第203回国際政経懇話会
「戦略的コンストラクトとしてのインド太平洋と小国への影響:スリランカの視点から」

2024年12月4日(水曜日)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
日本国際フォーラム等3団体の共催する第203回外交円卓懇談会は、ハリンダ・ラヌラ・ヴィダーナゲ(Harinda Ranura Vidanage)サー・ジョン・コテラワラ国防大学戦略学部長を講師に迎え、「戦略的コンストラクトとしてのインド太平洋と小国への影響:スリランカの視点から」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2024年12月4日(水)10:30〜12:00
2.場 所:日本国際フォーラム会議室における対面、オンライン形式(Zoomウェビナー)
3.テーマ:「戦略的コンストラクトとしてのインド太平洋と小国への影響:スリランカの視点から」
4.講 師: ハリンダ・ラヌラ・ヴィダーナゲ(Harinda Ranura Vidanage)サー・ジョン・コテラワラ国防大学戦略学部長
5.出席者:20名
6.概 要:
リンダ・ラヌラ・ヴィダーナゲ講師による講話の概要は次の通り。
その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われた。
(1)スリランカからみた国際社会の問題と複雑性
国際社会においては、既存の秩序が崩れて「ツァイテンヴェンデ(時代の転換点)」に直面しており、小国であるスリランカにとって、いかにして情勢の複雑さを理解し、生き残るための内外政策をとれるのかが最大の課題である。米国でさえ、刻々と変化する世界の中で苦闘しており、各国が直面している問題は多岐にわたる。COVID-19、ロシアのウクライナ侵攻、中東の不安定化など、さまざまな事案によって複雑化している安全保障上の課題がある。また多くの国家で、政治や利害関係の変化による国内問題が生じており、それは外交政策にも影響を与えている。特に民族主義や、極右および極左的な指導者が台頭し、多くの国で民主主義の後退がみられている。
西側諸国にとって、共通の敵は中国であろう。インドは中国に対抗するための外交政策や安全保障戦略をとっているが、必ずしもその政策は西側諸国と一致していない。インドにはBRICSを強化しようとする野心もある。インドは国力が増大し、今や限られた領域からより大きな世界規模へ関心を移している。例えば、南アジア地域協力連合(SAARC)の首脳会議は2014年を最後に開催されていない。このことは、「南アジア」という政治的な枠組みがすでに潮時を迎えていることを示している。インドにとって、SAARCはもはや魅力的な枠組みではないのだろう。
スリランカにとって、このようなインドが最大の懸念材料である。インドは経済的にも軍事的にも大きな力を得ており、その野心はより広い範囲に及んでいる。インドの台頭は、地域のバランスを変化させ、スリランカに影響を及ぼしている。
インド洋は世界で最も軍事力が結集している海洋であり、大国の海軍による競争以外にも、エネルギー、鉱物、サイバー、貿易、サプライチェーンなどの分野でも競争があり、この海域の島国であるスリランカにとって、いかなる立場を取るべきなのかが大きな課題となっている。
(2)スリランカの将来
スリランカは、83年から2009年まで続いた内戦で、中国から軍事支援と資金援助を受けるなど、中国の関係は深かった。その関係は、ゴーターバヤ・ラジャパクサ大統領の就任以降、さらに緊密になった。コロンボ港に中国海軍の艦船が寄港するようになり、インドの安全保障に懸念を抱かせた。2014年の習近平国家主席のスリランカ訪問の際に、ラジャパクサ大統領は海上シルクロードへの支持を示し、インドはさらに警戒を強めた。ただスリランカは、港湾建設やその他のインフラプロジェクトで中国と協定を結び、最終的に多額の負債を抱えることになった。
スリランカでは、アヌラ・クマラ・ディサナヤカ新大統領が誕生したが、インドだけでなく、中国、アメリカ、ロシアといった世界の大国と対峙しなければならない。こうした困難な地政学的情勢の中で、スリランカにとって、日本やオーストラリアと緊密な関係を維持することが重要となっている。
(文責、在事務局)