第359回国際政経懇話会
「バイデン外交の現在と世界」
2023年12月13日(水曜日)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
第358回国際政経懇話会は、前嶋和弘上智大学教授を迎え、「バイデン外交の現在と世界」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
1.日 時:2023年12月13日(水)14時から15時半まで
2.開催方法:オンライン形式(ZOOMウェビナー)
3.テーマ:バイデン外交の現在と世界
4.講 師: 前嶋 和弘 上智大学教授
5.出席者:14名
6.講師講話概要:「バイデン外交の現在と世界」
(1)バイデン外交10の特徴
バイデン外交の一番重要な特徴は、アメリカが作る国際秩序の再構築を試みている点にある。トランプ前政権とは対照的に、バイデン政権は国際協調路線に回帰し、同盟国との関係修復を行うとともに、いわゆる「多国間外交」を推進している。また、民主主義の重要性を強調し、「法の支配」を逸脱する独裁者を批判する傾向にある。さらに、オバマ政権からトランプ政権にかけて使われていた「アメリカは世界の警察官ではない」という言葉を使用せず、アメリカの国際的立場を取り戻そうとしていると考えられる。
2つ目の特徴は、「トランプの4年間」に対するアンチテーゼである。バイデン政権は、ロシア、サウジアラビアと距離を取り、パレスチナ問題については2国間共存を強調し、米墨国境の壁の存在を否定して移民・難民受け入れを増やしている。また、国際機関への予算を増額し、パリ協定に復活させ、国連、NATO、AUKUS等のマルチラテラル外交の復活を推進している。こうした動きは、ロシアやサウジアラビアとの距離を縮め、イスラエルに有利なパレスチナ問題の解決を推し進め、国際的枠組みからの離脱を図ったトランプ前政権とは大きく異なる。
3つ目の特徴は、「ミドルクラスのための外交」の強調である。アメリカ国内では民主党と共和党の分極化が見受けられるほか、各党の支持者の数も僅差である。その結果、同政権は支持層が少しでも離れることを危惧しており、国内での支持率が高い外交政策を採用せざるを得ない部分がある。具体的には、自由貿易を復活させずに保護主義的な産業政策を推進し、共和党・民主党ともに支持率が高いアフガン撤退を完了させている。しかしながら、アメリカのミドルクラスが支持する外交政策はアフガン撤退でもみられるように「国際秩序の維持」という目標と根源的に矛盾している部分がある。よって、バイデン政権はミドルクラスのための外交と国際協調との時に矛盾する目標のバランスに迫られている。
4つ目の特徴は、外交イデオロギーの政党再編成である。従来は、共和党が自由貿易を支持していたが、現在は、共和党がアメリカファースト的な保護貿易政策を支持し、民主党が国際主義を推進し、党内の外交イデオロギーの再編成が見受けられる。ただし、以前と同様に軍事重視の外交は共和党が支持している。さらに、反ESGの動きが共和党中心の20の州でみられ、反ESGの共和党と気候変動を「差し迫った危機」としてみる民主党の間でさらなる分極化が進展している。その上、民主党と共和党がともにイスラエルを支持していたが、現在は非白人のパレスチナ支持が増加しており、民主党内でのパレスチナを支持する動きが存在する。これらの国内の変動がバイデン外交に影響を及ぼしていると考えられる。
5つ目の特徴は、アフガニスタン、イラクといった反省の時代における難しいかじ取りにある。アフガニスタンとイラクとの戦争に対する負の記憶から、国民は他国の情勢における長期的な介入に否定的になっている。よって、ウクライナ戦争の支援を推し進めにくい状況となっている。
6つ目の特徴は、オバマ時代の反省である。オバマ時代は「ここがこうなったら、米軍を送り込む」と外交のレッドラインを引いていたため、柔軟性が低い外交を行っていた。また、「アメリカはもう世界の警察ではない」と明言し、さらには、インド太平洋地域では不十分な政策を実施したことから、アメリカの世界の警察としての外交上の地位が下がってしまった反省がある。こうした反省を受けて、バイデン政権はレッドラインを引かないことで、世論の変化に対応できる柔軟な外交を実現し、アメリカの外交政策を言葉は悪いが、ある種「盛って」見せるとともに、インド太平洋政策を重視することで、アメリカの外交上の地位取り戻そうと試みている。
7つ目の特徴は、最大の重点を中国に置いている点にある。バイデン政権は積極的にデカップリングとデリスキングを進めている。さらに、中国は「敵ではなく競合相手」であることを強調している。
8つ目の特徴は、欧州との関係の再構築である。冷戦時と同様に米欧の関係は、中国やロシア等の共通の敵によって強化されていると考えられる。
9つ目の特徴は、離れられない中東外交である。バイデンは自分を「シオニスト」と呼び、さらにアブラハム合意が続いていることからみられるように、バイデン政権はイスラエル支持を続けている。
最後の特徴は、変化していないようで急変している日本との関係である。米国から日本に対してかつてない信頼を寄せ、中国という共通の敵を持っていることから、日本の防衛費を増額している。しかしながら、イランがガザ地区の問題に本格的に介入した場合、資源は東アジア地域から中東へとシフトする懸念もある。
(2)アメリカ大統領選挙からみた今後の外交
2024年大統領選挙で健康問題等の特異的な出来事がなければ、選挙候補はバイデン対トランプとなり、トランプが2024年選挙で再び大統領となる可能性は五分五分であると予想される。しかし、大統領選挙はわずかの激戦州の支持動向で決定するため、現在どちらが大統領選挙に勝利するかを予想することは難しい。
バイデンに対する民主党支持者からの支持率は、10月に11ポイント下落した。この背景には、ガザ地区の問題においてのバイデンのイスラエル支持に対する反発がある。一方で、11月には、バイデン政権はガザ地区での停戦に貢献したことから支持率が回復した。現在の上院議会は圧倒的に共和党有利であり、かなりの確率で共和党が多数派になるため、たとえバイデンが大統領選挙で勝利したとしても、分割政府になり政策が停滞するだろう。
一方でトランプが勝利をした場合、下院次第では一気に政治がトランプ色になる可能性がある。最近の世論調査の結果からは、トランプの支持率は共和党支持者の中で圧倒的なリードをとっている。背景には、共和党支持者の7割が未だに2020年選挙では民主党による不正行為があったと考えており、正統な大統領はトランプであるべきだと感じていることがある。トランプ政権が誕生した場合、より保護主義的で他国の情勢への介入を減らすような外交政策を行うだろう。具体的には、さらなる保護主義的な産業政策の導入、移民・難民受け入れの削減、ウクライナ支援の停止とロシアとの融和的な関係を築くための外交、イスラエルへの支援、サウジアラビアへの支援等が考えられる。また、NATO脱退や日本への軍事支援の削減の可能性があるため、同盟国の関係は急変するだろう。その上、パリ協定離脱や反ESG法の導入の可能性もあり、気候変動政策の抑制が予想できる。
(文責、在事務局)