日本のイスラエル報道に対する10の疑問
2024年11月26日
長尾 賢
日本国際フォーラム特別研究員 / ハドソン研究所研究員
2024年11月現在、中東情勢は、ウクライナ情勢と並ぶ世界の中心的なトピックだ。しかし、2023年10月7日のハマスによるテロ攻撃以降、日本のメディアが行ってきた中東報道は、正確なものだったといえるだろうか。端的に言えば、極めて問題の多い報道だったという認識がある。そこで、11月、イスラエルを実際に訪問し、私が問題と考えてきたことについて、現地で情報を得ることができたので、それをもとに、日本の中東報道が、いかに問題であり、どう是正するべきか、問題点を指摘することにした。
1.ハマスが行ったことの残虐性を報じていない
最初に気になるのは、2023年10月7日のハマスによるテロ攻撃について、日本における報道は、きちんと報じなかったことだ。日本の多くの報道は、まるでイスラエルの音楽祭だけが襲撃され、1200人の死者がでて、250名を誘拐したかのような報道であった。これは事実と異なる。
この日、ハマスは、ガザ地区を囲う壁を破壊し、数千人の戦闘員がイスラエル襲撃を開始し、ちょうどやっていた音楽祭だけでなく、周辺の町や村々(「キブツ」と呼ばれる。)、道路を走る車など、ありとあらゆるものを襲撃した。そこでは、残虐行為で知られたテロ組織ISによく似たような、異常なレベルの残虐行為があった。ハマスのテロリストたちは、その残虐行為を映像にとり、自慢するようにネットにアップしたため、当時、多くの映像を実際に、見ることができる状態になっていた。例えば、女性を暴行したり、妊婦の腹を裂き、その中から赤ん坊を取り出す映像などまでがでていた。私が話を聞いたイスラエルの関係者は、「人間とは思えない」という表現をつかい、「あいつらと交渉するなんてありえない」と戦う以外の選択肢はない、とはっきり述べていた。
日本の主要メディアは、この残虐性を報じなかった。メディアからすると、こういったネット上に上がった映像を、フェイクかどうかを確認することなしに報ずることはできない、という判断なのだろう。また、こういった残虐行為について、知りたくない人も、世の中には多く、その点でも控えたのかもしれない。だが、こういった残虐行為が行われた可能性があることを周知させなければ、イスラエルがその後、どのような反応を示すのか、正確な情勢判断はできなくなる。さらに、こういった残虐行為が行われた可能性があるのに、それを報じなければ、それは犯罪を隠蔽し、結果として加担してしまったことになりえる。それを認識したうえで、日本国民に対し、メディアは、もっと説明するべきであった。
写真:襲撃された住宅(筆者撮影)
2.ハマスの言い分だけ報じている場合がある
それにもかかわらず、日本のメディアの中には、ハマス側のインタビューを報じているものがある。10月7日に行われた残虐行為を把握した後、どうしてそのようなことができるのか、不思議だ。だが、それでも、ハマス側のインタビューを報じるならば、その際は、イスラエル側のインタビューを報じて、ハマスとの距離を一定程度とるべきである。そうしなければ、ハマスの犯罪の宣伝をした共犯者になってしまう。ところが、日本の主要メディアの中には、そういった配慮がなく、ハマス側の主張だけ述べたものがある。日本人の多くが中東情勢に疎いことをいいことに、配慮を欠いた報道で、もっと慎重であるべき事案である。
3.住民は完全に無実ではない
さらに報道の問題点は、その後の部分である。イスラエルのガザ地区に対する軍事作戦が始まり、そこで巻き込まれた民間人についての報道が永遠とでるようになった。だが、この民間人は、本当に、無実といえるのか疑問である。実際、ハマスの攻撃後のアップされた映像の中には、ハマスのテロリストが連れてきた人質を、住民たちが、みんなでリンチして蹴り飛ばしている映像がある。この映像が、フェイクであるかどうか、正確に把握することは困難であるとしても、過去の経緯を見れば、実際に起きてもおかしくない。例えば、2001年9月11日のアメリカに対する同時多発テロの際も、同地域では、お祝いしている住民の姿の映像をみることができた。そのような雰囲気だからこそ、2006年、ハマスは、選挙に勝って、政権に就いたのである。
たしかに、イスラエル軍の攻撃は、ハマスを狙っていても、多くの住民が巻き込まれている事実がある。だが、イスラエルが虐殺しているとの指摘は間違いだ。それがわかるのは死者数である。ハマス側は、軍事作戦から1年でガザ地区で4万人が、イスラエルによって殺害されたと主張する。この数字は、ハマスのテロリスト1万人以上を含むものであるから、戦闘とは関係ない住民と呼べるものは3万人くらいである。しかし、それは多い人数ではない。人口密集地での死者数では、例えば1945年3月10日の東京大空襲では、たった1晩で10万人の日本人が殺害されている。それに比べ1年で4万人は少ないのである。
しかも、4万人の数字にはハマス側の誤爆も含まれている。ハマスなどの武装勢力が反撃して打ち返しているロケット弾の30%が、イスラエルまで届かず、ガザ地区内に着弾していることは、データとして確認されており、その点から見て、イスラエルの攻撃かどうか、判別が難しくなっていることも事実だ。その典型的な一例は、2023年10月17日のガザ地区にあるアル・アハリ病院の事例だ。当初イスラエル軍の爆撃で500人以上死亡の報道だったが、実際には、ハマスとともに戦闘に参加しているイスラム聖戦のロケット弾が着弾したものであった。
また、このような攻撃に国連関係者、人道支援関係者が、イスラエルによって殺害されている、といった報道もなされた。国連が嘘を言っているのではなく、実際にそういったことはあるのだろう。だが、2023年10月7日のテロ攻撃以降、そこは戦場だ。人道関係者は保護されるべきだが、実際戦いが行われている場所にいるならば、巻き込まれないで済む保証はないはずである。それでも、人道支援活動を継続するならば、そのリスクは明確で、覚悟の上で残った、ことになる。そのようなリスクを理解したうえで人道支援を続ける人々は、たしかに尊敬されるべき勇気を示していると思うが、同時に、攻撃に巻き込まれても、イスラエルが悪い、と責めることはできないように思う。
4.ガザ地区内で物資配布の問題があることを報じていない
イスラエルの軍事作戦の問題点としてあげられるものの一つは、ガザ地区の住民対する人道支援が少なく、住民が飢餓に瀕している、というものである。ガザ地区の人道状況に関しては、筆者が聞いた際も、イスラエル側も、かなり深刻であるとの認識をもっていた。それにもかかわらず、改善が見られないのは、イスラエル側によると、こういったことのようである。
まず、イスラエル側は、ガザ地区に対する物資の搬入自体は、可能なようにしている。だが、物資を積んだトラックには護衛がついていないため、物資が搬入されるたびに、その物資は目的地につくまえに、襲撃され、とられてしまっている。襲撃しているのは、奪い取って高く売りたいマフィアや、ハマス自身も、自らのために物資を奪い取っている疑いがある。
イスラエル側は、ガザ地区内で、このような物資の運搬を護衛する気はない。銃を持った襲撃犯がいれば、イスラエルはテロリストとして攻撃することも起こりえるが、襲撃犯が野球のバットのようなものしかもっていなかった場合は、イスラエルとしては攻撃しない、とイスラエル側は述べていた。そもそもイスラエルは、ガザ地区から攻撃を受けたからガザ地区に反撃しているだけで、ガザ地区を統治するつもりはない。ガザ地区の行政は、現地の有力者たちが行うべきものである、という立場である。そして、もし国連がそれを行うならば、国連は、各国の軍か、民間軍事会社に依頼して、物資の護衛をするのが、筋だ、との分析も聞いた。そういった事情は、もっと知られるべきである。
5.イスラエルの融和政策が裏切られたことを報じていない
あまり報じられていない事実はまだある。それは、2023年10月7日の2年程度前から、イスラエルが、ガザ地区の住民が、イスラエルで働いたりできるようにしたり(17万人がガザ地区からイスラエルに働きに来て収入を得ており、パレスチナ側で働くよりも収入がはるかによかったため人気があった[ⅰ])、ガスの供給を始めるなど、融和政策をとっていたことだ。そして、ハマスは、搬入されるガスを利用して、ロケット弾を発射するための燃料を作っていた。つまり、イスラエルの融和政策は、裏切られたことになる。
このニュースが重要なのは、イスラエル国内で、融和政策に反対する人が一定程度いる根拠になっていることだ。ガザ地区に人道支援物資や燃料を供給すれば、それはハマスの軍事力再建につながる。そういった認識と直結する。
また、今後、この地域にイスラエルだけでなく、パレスチナという国をつくって、共存している、といういわゆる2国家共存の考え方についても、それを受け入れるような雰囲気にならないのは、融和政策が裏切られたからである。
6.民主主義国かどうかで、情報の偏りがでている
さらに、注目すべきことは、意見を自由に言えるかどうか、である。イスラエルでは、筆者が聞いた際も、現政権のネタニヤフ首相に対する批判も含め、多くの人が自由に意見を述べていた。一方、ハマスが統治するガザ地区は、自由にモノが言える環境にあったといえるだろうか。さらにいえば、ハマスを支援するイラン、ハマスに味方してレバノンに拠点を置くヒズボラ、イエメンのフーシ派、皆、民主主義国ではない。自由にモノを言うことが妨げられている。
そうすると、情報のバランスが偏る可能性がある。イスラエルですら、イスラエルの政策に対する批判の人がいる。民主主義国ではない国や地域では、当然イスラエル批判が統一した意見かのようにでる。イスラエルを支持する意見は珍しく、イスラエル批判をする人の意見を聞くケースが急速に増えてしまう。実際に起きていることとはずれて、情報の偏りが出る。そのことを考えておかなければならない。
これは、さらにいえば、イスラム教徒が中心の諸国のニュースもまた、イスラエルに厳しいものが占める。世界で20億人いるイスラム教徒の発信力は、イスラエルを圧倒するだろう。それを踏まえたうえで、実際に何が起きているのか判断するバランス感覚が必要になるはずだ。
7.戦略的な状況を十分報じていない
そもそも、日本では、現地の防衛面も含めた戦略的状況を分析したものが少ない。筆者がイスラエルを訪問したのは11月後半だが、ハイファ訪問時は、イスラエル北部のヒズボラからロケット攻撃があり、イスラエルの迎撃システムが上空で撃墜した。また、滞在していたテルアビブのホテルから20分ほどのところにヒズボラのロケットが着弾した。これらの攻撃では死傷者も出た。
イスラエルは、小さな国である。東西幅は一番広いところで135㎞、狭いところは80㎞ほどしかない。日本が、東西3500㎞、南北も3500㎞くらいあり、東京から大阪まででも500㎞もあるのに比べると、その小ささがわかる。しかも人口も少ない。1000万人ほどしかいない。日本でいえば東京の人口より少ないのだ。ユダヤ人が8割、2割はアラブ系である。
そのような小さな国が、20億人いるイスラム教徒に囲まれて存在している。当然、国が消滅する危機感を持っているから、男女とも徴兵制の国防政策をとってそなえている。もし攻撃があれば、国内に防衛線を立て直す場所はないから、基本的に、「攻撃は最大の防御なり」として、攻めていく防衛政策をとってきた。
ハマスは、そのような国を攻撃したのである。しかも呼応して攻撃し始めたレバノンのヒズボラや、イエメンのフーシ派、そしてミサイル攻撃を行ったイランは、現在でもイスラエルにロケット弾やミサイルを降らしている。イスラエル人は、これらのミサイルの1発だけでも核兵器なら、イスラエルはもうこの世にはない、と筆者に述べていた。だから、10月7日のテロ攻撃の後、イスラエルが激烈な反応を示すのは当然といえる。そういった、その国が置かれた戦略的環境と、そこからくる危機感、心理的状況について、報道では、きちんと説明するべきである。
写真:イスラエルの地下病院。核攻撃にも耐えられる(筆者撮影)
写真:ガザ地区では戦闘中で煙(筆者撮影)
8.シーア派とスンナ派では意見が違うことを十分報じていない
イスラエルがハマスと戦う中、イラン、イランが支援する武装勢力であるヒズボラや、イエメンのフーシ派は、イスラエルに対して攻撃を行っている。ただ、その他の国々はどうしているのだろうか。
今回、東京からイスラエルへ向かうフライトで興味深い体験をした。フライトは、UAEの航空会社で、UAEのドバイを経由し、サウジアラビアやヨルダンの上空を通って、イスラエルのテルアビブにまっすぐ向かったのである。UAEやサウジアラビア、ヨルダンが上空通過を認めていなければ、ありえないルートで、数年さかのぼれば、なかったルートである。これらのスンナ派の国々は、イランがイスラエルにミサイルを発射した時も、迎撃している。スンナ派の国々の対応は、シーア派とは違うのである。
UAEやサウジアラビアといった国々が、シーア派を恐れるのには理由がある。これらの国々は、石油を重要な収入源としているが、地域の住民はシーア派だ。一方、国をかじ取りする王族はスンナ派である。だから、イランは、これらの国々の住民に、自らの地域の資源の権利を主張するよう促している。スンナ派の王族たちにとって、イランは、革命を起こそうとして画策する、脅威なのである。
また、それ以外の事情を抱えている国もある。例えばエジプトだ。地図を見ると、ガザ地区については、イスラエルだけでなく、エジプトと接している。エジプトは、ガザ地区の住民を救うために国境を開放して、国内に受け入れたのか。そうではない。国境をより厳しく管理しただけである。エジプトに言わせると、もしガザの住民を受け入れたら、住民を追い出したいと思っているイスラエルの思うつぼだ、というものである。しかし、その背景にはエジプト側の事情もある。もともとハマスは、エジプトから追い出された勢力を中心に結成されており、エジプトとしては戻ってきてほしくないのだ(ただ、エジプトは、最悪の事態に備え、人々を収容可能な大規模隔離施設らしきものを建設している)。
ヒズボラがいるレバノンも事情がある。レバノンの政府は、キリスト教徒も含め、様々な勢力の集合体だ。その中で、ヒズボラは、強大な軍事力を背景に、シーア派住民の代表として影響力を拡大してきた。だから、今回、イスラエルとヒズボラが戦い、ヒズボラの軍事力が低下すると、結果としては、レバノン政治で、他の勢力が有利になる。だから、表向き、レバノン政府は、イスラエルを批判しているが、内心では、国内政治の中で影響力を拡大するチャンスについても、考えているだろう。イスラエルで、レバノン政府のヒズボラ以外の政治勢力と連携するか聞いてみたが、過去、1980年代のレバノン侵攻時にやって失敗したことがあるから、あまり魅力的ではない、との回答だった。
このようにしてみると、イスラエルの話をすると、すぐ、ユダヤ教徒対イスラム教徒、といった構図で報じるメディアが多い。しかし、実際には、ハマス、ヒズボラ、フーシ派、そしてイランといった勢力は、イスラエル以外のスンナ派の国々から嫌われている側面がある。ユダヤ教徒対イスラム教徒、といった報じ方は、まるで、「強大なイスラエルに立ち向かう貧しいパレスチナ人の代表ハマス」といったイメージを作ってしまう可能性があるが、実際には、そうではないのだから、メディア報道では、そういったイメージにならないよう、気を付けるべき側面だと考えられる。
写真:イスラエルへはスンナ派アラブ各国上空を通過(筆者撮影)
9.インド太平洋とのつながりを十分報じていない
中東情勢を報ずるとき、それが日本の戦略にとってどう関係するのか、日本のメディアは、十分に報じていないことも課題である。そもそも、今回の中東情勢は、アメリカが、対中戦略を重視し、中東やヨーロッパからできるだけ撤退して、インド太平洋に資源を集中させようとする動きから生じたものだからだ。
もしアメリカが中東から撤退するならば、アメリカ不在の間、留守番が必要だ。アメリカの中東における国益は、イスラエルを守り、イランを封じ込めることである。だとすれば、留守番の代表格は、スンナ派のリーダー格サウジアラビアである。だから、2016年、トランプ大統領の最初の外国報告先はサウジアラビアだったし、トランプ政権末期にはエイブラハム合意を結んで、イスラエルとUAEの国交樹立をアレンジした。UAEの後に、イスラエルとサウジアラビアの国交樹立を行い、イランを封じ込めれば完成するはずだったのである。
バイデン政権も、大まかにはこの流れを引き継いだのだが、バイデン政権では、イデオロギーが邪魔をした。バイデン政権は、過去にさかのぼってサウジアラビアの、ジャーナリスト殺害や、イエメンでの民間人への誤爆などを理由に、サウジアラビアに対して制裁をかけた。だから、サウジアラビアとの関係が悪化して、イスラエルとの国交樹立の動きは鈍ってしまった。
その間に、イスラエルとサウジアラビアの国交樹立をぶち壊しにしたい勢力に時間を与えてしまった。まず、対中戦略のための動きは、中国にとっては面白くない。封じ込められそうなイランも面白くない。イスラエルとサウジアラビアが国交樹立したら、ハマスも、存在感を失う。ハマスもこの合意をぶち壊しにしたい。これらの勢力が望むのは、ハマスのテロ攻撃である。テロ攻撃によって、ユダヤ教徒対イスラム教徒、という構図をつくり、イランとサウジアラビアの和解を勧め、イスラエルを追い詰め、アメリカがイスラエルを守るために中東に全力をかけるようになることが、望ましいことになる。
ハマスは、2年かけて軍事作戦を練り、事前にイランなどにも説明し、事前の訓練まで行っていたようである。武器は、中国製、ロシア製、北朝鮮製の武器を保有・使用したことがわかっている。10月7日のテロ攻撃が起きたとき、中国政府の声明は、イスラエル非難を含むものになっており、こうした姿勢をもってイランとサウジアラビアに、中国はイスラム各国の味方だとアピールしていることがわかる。
つまり今回の中東情勢は、実際には、インド太平洋の情勢と深く結びついて起きた。中国の脅威に直面する日本にとって、他人事ではない。そのことは、もっと日本で報道され、議論されるべき課題のはずである。
10.日本の国益の即した議論がなされていない
では、今回の中東情勢で、日本の国益はなんだろうか。どちらが正しいか、といった観点も必要ではあるが、どちらかというと、いい悪いではなく、打算的にみて、どちらにつくのが日本にとって得なのか、といった議論が必要である。
その際、日本にとって、必要なのは、自らが置かれた状況を理解することである。実際、G7でもQUADでも、日本だけがイスラエル支持を明確にしていない。戦争では、敵味方を明確にすることが求められる。ロシアがウクライナ侵略をしたとき、インドだけが対ロシア制裁に参加しなかった。イスラエルのことになると、今度は、日本だけが参加しない、というわけである。それでいいのだろうか。
アメリカの大統領選挙を見てみると、今回の大統領選挙に最も影響を与えた外国があるとすれば、それはイスラエルだろう。バイデン政権のイスラエルに対する姿勢は、自らの支持者からも反対者からも批判された。一方、イスラエル支持が明確なトランプ政権が勝利した。アメリカに対してイスラエルは大きな影響力を持っており、日本がアメリカと付き合う上でその影響力は見逃せない。実際、アメリカのエリート社会ではインド系の勢力も増しているが、やはりイスラエル支持の国であることは注目に値する。
日本ではイスラエルを支持すると、石油の供給源としての中東のイスラム諸国との関係が影響を受けるのではないか、と懸念する見方もある。日本は8割以上の石油を中東から輸入しているからで、過去に、イスラエルに味方した国々が石油を禁輸されたことを見て、心配するのである。しかし、イスラエル支持を明確にして、イスラエルから武器もたくさん輸入しているインドが、10月7日のテロ攻撃の後、UAE、サウジアラビアだけでなく、イランとすら共同軍事演習を行っている。上述のように、中東には、別の対立、シーア派とスンナ派の対立があり、インドの存在は双方にとって魅力だ。だからインドは、イスラエル支持を出しながらも、他の国々とも友好関係を維持できる。日本は心配しすぎである。自らに魅力があれば、インドのように、うまく立ち回ることは可能なのだ。
しかも、イスラエルには、魅力がある。中国も欲しがっていた、ハイテク技術だ。今は、中国がイスラエルに近づき難い状況がある。いまこそ、日本が、積極的に交流するべき時である。G7やQUADでは他の参加国と同じく、イスラエルへ支持や理解の表明や、ハマスやヒズボラのテロ組織の指定などを着実に行うべきだし、対イスラエル投資をする国が減っている今、投資を行って、ハイテク技術の獲得を狙うべきだ。
日本とイスラエルの外交は、安倍晋三首相が「地球儀を俯瞰した外交」を推進した時に、活性化した。その柱は、ハイテク技術、サイバー技術などの協力で、防衛協力が推進された。今、安倍首相が殺害されてしまった後、そういった先見の明がある外交ができていない。日本のメディアに見られる反イスラエル一辺倒の報道ではなく、より深く国益を狙う、地球儀を俯瞰したメディア報道が求められている。