第202回国際政経懇話会
「インド−太平洋の連結:ASEANとQuadの架け橋としての日本の役割」

2024年11月25日(月曜日)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
日本国際フォーラム等3団体の共催する第202回外交円卓懇談会は、スティーブン・ナギ(Stephen Nagy)国際基督教大学教授を講師に迎え、「インド-太平洋の連結:ASEANとQuadの架け橋としての日本の役割」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2024年11月25日(月)15:00〜16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室における対面、オンライン形式(Zoomウェビナー)
3.テーマ:「インド-太平洋の連結:ASEANとQuadの架け橋としての日本の役割」
4.講 師: スティーブン・ナギ(Stephen Nagy)国際基督教大学教授
5.出席者:32名
6.講話概要:
スティーブン・ナギ講師による講話の概要は次の通り。
その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われた。
(1)日本の外交政策
国際的な関与を制限しがちであった日本は、安倍晋三元首相のリーダーシップを契機に、積極的平和主義の採用等の外交政策の根本的な改革に踏み切った。この流れのなかで、自由で開かれたインド太平洋が提唱され、同構想は日本の優先事項のひとつとなった。
日本は多様な国家をつなげる「コネクター」としての能力を発揮し、自由で開かれたインド太平洋のビジョンのもとで、日米豪印の間に安全保障対話が創設された。これら4カ国の対話であるQuadは、インフラ、接続性、技術協力、開発援助に限らず、捜索救助、人道支援、災害救援に取り組むアドホックな安全保障パートナーシップとなり、さらに、地域を結ぶ海上交通路を開き、国際法に基づく海洋状況把握と海洋安全保障の強化に寄与している。
(2)ASEANに対する日本の役割
日本とASEANの関係は、経済協力、政治的関与、海洋安全保障という3つの基本的な柱の上に成り立っている。日本はASEAN諸国に対する海外直接投資(FDI)と政府開発援助(ODA)の主要な供給国であり、それらは東西経済回廊および南部経済回廊の整備に活用された。日本はASEANの地域内統合の発展を支援し、ASEAN諸国は意思決定プロセスにおいて、より戦略的な自主性を持つことができるようになった。日本はASEAN地域フォーラム(ARF)、ASEANプラス3(APT)、東アジアサミット(EAS)といったASEAN主導のイニシアティブに積極的に参加している。日本がこれらのイニシアティブに参加する理由は、中国の勢力拡大にともなう対抗だけでなく、ASEAN諸国とインド太平洋地域におけるビジョンを共有することに価値を見出しているからである。ほかに日本は、海洋、特に南シナ海の平和を重視している。日本はこの海域で領土問題を抱えているわけではないが、ASEAN諸国と中国との間で紛争がおきればシーレーンが寸断される恐れがあり、日本はベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシア等へ船舶供給、人材育成や訓練などの支援を行っている。フィリピンとは、日・フィリピン部隊間協力円滑化協定(RAA)を署名した。こうした状況にはあるが、ASEAN諸国は、中国に対する挑発行為と受け取られる可能性があるため、かならずしも日本と強力な安全保障パートナーシップを構築することを快く思っていないことに注意することが重要であろう。
(3)Quadにおける日本の役割
日本は2004年スマトラ島沖地震の後、地震による非安全保障上の課題に対処するため、インド、オーストラリア、米国を結びつけ、4カ国関係を開始した。その後の一時期、4カ国関係は停滞したが、2017年に日本が海洋安全保障上の課題に対処するために再活性化をすすめ、現在のQuadへと続いている。中国とアメリカのどちらにもつかずにバランスをとりたいASEAN諸国にとって、Quadはその障害とみなされるところ、日本はASEAN諸国の不安を軽減するため、Quadが安全保障の枠組みではなく、東南アジア諸国に公共財を提供するものであることを示した。現在、日本はQuadにおいて、インフラ、環境、テクノロジー、海洋安全保障に関するイニシアティブに積極的に取り組んでいる。2020年には、非公式ではあるがベトナム、韓国、ニュージーランドといった国々を含むQuadプラスが実現した。今後Quadプラスにより、経済発展や地域の安全保障などに関する協力の機会がさらに増えることになるだろう。
(4)ASEAN諸国とQuadをつなぐ日本の課題
日本は、ASEANとQuadの架け橋としての役割を担っているが、まだ課題も多い。特にQuadへの積極的参加がASEANの基本原則を脆弱にし、ASEAN内部の分裂を引き起こさないよう留意しなければならない。また米中対立のなか、Quadが対中安全保障の姿勢を強めていけば、ASEANからの支持は得られなくなってしまう。日本としては、Quad と並行してASEANとの関係の強化を続ける必要があるだろう。またFOIPをASEANの価値観と整合させるためにも、日本がFOIPにおいて東南アジア諸国が果たす中心的役割を強調し、地域内の経済・インフラ開発にコミットし、国際法の遵守と平和的対話を促進し、地域的協力のためのASEAN主導のイニシアティブを強調することが重要である。
ほかに、日本経済は弱体化しており、少子高齢化問題もある。これは、架け橋の役割を維持する上での障害になるかもしれない。加えて、米国におけるトランプ大統領の再登板と「アメリカ・ファースト」の復活により、米国が日本の地域戦略における障害となる可能性がある。
(5)海洋安全保障に向けた日本への提言
最後に、今後日本が地域における海洋安全保障を強化するために、次の点をあげたい。第一に、東南アジア海域において、包括的な「海洋領域認識ネットワーク」を構築することである。そこにはカナダなど他の国も積極的に参加させるべきだろう。第二に、「海洋領域認識ネットワーク」によりIUU漁業へ対応することである。フィリピン、インドネシア、ベトナム、マレーシアにとって漁業資源は不可欠であり、こうしたASEAN諸国のニーズにQuadが応じることがより大きな価値をうむことになる。第三に、ASEAN諸国に港湾施設や沿岸インフラを提供し、ASEANの海洋能力の向上を図るべきだろう。
(文責、在事務局)