(1)米中対立と内政の反映

各国の内政の展開は、国家間の対立関係に与える影響も多岐にわたるため、米中対立時代の米中関係を捉えるためには、両国の内政の観察が欠かせない。

(a)中国

中国は権威主義体制下にあるとはいえ、その内政は国民の経済状況と民意に影響を受けやすい。当該政権による国内経済への介入や反腐敗闘争が、どれほど民意に訴え、達成されるかという成果によって、政権の強度は変わってくる。とりわけ、米中対立の激化を受けて、中国国内の対米感情は悪化傾向が続いているほか、米国主導で進められているロシアへの経済制裁への影響力などもあり、現在、中国は米国への過度な依存の解消を試みている。また、中国国内世論向けに愛国教育も再開した。こうした状況を踏まえると、今後中国において、反米世代が創出される土壌が出来つつあるといえる。

(b)米国

現在、米国内では、共和党の変質が浮き彫りになっている。この変質は、経済的格差に根ざす「分断」に端を発する。そもそも分断の原因は、1990年代後半よりグローバル化進行に伴って新興産業が急成長する一方で、一般労働者の重厚長大型産業が衰退し、中産階級の成長が低迷したことで、経済的格差が大幅に拡大したことにある。こうした経済的格差が広がるなかで、当時のオバマ民主党政権は、情報産業・グリーン産業といった新興産業重視に踏み切ったことで国内の批判が集まり、いわゆる「トランプ現象」を引き起こした。このトランプ現象の本質は、民主党の多様性の価値観を攻撃しつつ、小さな政府の枠に固執せずに共和党の経済政策を中道に寄せることにあった。また、トランプ前大統領は、不法移民の増大や諸制度への信任が揺らぐ中において、「我々とは誰なのか」という線引きをし、「下層カースト」を創出した。中道の経済政策を持ち込みながら、社会保守のロジックによって強烈な反連邦主義・反エリート感情を利用する彼の手法は、2016年から変わらない。その意味で、米国は依然として2016年からの課題を背負い、分断が続いている状況にあるといえよう。

(2)各国に対する認識

(a)国民感情(好感度・信頼度)の調査

山猫総合研究所は、日本、中国、韓国の三か国の国民の対外認識や消費行動などについてインターネットパネルを利用した調査を行っており、本日はその調査結果を紹介したい。中国の対日信頼度は、最悪期の2014年(調査開始年)から2023年(最新調査年)にかけて次第に緩和するとともに、好意度も2023年にはポジティブ感情とネガティブ感情が五分五分の状況にある。中国の対日、対米感情の特徴の一つとして、学歴や世帯収入、収入見込みが高いほど、好意度が上昇しやすい点が挙げられる。この調査結果だが、米中対立時代と称される一方で、米中の経済的な相互依存関係は維持されるという非対称的な側面、すなわち経済成長や貿易による恩恵等が影響したものと考えられる。また、韓国の対日感情については、2019-20年で悪化し、尹新政権によって持ち直したものの、依然ネガティブ感情が強い。他方、日本の対中感情は、継続的にネガティブ感情が極度に強いほか、対韓感情においてもネガティブ感情が強い。日韓の対米信頼感については、バイデン政権発足以降、回復傾向が見られる一方で、中国の対米感情はネガティブ感情が増大している。また、日韓の対露感情はウクライナ侵攻を受けて悪化する一方で、中国の対露感情は米中対立の結果として陣営化が進み、ポジティブ感情が極度に高まっているのが現状である。

(b)海外取引から見えてくる国民感情の違い

海外取引を通じた国民感情について調査結果を披露したい。日本の対中感情については、相互取引が増加するにつれてポジティブ感情も強まる傾向にある。しかし、対韓感情については、戦前、日本による韓国併合の歴史に加えて、そもそも日韓双方の経済の強みが類似しており長期的に増加する展望が望めないこと、BtoCの取引量が少ないことから、海外取引を通じた関係強化には課題が多い。また、対露感情については、ウクライナ侵攻にともなう対露制裁やビジネス撤退等によりロシアとの取引増加の展望が薄く、今後好意度が改善する見通しは暗い。他方、対米感情については、取引量が増加するにつれて国民の好感度は高まる傾向にあるが、そもそも日本におけるポジティブ感情の平均値が高いため、ネガティブ感情が高まる要素は少ない。

(c)相手国へのイメージと国民感情

国民感情とイメージの関係性についても興味深い調査結果が出た。韓国の対中感情では、好意に直結する「友好的」や「信用できる」といったイメージを持つ国民が少数である一方で、好意に繋がりにくい「強い」というイメージが広く浸透している。これは日本の対中感情でも同様の結果が示され、好感度に繋がりにくい「強い」「エネルギッシュ」のイメージが定着していることが分かった。また、日本の対韓感情については、若い世代による韓国カルチャーの積極的消費に起因して多様性を帯びるが、「親切」「多様性」「友好的」といったイメージに伸びしろがある。一方、中国の対日感情だが、好意に直結する「信用できる」や「友好的」、「平和的」のイメージは薄いものの、全体としては比較的好意に結びつくイメージが定着している。中国国民が海外旅行等を通じて日本に対する親近感を得る機会があったためであろう。ただし、中国の対米感情については、2023年時点こそ「好意」が全体を占めているが、今後の中国における愛国教育の影響や米中対立の行方等によって、そのイメージは悪化するものと思われる。

(3)自民党支持者の価値観の調査

日本人の自民党支持者の価値観の調査によれば、自民党への投票に結びつきやすい価値観は、集団的自衛権行使の一部容認や自衛隊の積極的活用、憲法9条改正、自由貿易への賛成を例とする外交安全保障や国際問題である。これらに続く形で、株価上昇や原発の当面維持の価値観等が挙げられる。一方、日本の伝統行事の尊重をはじめとする社会的価値等は自民党への投票との相関が低い。また、党派対立の対象となる価値観は、日米同盟強化の是非、防衛予算の増加の是非、憲法9条改正の是非、集団的自衛権の一部行使容認の是非に関するものである。かつて、国論に至った自衛隊の積極的活用はもはや主要な対立軸ではなくなり、他にテロ対策強化といった比較的新しいテーマは広く国民に共有されたため、強い党派対立に繋がらない。その意味で、党派対立の主要領域は、特に憲法や日米同盟が関わる領域において対立する傾向が強い。2019年参議院選挙で立憲民主党が党派対立の弱い、社会的多様性を全面に押し出し、その結果選挙に惨敗したことは、この調査結果からも理解できるのではないか。このほか、2021年衆議院選挙の比例票の調査によれば、自民党が獲得してきた比例票には安定性があり、2009年にはあった革新票と改革票が一致団結して政権交代した時代を再現するには、立憲民主党と日本維新の会の共闘のほかない。とはいえ、立憲民主党が掲げる価値観と日本維新の会が掲げる価値観は合流しにくいのも事実である。以上のように、国内政治の分断は、外交安全保障の対立軸と、現状維持か現状打破かという対立軸によって理解できる。ただし、強調すべきは、党派で価値観が分かれることが正しいとか間違っているとかいうことではない。現実問題として、外交安全保障の価値観をとる人が国民の多数を占めるため、安全保障でリベラル票を惹きつける戦略を維持する限りは、政権交代は難しいということである。

(文責、在当法人)