中国が重視する日中韓協力

2024年5月27日、韓国・ソウルにおいて、第9回日中韓サミット(岸田文雄首相(当時)、尹錫悦韓国大統領、李強中国首相が出席)が開催され、日中韓協力を推進することに改めて合意された。前回第8回日中韓サミット(2019年12月24日開催)から、コロナ禍を経て、4年半ぶりのサミットの開催であった。
 日中韓の政治指導部が、3か国協力を推進することを改めて指示したこともあり、今回の会議が開催された。中国側が設定した今回の会議の副題は、「中日韓協力の再出発を推進する-新しいビジョン、新しいダイナミズム、新しい構造」であった。主催した中国・外交学院のウェブサイトには今回の会合の結果について記事が出ている。
  https://www.cfau.edu.cn/col2982/col2986/c1d383eb6e6a431aa8863dd62f9ddc89.htm
 外交学院は、中国の外交官を養成する大学であり、またシンクタンクとしての役割も果たしている。同大学には、アジア研究所中日韓協力研究センターという組織も作られている。日中韓協力について継続的に会議開催などをしている。外交学院は、10年前と5年前にも、日中韓協力記念行事を開催した(15周年記念行事は長春で、20周年記念行事は北京・釣魚台国賓館で。)
 中国側は今回の記念会議開催に力を入れており、中国外交部孫衛東副部長が出席して挨拶し、また吉林省胡玉亭省長が主要参加者と会見し(日韓からの投資を呼びかけていた)、さらに参加者全員を招いて歓迎の夕食会を開催してくれた。
 中国は、外国との交流をいわば担当する地域・地方を決めることがあるが、吉林省は、地理的な観点から、日中韓3か国協力を行うことが割り当てられているようでもあった。
 配布された資料によれば、会議に出席したのは官民関係者だが、その人数は、中国から87人、日本から21人、韓国から7人、そして韓国にある日中韓協力事務局から2人(李熙燮事務局長ら)となっている。中国からは、王帆・外交学院院長、元大使(寧賦魁元駐韓大使、邱国洪元駐韓大使)、研究者らが参加した。邱大使は日本語がとても上手な中国外交官であり、東京の中国大使館勤務経験もあり、かつて私もいろいろ意見交換したり協力したりしていたので、今回久しぶりに面会して、旧交を温めた。日本からは金杉憲治・駐中国日本大使、浜田隆・在瀋陽日本総領事、そして元外交官(遠山茂・元駐ソロモン大使)、経済実務家、研究者らが参加した。韓国からは、元大使(丁相基・前東北アジア協力担当大使、申鳳吉・日中韓協力事務所初代事務局長、朴俊勇・元駐サウジアラビア大使)や研究者達が参加した。
 会議では、日中韓3か国協力の歩みを振り返り、首脳会合の他に21もの閣僚会合が活動していることが肯定的に評価され、経済、社会、文化、教育などでの多様な協力推進の必要性が強調された。

過去25年とは異なる今日の状況

日中韓三カ国協力は、ASEAN+3首脳会議の際に、1999年に小渕恵三総理(当時)のイニシャチブで、当時の日中韓首脳が朝食会をしたことに端を発する。今回の会議でも、各国からの参加者がみな、過去25年間には紆余曲折はあったものの、3か国協力は有益だったと振り返っていた。
 私も、2001年に外務省アジア大洋州局地域政策課長として、ASEAN+日中韓協力を担当していたが、今から振り返れば、いわゆる歴史問題などの問題はあったが、グローバリゼーションの波に乗るという大きな流れの中で、FTAを推進し、ASEAN+3地域の地域統合を推進していくことができたと思う。韓国は1996年12月にOECDに加盟し、中国は2001年12月にWTOに加盟した。そのような中で、日中韓三カ国にとっても協力を進めることが共通の利益であることが認識されていたと思う。外相の会合を始めるなど、政治面での協力も開始されたことも意義深い。
 1999年に日中韓三カ国協力のイニシャチブをとられたのが小渕総理であり、韓国大統領が金大中氏、中国首相が朱鎔基氏だったことも感慨深い。これらの首脳の間には、相互間の信頼と尊敬の念もあった。米国においては、中国の経済発展を支援し、中国を国際社会に包含していこうとする、関与政策の考え方もあった。
 この25年間を振り返れば、中国がグローバリゼーションの果実を享受し、より開放的な体制となったことは大きな成果だと言える。私は2004年から2007年まで在中国日本大使館で広報・文化・教育交流を担当していたが、当時長春には、日本に留学する前の中国人学生が訓練をうける特別のコースがあり(中国赴日本国留学生予備学校)、教育交流担当の私は、視察と、日本に留学する前の学生達を励ますために長春を訪れたことがあった。そのようなことを今回の久しぶりの長春訪問で思い出した。
 今日、多くの中国人が観光や留学で日本を訪れ、滞在している。そして対日認識も、もちろんまだ問題はあるのだが、それでも改善した面も少なからずあると言える。日本に留学し、働いている中国人達と話をすると、かなり率直な意見交換ができるようになったと感じる。
 中国が、日中韓協力に期待していることは、このようなグローバリゼーションの流れを引き続き確保していく上で、日韓の協力を求めていくことがあるだろう。日本としても、中国が国際社会に組み込まれ、韓国と共に一緒に国際社会に貢献していくとの方向性を堅持すべきである。その意味でも、日中韓3か国協力の枠組の維持と発展は大変重要である。
 他方、今後について、いろいろ楽観できない状況もある。日中韓3か国FTA交渉も、RCEPより高度な内容を盛り込むべきだが、経済安全保障の重要性が強く意識される中で、種々の困難もあるだろう。総じて言えば、グローバリゼーションの陰の部分の問題が大きくなっている。勝ち組と負け組が現われ、グローバリゼーションで果実を享受できない人たちからは新自由主義への怨嗟の声が聞かれる。そしてそのことも背景にして、ナショナリズムを刺激したり、領土・境界問題等での対立が先鋭化したりしている。これらの問題に取り組むことが求められている。さもなければ、これまでのグローバリゼーションの成果も掘り崩されかねない。
 つまり日中韓3か国協力は、この3か国だけではなく、世界情勢からも大きな影響を受けるということである。
 私は、上記の認識を踏まえて、話の風呂敷をやや広げて、過去25年の間には、中国とロシアが国境問題を最終的に解決したこと(2004年)、またつい最近も中国とインドが国境地帯の安定維持のための方策に合意したとの報道があることに言及して、これらの肯定的側面を評価し、それが周恩来と鄧小平の路線の上に結実したものだとの私の理解を述べた。そして、それは今でも重要な意味があると考えると発言した。更に私から、北朝鮮の兵士がロシア・ウクライナ戦争に投入されるとの報道に言及し、そのことは、東アジアにとっても懸念される状況だと発言した。
 韓国の元大使達からも、以下の通り率直な意見表明があり、私もそれらを支持し、同調する発言をした。
「中国入国の査証(ビザ)取得手続きはとても煩雑なので、撤廃してほしい。」
「韓国のTHAAD配備後の中国からの対韓制裁にはとても困惑、迷惑した。」
「中国のいわゆる『戦狼外交』は止めてほしい。」
「韓国にとり、米国との安全保障協力は死活的に重要であり、そのことを中国も理解すべき。」
 安全保障問題については、中国のある元大使からは、日中韓3か国の安全保障分野の対話も推進すべきとの提案があった。
 中国、韓国の出席者から、歴史問題に言及があった。やはりこの問題が今でも敏感なことを改めて思い知らされた。私からは歴史問題を政治問題化しないという点で、日中韓3か国関係者の努力は評価されるべきと発言し、今後ともたとえば研究者達による静かな環境下での対話は有意義だろうと発言した。中国のある研究者からは、「歴史認識が異なるからといって協力をしないのであれば、いつまでたっても協力はできない」との発言もあり、私からはこの意見への賛意を表明しておいた。翻って考えてみると、ロシア・ウクライナ間にも歴史認識の相違があり、そのことも紛争の一つの要因になっているとも見られる。対話できる時に対話をし、相互理解を深める努力をしておくことは重要だと改めて考える。

結論

経済・文化・社会その他分野の協力を進めつつ、安全保障も確保していくという二つの課題への取り組みをいかに両立させるか、この問題に、日本、韓国ともに直面している。そして中国に対する外交も行っていかなければならない。海洋国家とユーラシア陸上国家との間の距離が離れていくような傾向も見られる中で、コロナ禍が終わった後の対話と交流を再活性化することは重要である。私も食事などの機会を使って、中国側の関係者に、どのような問題が交流の障害になっているか、そして何が日本で懸念をよんでいるのかについて種々説明し、先方の理解も多少は深まったものと思う。
 外交学院は、おそらくは、日中韓3か国協力を推進することが必要だ、との趣旨の提言を中国指導部にあげるのであろう。それはそれで結構なことであるが、そのためにそれぞれが努力しないといけないことも理解してもらう必要がある。
 世界では、グローバリゼーション推進と反対の2つの流れが拮抗し、同時にナショナリスティックな対外路線が往々にしてとられている。これらの様々な方向性が、調整されない状態で打ち出されている。そのため世界全体に大きな困惑が広がっている。中国の指導部とアドバイザー達にも、これらの諸情勢を総合的に検討・勘案して、どのような路線をとるべきなのかをよく考えてもらう必要がある。
 多くの参加者から、日中韓3か国協力は推進すべきであり、首脳も毎年1回は会うべきとの意見が出された。2国間関係が難しい時でも、3か国ならば、やりやすいこともある。外交学院およびその他の研究所の関係者が私に述べたところでは、今後とも日本の関係者を招いて様々な会議を開催したい、来春には、米国新政権発足を受けての展望について議論したいとのことであった。様々な機会をとらえて、メッセージを伝えていくことが必要である。