(1) 今日の国際情勢認識

今日の国際社会を取り巻く情勢は歴史の転換点にあるといえる。冷戦終結後、自由で開かれた国際秩序の拡大と、それを前提とした経済のグローバル化、相互依存の進展が見られた。その後、ポスト冷戦期に突入し、その大きな変化としては、①世界全体としての格差縮小(十分に恩恵を受けられない国々の存在、先進国における国内格差の拡大)、②新興国・途上国の台頭(パワーバランスの変化、地政学的な国家間競争の激化等)、③経済分野の新たな課題、新興技術の発展(安全保障の裾野の拡大)といえる。また、地球規模課題の深刻化も相まって、もはや大国においても一国のみでの解決は不可能な状況である。その意味で、今日の国際関係は、対立や競争と協力の様相が複雑に絡み合う状況にある。

(2) ロシアによるウクライナ侵略

2022年2月にロシアによるウクライナ侵略が開始されたが、この侵略は国際秩序の根幹を揺るがす暴挙であるとともに、主権及び領土一体性の尊重、武力行使の一般的禁止といった国連憲章上の原則へのあからさまな違反でもある。2023年2月に、国連総会緊急特別会合にて、ウクライナの平和を求める決議が141票の賛成多数で採択されたが、そもそも平和とは、単に敵対行為が停止すればよいものではなく、主権や領土一体性の尊重といった国連憲章上の原則に基づく、包括的で、公正で、かつ永続的な平和でなければならないと考えている。この考え方は、ロシアによるウクライナ侵略に対する日本の立場にも明確に示されている。すなわち、①国際秩序の根幹を揺るがす暴挙、②ロシアによるウクライナの一部地域の違法な「併合」や民間人の殺害等は国際法違反であり、断じて正当化できない、③唯一の戦争被爆国として、ロシアによる核の威嚇は断じて受け入れられず、ましてやその使用はあってはならない、と考えている。また、ウクライナ支援(2024年2月現在)についても、日本はこれまで、ウクライナ関連支援として、人道、財政、食料、復旧・復興の分野で総額76億ドルの支援を表明し、着実に実施してきている。さらに、2023年12月のG7首脳テレビ会議で、岸田総理から、日本として新たに人道及び復旧・復興支援を含む10億ドル規模の追加支援を決定した旨述べ、今後この追加支援と世銀融資への信用補完を合わせて総額45億ドル規模の支援を行っていく用意があることを表明した。今後日本としては、一日も早くロシアによる侵略を終わらせるべく、G7を始めとする国際社会と連携しながら、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を推し進める。

(3) 日本外交の展望

日本は、戦後一貫して平和国家としての道を歩み、各国の多様性を尊重しながら、あらゆる国と同じ目線に立って共通の課題を議論し、相手が真に必要とする支援を実施してきた。すなわち、「しなやか」な外交を展開してきた。こうした努力により世界から得た日本への「信頼」が今日の日本外交の礎になっている。また、日本外交の基本方針としては、①日本の国益をしっかり守る、②日本の存在感を高めていく、③国民の声に耳を傾け、理解・支持を得る、という3点に重きを置いて、国民生活の安全と繁栄の確保、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のための外交を積極的に展開している。また、日本はG7のメンバー、そして安保理非常任理事国として、山積する国際社会の課題解決を主導しなければならないとも考えている。

(4) 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化

2023年3月、岸田総理は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプランを発表した。国際社会が歴史的転換点を迎える中、世界を分断や対立ではなく協調に導くために、改めてFOIPを強調することが重要と考え、新プランを策定した。基本的な考え方としては、①「自由」や「法の支配」を擁護し、「多様性」、「包摂性」、「開放性」を尊重すること、②これらを前提に、「対話によるルール作り」、各国間の「イコールパートナーシップ」を目指す。また、「人」に着目したアプローチも重視すること、③既存の連携を強化するとともに、中東、アフリカ、中南米に至るまで、FOIPの ビジョンを共有する輪を広げ、共創の精神で取組を進めていくことである。

(5) 日本を取り巻く安全保障上の課題への対応

安全保障上の課題への対応として、まず日米同盟の強化が挙げられる。日本の外交・安全保障の基軸である日米同盟を更に深化させ、もってインド太平洋地域の潜在力を安定と繁栄に繋げていく必要がある。そして、首脳、閣僚(日米「2+2」等)を始め、あらゆるレベルで緊密に連携することが肝要。また、経済版「2+2」を通じて、外交・安全保障と経済を一体として議論し、持続的・包摂的な経済成長とルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化に向け、日米で指導力を発揮する必要もある。さらに、同盟国・同志国との連携の強化も必要。具体的には、日米同盟に加え、同盟国・同志国間のネットワークを重層的に構築・拡大し、抑止力を強化していくこと、そして、日米韓、日米豪等の枠組みを活用しつつ、豪、印、韓、欧州諸国、ASEAN諸国、加、NATO、EU等との安全保障上の協力を強化することである。

(6) 日本の近隣諸国などとの関係及び地域外交の課題

(a)中国

現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向などは、これまでにない最大の戦略的挑戦である。具体的には、①十分な透明性を欠いたまま、軍事力を広範かつ急速に増強していること、②東シナ海、南シナ海等における力又は威圧による一方的な現状変更の試みを継続・強化していること、③ロシアとの戦略的な連携の強化、国際秩序への挑戦、④不透明な開発金融、他国の中国への依存を利用した経済的な威圧、⑤台湾周辺における軍事活動の活発化等が挙げられる。

(b)韓国

国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国であり、現下の戦略環境の中で、日韓関係の強化は急務である。その具体的なアプローチとしては、次のとおり。①北朝鮮への対応を念頭に、安全保障を含め、日韓・日米韓の戦略的連携を強化。また、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力やグローバルな課題について両国の連携を強化。②政治・経済・文化等、幅広い分野における日韓間の対話や協力を推進、③旧朝鮮半島出身労働者問題については、2023年3月6日に韓国政府により発表された措置を、非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価、④竹島は歴史的事実に照らしても、かつ、国際法上も明らかに我が国固有の領土であるとの一貫した立場に基づき、毅然と対応することである。

(c)北朝鮮

日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、 不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を実現することが急務。とりわけ、最重要課題である拉致問題は時間的制約のある人道問題である。日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題。解決には一刻の猶予もない。米国、韓国を始めとする関係国と緊密に連携し、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現するため、全力で果断に取り組んでいくことが肝要である。

(d)その他地域

東南アジアは、広大なインド太平洋の中心という地政学的要衝に位置しており、ASEANはFOIP実現の要。南西アジアについては、日本と中東・アフリカ地域を結ぶシーレーン上の要衝に位置する戦略的に重要な地域といえる。太平洋島嶼国は、太平洋国家の一員として、日本と様々なつながりを有する長年の友好国であり、地域の平和と安定を確保していく上で、また、FOIP実現の観点からも、戦略的に極めて重要な地域といえる。中東については、米国との同盟関係及び中東諸国との伝統的な友好関係をいかし、地域の緊張緩和と情勢の安定化に、外交努力を通じて貢献していく必要がある。アフリカは2050年に世界人口の4分の1を占めると言われ、若く、希望にあふれ、ダイナミックな成長が期待できる大陸。中南米は、長きにわたる信頼と友好関係を有し、価値や原則を共有する重要なパートナーである。また、豊富な資源(鉱物・エネルギー・食料)を有し、経済的潜在力が高い同地域との関係強化は戦略的にもますます重要である。中央アジア・コーカサスについては、ロシアと歴史的、経済的に緊密な関係にある中で、ロシアによるウクライナ侵略の影響を大きく受ける地域である。これまで日本は、「中央アジア+日本」対話等の枠組みも活用しながら、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するためのパートナーとして協力を推進してきた経緯がある。

(7) 人類共通の課題への対応

近年では、①気候変動、②国際保健、③食料、④テロ・暴力的過激主義、国際犯罪組織、④SDGs達成に向けた諸課題、⑤核軍縮・不拡散、⑥人権などが挙げられる。日本としては、新しい時代の人間の安全保障の理念に立脚しつつ、最も重要な外交ツールの 一つであるODAを様々な形で拡充する。そして、戦略的・効果的なODAの活用を通じ、FOIPの実現やSDGsの達成に向けた取組を加速させる。2023年6月に新たな開発協力大綱を閣議決定したことにより途上国への関与強化を内外に示すとともに、オファー型協力などODAを進化させるアプローチを提示していける環境が整った。いずれにせよ、日本の擁護する国際秩序が世界の人々の信頼に足るものであるために、人類共通の課題への対応を主導していく必要があることは言うまでもない。

(文責、在事務局)