すれば、トランプ氏が交渉の場を設け、戦争を終結させる可能性は十分にある。さらに、イスラエルとハマスの停戦合意など、トランプ政権の発足前に国際的な和平の兆しが見え始めている。仮にトランプ氏がウクライナおよび中東での和平を実現すれば、中国にとっては好都合となる。特に中国の海外投資が進む中東地域の安定は、中国経済にも利益をもたらす。
一方で、中国は前回のトランプ政権時に強い圧力を受けており、第二期において、経済的状況が一層深刻化する可能性がある。現在、中国経済は減速し、不動産市場の低迷や若年層の高い失業率に直面している。トランプ政権下での関税強化は、中国経済にさらなる打撃を与えると考えられる。バイデン政権下では多くの外国企業が中国から撤退し、サプライチェーンの拠点を東南アジアに移してきたが、トランプ政権の政策によってこの動きが加速し、中国の技術革新、特に半導体産業の発展が一層困難になる可能性がある。
しかしながら、トランプ政権の復活は中国にとって一定の利点ももたらす可能性がある。トランプ氏は、QUADやAUKUS、日米韓三国協力、日米比三国協力といったミニラテラル枠組みへの関心が薄いとみられている。そのため、バイデン政権が進めたNATOとインド太平洋戦略の連携も希薄になる可能性があり、中国に対する戦略的圧力が緩和されると考えられる。
台湾問題に関しては、トランプ氏は台湾に対し、米国製兵器の購入拡大や米国への投資を促しながらも、安全保障上の強いコミットメントを控えている。この姿勢は短期的には中国を安心させるかもしれない。しかし、対中経済政策が期待通りの成果を上げない場合、台湾問題に焦点を移し、対中強硬姿勢をアピールする可能性もある。
(2)中国の外交政策の変化
近年、中国は積極的な外交を展開する姿勢をみせている。東シナ海および南シナ海での取り締まりの強化、対米強硬姿勢の強まりがその一例である。中国共産党は外交政策を含むあらゆる分野で統制を強めている。習近平国家主席は、「一帯一路」構想を推進し、国際投資戦略を展開している。また、新たな安全保障概念として「協調的・包括的・持続可能な安全保障」を提唱し、「グローバル開発構想」、「グローバル文明イニシアティブ」「グローバル安全保障イニシアティブ」など、国際的ガバナンスへの関与を強めている。安全保障も、現在の中国にとって重要な課題である。バイデン政権下では、インド太平洋地域における「対中包囲網」が構築され、中国は安全保障環境の変化に対応する必要に迫られた。経済発展のみに重点を置くのではなく、安全保障の観点も中国の政策決定の焦点となっている。
(3)今後の日中関係
日中関係はここ10年以上にわたり冷え込んでいたが、近年は改善の兆しが見られる。閣僚級の相互訪問や高級実務者会合が行われ、首脳同士の相互訪問も議題に上っている。日中外相会談では、日本側が「戦略的互恵関係」の重要性に言及し、岸田政権では取り上げられなかった用語が再び使用されるようになった。両国のビザ政策の緩和や、中国による日本産水産物の輸入規制の緩和など、ポジティブな動きも続いている。中国はインドネシア、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどのアジア諸国との関係強化にも力を入れている。
また、中国のグローバルサウス諸国との関係強化が進んでおり、上海協力機構(SCO)やBRICSへの新規加盟国の増加がその象徴である。中国の貿易総額は、米国との貿易が約7,000億ドル、EUとの貿易が7,140億ドル、日本とは3,500億ドル、韓国とは3,200億ドルである一方、ASEAN諸国とは1兆ドル、アフリカとは約3,000億ドル近くに達している。
中国は包括的および先進的環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)への加盟を希望しており、また地域包括的経済連携(RCEP)を最優先課題としている。一方で、日本は中国を含まない経済枠組みであるインド太平洋経済枠組み(IPEF)やCPTPPを重視してきた。石破茂首相は「アジア版NATO」の構想を提案し、中国の参加も示唆している。今後、日本が経済・安全保障両面で中国を含む協力枠組みを主導することができれば、地域の安定と日中関係の発展に大きく寄与する可能性がある。
(文責、在事務局)