(1)Nguyen Khang Tran ・ホーチミン市人文社会科学大学(USSH)国際関係学部講師の講話

(イ)グローバリゼーションへのベトナムの統合

グローバリゼーションは複雑で矛盾した現象であり、多くの国で生じてきたことであるが、現在のグローバリゼーションは冷戦が終結した 1990 年以降に生じている。ベトナムのグローバル化について考えると、ベトナムが世界に統合されるとともに、相互依存の状況になること、ベトナム人やベトナム社会にグローバルな意識が起こるなど多様なプロセスが同時に生じてきた。それは一方通行の現象ではなく、統合もあれば崩壊もあり、収斂もあれば乖離もあり、相互依存もあれば依存や不平等もあるなど非常に複雑な現象であった。
 グローバリゼーションによってベトナムは大きく変化した。最も重要な出来事は80年代以降のドイ・モイ政策であり、ベトナムが閉鎖的な社会から開放的な社会へと変わり、世界に開かれ、世界と再びつながるようになった瞬間である。ベトナムは海外からの投資を歓迎するとともに、米国や日本との関係も正常化し、韓国、オーストラリア、欧州各国など世界の多くの国々と強いつながりを築き始めた。トーマス・フリードマンが世界のフラット化について触れているが、そのプロセスはベトナムでも生じたのである。
 近年では、ベトナム企業が開発したSNSアプリである「Zalo」によって、多くのベトナム人が世界とコミュニケーションをとっている。また、ベトナム航空(VN Airlines)やベトジェットエア(Vietjet Air)、バンブーエアウェイズ(Bamboo Airways)、ベトラベル航空(Vietravel Airlines)などの発展により、多くのベトナム人がどこへでも行けるようになった。今やベトナムと日本との行き来はとても簡単になった。さらに、ベトナムでは世界がベトナムを訪れることを歓迎している。観光は、ベトナムが世界規模で観光客を歓迎するだけでなく、世界を魅了するためのイメージや文化、ソフトパワーを示す方法でもある。
 ベトナムのグローバルゼーションへの統合は政治分野でも進んでおり、ドイ・モイ政策以降、190ヵ国以上の国家と二国間関係を確立した。また、1995年のASEAN加盟を始め、AFTA(1996年)、ASEM(1996年)、APEC(1998年)、WTO(2007年)など多くの国際機関への加盟を進めてきた。

(ロ)ベトナム経済のグローバリゼーションへの統合

グローバリゼーションを支持する多くの人々にとって、グローバリゼーションは経済と貿易を発展させるためのプロセスである。ベトナムはグローバリゼーションのおかげで経済が発展し、生活水準が向上した。例えば、1993 年時点でベトナムの貧困率は約 58%だったが、2000 年代には 16%まで減少し、約 3,400 万人が貧困から脱出した。ベトナム経済のグローバリゼーションへの統合は、ベトナムの国内総生産(GDP)にもプラスに働いてきたが、Covid-19の世界的な大流行による影響もグローバリゼーションがもたらす結果である。2021 年には GDP が減少したが、2022 年以降は回復し、2022 年のGDP成長率 は約8%であった。これは東南アジアで最も高い数値のひとつである。その他にも、ベトナムの小売売上高や消費財・サービス業に関する非常にポジティブなデータもあり、2023 年の GDP 成長率は6.5%、一人当たり GDP は 4,400 米ドルとなっている。つまり、2023 年はベトナムもそうだが、タイ、インドネシア、マレーシアといった東南アジア諸国にとっても非常にポジティブな年であった。

(ハ)ベトナムの将来性について

日本の著名な国際政治経済学者である浜田和幸氏は、その著書(『未来の大国 -2030年、世界地図が塗り替わる』)のなかで、ベトナムが将来有望な国であると述べている。その要因として、人口構成の若さや急成長する国内市場、逆境に打ち勝つ精神、痛みを力に変えること、そして巧みな外交戦略(「竹の外交(Bamboo Diplomacy)」などを挙げている。
 最新のデータによると、2023年にベトナムの人口は1億人を超え、人口の黄金時代に入っている。これは、ベトナムの急速かつ持続的な発展につながる特徴を示している。第一に、平均所得範囲の人口の多さや急速な成長は、ベトナムを注目すべき市場にしている。第二に、ベトナムは「黄金人口構造(Golden Population Structure)」の時期に 1 億人に達し、豊富な労働力を持つようになった。第三に、ベトナムが人口 1 億人に達したのは、出生率が低下し、「二人っ子家族」モデルが普及した時期である。つまり、人口成長と購買力の上昇は、かつて日本や韓国、他の多くの国が経済を発展させた奇跡の瞬間と同様であり、ベトナムを注目すべき市場にしている。しかし、ベトナムの労働生産性は高くないため、労働生産性を向上させるために日本から支援を受ける必要がある。

(ニ)ベトナム産業のグローバル化

現在、ベトナムの多くの若者の間では、iPhone を買う人が多く、サムスンの製品や日本の自動車を持つことがトレンドである。ベトナム国内のITが発展するなかで、この分野でのベトナム企業も発展している。対話アプリである「Zalo」を運営するVNG、オンライン決済事業を展開するVNPAYやMoMoなどである。Zalo はベトナム国内だけでなく、米国や日本、台湾、韓国、オーストラリア、ドイツ、ミャンマー、シンガポールでも使えるアプリである。
 IT分野以外でのベトナム企業も急成長している。例えば、1993 年に設立されたベトナム最大の多業種企業の一つであるビングループ(Vingroup Corporation)が筆頭である。1993 年に設立され、不動産、教育、医療など多くの市場で事業を展開している。自動車部門であるビンファスト( VinFast) は、ベトナムで 24,000 台の自動車を販売し、前年比で36%成長している。不動産とサービス分野では、ビンホーム(Vinhome)が 29 兆 100 億ドン(12 億 4000 万ドル)の純利益を上げた。ビンコム・リテール(Vincom Retail)は純利益を 2 倍の 2 兆 7,350 億ドン(1 億 1,667 万ドル)に伸ばしている。
 また、ベトナム最大の移動体通信事業者であるベトテル(Viettel)は国有企業だが、今やベトナムだけでなくアジアでも最大級の企業である。ベトテルはアジア、米国、アフリカを含む 3 大陸で 10 の海外市場に投資している。2020 年、ベトテルのブランド価値は東南アジアで第 1 位、アジアで第 9 位となり、評価額は 58 億米ドルに達した。

(ホ)ベトナム外交について

ベトナムは現在、「竹の外交(Bamboo Diplomacy)」と呼ばれる対外政策の哲学に基づき外交を行っている。ベトナムは、日本のようなアジア諸国から多くの教訓を学んだ。例えば、調和、団結、連帯を重視した価値観による日本の外交は、世界とどのようにつながるかを考えるうえでのベトナムの価値観に非常に近い。竹の外交は、伝統的な価値観と現代的な価値観の融合である。例えば、ベトナムでは、竹は神話や歴史に登場する非常に身近で柔軟な植物であることから、正しく生きること、よく生きること、他の人々と調和することを表している。そのため、竹の外交は2016 年から言及され、ベトナムの外交における主要な哲学となっている。
 「竹の外交」は、国際関係の平和で安定した環境を維持するという原則に立ち、国家の独立、主権、領土保全を守ることに重点を置いている。「竹の外交」は単なる概念ではなく、ある意味でベトナムの現実を見ることにもつながる。現在、ベトナムは 190 カ国と外交関係を樹立し、世界の異なる政党との関係を強化している。そのなかで米国や中国、ロシア、韓国、インド、そして日本など 6 つの国家と包括的戦略的パートナーシップを結んでおり、日本とは2023年に二国間関係をより高いレベルに引き上げた。
 「竹の外交」はまだ構築途中にあるが、多くのアジアの価値観に非常に近い。問題は、その哲学をどのように世界の多くの国々に受け入れられる普遍的な価値に変えることができるかということである。

(ヘ)日越関係の正常化に向けた50年の取り組み

ベトナムと日本はすでに長期にわたる歴史的な関係がある。ベトナムと日本の最初のつながりは8世紀であり、17 世紀にはベトナムと日本は貿易を開始した。これは両国の歴史的な関係を証明するものである。国交正常化を続けてきたベトナムが日本と国交を樹立したのが1973 年であり、2023年に50周年を迎えた。年月を経て、両国の関係はより緊密になっている。2023 年に、「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」を締結し、両国の関係は非常に重要なレベルに格上げされた。これは、ベトナムと日本が外交関係において真の友好国であることを示すものである。
 また、投資、教育、ODA など、ベトナムと日本の関係にプラスとなるものが多くある。近年、日本では約 50 万人のベトナム人が就労している一方、ベトナムの日本人コミュニティも 2 万 3 千人近くおり、非常に印象的な数字である。加えて、日本はベトナムにとって最大の ODA 供与国であり、労働協力協約による労働者派遣では世界で第 2 位、投資と観光では第 3 位、貿易では第 4 位となっている。

(ト)最後に

2016 年から 2020 年初頭までの約 3 年半、駐ベトナム特命全権大使を務めた梅田邦夫氏は、なぜ日本とベトナムが自然な同盟国になり得るのかについて著書の中で言及している。梅田氏は、中国の台頭が世界のどこかの国にとって何らかの問題や懸念を引き起こす可能性があることを指摘し、日本はベトナムの教訓を学び、ベトナムと強い絆で結ばれ、自然な同盟国になるべきだと述べている。また、駐ベトナム特命全権大使である山田滝夫氏は、日本とベトナムの関係が過去最高の段階にあり、両国は多くの良い結果を得ていると述べている。両国の関係は現在、非常に緊密なものとなっている。その発展は政治的、経済的な分野だけでなく、日本とベトナムの長い歴史的、文化的なつながりへの人々の理解と共感の成果でもある。

(2)鈴木馨祐衆議院議員・日本国際フォーラム評議員のコメント

この 50 年間で、日本とベトナムの二国間関係は大きく変化した。特に最近では、日本外交の文脈におけるベトナムの重要性が、経済と安全保障の両面でますます大きくなっている。まず経済の重要性として、中国に投資してきた日本企業の多くが、中国の社会や政治から大きな圧力を受け、非常に厳しい状況に直面している。そこで、日本企業は別の投資先を探し始め、ベトナムは日本企業にとって最良の、そして最も重要な投資先の一つとなった。ベトナムの労働市場の質の高さと労働者の高い倫理観も有益である。ベトナムに投資した多くの日本企業は、今とても喜んでいる。ベトナム政府には、外国人投資家や外国企業、あるいは先進国とのビジネス関係の環境をより一層整備していくことを期待している。
 また、安全保障の問題において、日本は東シナ海や台湾海峡で中国の大きな圧力に直面している。そしてベトナムもまた、南シナ海で中国の圧力に直面している。日本とベトナムは、経済的な相互依存関係が強く、相互の貿易が活発である。そのため、航行の自由は非常に重要である。日本は、ASEAN 諸国やアジアにおけるベトナムの存在感の高まりを強く歓迎し、日本はベトナムとの二国間関係をより重要なパートナーシップ協定へと発展させた。2023年11月には、ヴォー・ヴァン・トゥオン国家主席が来日し、二国間パートナーシップのレベルアップを図るための協定が締結された。本年の日ベトナム 50 周年を期して、両国関係がさらに深まっていくことを願っている。

(3)伊藤剛明治大学教授・日本国際フォーラム上席研究員のコメント

日越両国に共通していることは、中国によってもたらされる問題にどう対処するかということである。2023年11月にヴォー・ヴァン・トゥオン国家主席が来日した一方、習近平国家主席が 12 月にベトナムを訪問し、中国とベトナムの関係がアップグレードされた。そこで質問であるが、ベトナムは、日本からの影響力と同時に中国からの影響力のバランスをどのように取ろうとしているのか。またベトナムでは、日越関係と中越関係の間で利害が対立する可能性もあるのではないか。その他に、日越両国が関係を深めてくうえで、我々が次にしなければならないことは何か。

(4)Nguyen Khang Tran講師からの返答

ベトナムは世界の多くの国々と友好関係を築きたいと考えており、国の主権を守り、自国の利益を考える必要もある。そのために、「竹の外交」の哲学を利用することができる。多くの国々と友好関係を築くという理念は、他の多くの国々との関係において、柔軟でなければならない立場のことでもある。例えば、ベトナムは米朝首脳会談に非常に適した場所である。ベトナムは、多くの小国が話し合いに来るための中立的な場所になり得る。米国、中国、日本が貿易や通商で対立しているとき、ベトナムは中立的な国として、さまざまな国を結びつける媒介となることができる。日越関係を見ると、両国は貿易や経済、安全保障関係を発展させ、アジアと世界の平和と繁栄を維持することを目的としている。竹の外交は、困難に直面した際の良いアイディアを提供することができる。
 ベトナムにとって、最善の方法は対話をすることだ。「竹の外交」の哲学は、つながりや調和を大切にすることであり、それを維持することができれば、相手国と良好な関係を築き、国を強くすることができる。そのため、日本や中国、韓国、アジア諸国にとって柔軟であること、調和していることが非常に重要となる。
 米国、日本、インド、オーストラリアが存在感を示すにつれて、それらの国々との協力関係を進めるようとすることになるだろう。しかしそれは、中国に対抗するだけのものではなく、より多くのものを含む。そして、グローバルな対話を続けるうえで、国益だけでなく、国家間の協力、国際法を強化すること、すべての国の外交を強化することについて、改めて考え直すことが重要である。我々が進めるべきことは、国家間の対話を増やすことである。

(文責、在事務局)