(1)北大西洋条約機構

NATOは1949年に発足した、現在加盟国数31ヶ国の集団防衛組織である。冷戦後は体制転換した多くの旧東側諸国が加盟を強く希望した。当時、NATO側はロシアとの交流を平行して進めつつ、東方に加盟国を拡大した。
 ロシアのウクライナ侵攻を受け、これまで中立を保ってきたフィンランドがNATOに2023年4月に加盟した。現在、スウェーデンが加盟手続き中であり、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ジョージア、ウクライナが正式に加盟を希望している。NATOは、これらの国々や交流を望む非加盟国とも協力関係にある。
 NATO条約第5条(集団防衛条項)は、NATO加盟国が軍事攻撃を受けた際には、他のNATO加盟国は、国連憲章第51条で認められた、軍事を含む援助をすると規定している。NATO加盟国はこの条項を重視している。加盟国である米国による軍事的援助が特に期待されている。ただし、同条が初めて、実際に発動されたのは、2001年の9.11対米同時多発テロのときの対米支援だった。
 NATOはコソボ、イラク、地中海やエーゲ海方面、アフリカなどの安定化のための活動も実施してきた。アフガニスタンでの国際治安支援部隊(ISAF)は2021年に活動を終えた。

(2)欧州連合

EUは欧州の27か国が加盟する統合体である。EUの前身はドイツとフランスの対立解消目的に設立された1952年発足のECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)であった。経済の統合を図る事から政治的安定も目指してきた。EUは中枢が経済統合体であるため、加盟には、加盟希望の国の経済レベルも重視される。国際情勢の変化とともに統合される分野も安全保障・政治分野などに広がり、加盟国数も拡大している。EUはマーストリヒト条約(1993年11月発効)以降、共通外交安全保障政策を導入したが、当初は、NATOを欧州安保の中核とする米国はこれを懸念していた。
 EUへの加盟には、通常、交渉に何年もかかるが、たとえば、フィンランドは経済水準も高い民主主義国であるため、短期間で加盟交渉を終える事が出来た。旧東側諸国は資本主義体制に移行し、一定の経済水準に達する必要があった事から、加盟には時間を要した。目下、「加盟候補国」の地位にあるのは、アルバニア、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア、トルコ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、モルドバ、ウクライナであり、EU側が加盟準備を支援してきた。トルコは2005年に加盟交渉を開始したが、中断しており、進展がない。ジョージアは2022年3月に加盟申請した。コソボは同年12月に加盟申請したが、独立国として承認していないEU加盟国があることから、困難があろう。
 EUの現行の基本条約であるリスボン条約42条7項は、軍事侵略された場合、国連憲章第51条に従い、相互援助を規定している。本規定はNATO条約第5条と両立しているが、実際に発動されたのはフランスでの同時テロ(2015年)のときのみである。これまで、EUは、域外に常駐ミッションを置くなどの平和維持活動(PKO)も実施してきた。

(3)欧州安全保障協力機構

1975年にNATOとワルシャワ条約機構の間の対立による緊張緩和のために、CSCE(欧州安全保障協力会議)が、中立国も含め、設立された。そのときに発出された「ヘルシンキ宣言」では、国家主権の尊重、武力不行使、国境の不可侵などが掲げられた。冷戦終結後にはCSCEの役割が変わり、1995年に名称がOSCEへと変更され、常設機構化された。現在は北米、欧州、中央アジアの57か国が加盟している世界最大の地域安全保障機構である。また、日本を含む11のパートナー国がある。
 OSCEは、幅広い安保問題の政治的対話を行う場の提供と、紛争予防・危機管理・紛争後の再建を通じての加盟国間の橋渡しや信頼醸成に努めている。具体的な軍事信頼醸成措置も運用してきた。経済・人道・人権分野における問題も安全保障を脅かす要因となるとの考えから、安全保障を軍事的側面のみならず包括的に捉え、現地に常駐ミッションも派遣してきた。民主主義と法の支配の確立が安全保障上不可欠であるとし、例えば、選挙監視活動も重視している。
 ロシアもウクライナもOSCEの参加国である。2014年3月のロシアのクリミア介入直後から活動を始めたOSCE特別監視団(SMM)は、2022年3月に終了している。別途、OSCEの参加国によるウクライナ支援プログラムが置かれている。 
 なお、OSCEでの政策形成では、イッシューにより、EU加盟国やNATO加盟国が立場を一本化して提案してきた。

(4)日本と各組織の関係

日本はNATOの「パートナー国」として協力関係を強化してきた。岸田総理は、2022年から2年連続でNATO首脳会合に出席している。日本とEUとの協力関係は緊密化している。日EU経済連携協定(EPA, 2019年発効)はサービスや知的財産も含む包括的な協定である。日EU戦略パートナーシップ協定は暫定発効中(残り2か国が批准手続き中)で、EPA以外の多分野の協力関係の緊密化を目指す協定である。さらに、日本は92年にCSCEの特別参加資格を得た。対ロ関係などから、日本はCSCE/OSCEの動向は自国にも影響があるとみなしている。日本は、アジア・パートナー国としてウィーンでの毎週の大使級会合や、外相会議、首脳会議などに参加し、ミッションへの要員派遣などの協力も行ってきた。
 NATO、EU、OSCEと日本の交流がここ30年間で進んできた。今後の日本の外交ツールとしても期待できる。

(文責、在事務局)

(追補)講演者は東京在住。90年代初めのブラッセルでの勤務経験から、EUやNATOの拠点がある同地で、日本に対する関心や理解を増大させる必要を感じていた。同地で交流していたベルギー出身の欧州安保研究者が日本に関心を持っており、ブラッセルでの国際会議共催を希望したことから、1998年を初回とする年次「日EU会議」をコロナが広がる前の2018年(21回)まで開催した。上記のように、日本とEU間で2つの協定が結ばれ、関係は緊密化されていった。なお、会議での報告ペーパーを基にした日EU関係の本を、以下のように出版した。

  1. (1)Studia Diplomatica,Vol.LIV: 2001, No.1-2: Takako Ueta and Eric Remacle, eds.,Japan – EU Cooperation: Ten Years after the Hague Declaration, Royal Institute of International Relations(Egmont), Belgium, Brussels.
  2. (2)Studia Diplomatica, Vol. LX, 2007, No.4:Takako Ueta, Eric Remacle, et al., eds., Japan – European Union. A Strategic Partnership in the Making , Brussels.
  3. (3)Takako Ueta and Eric Remacle, eds.,  Japan and Enlargement of Europe:Partners in Global Governance , Peter-Lang, Brussels, 2005.
  4. (4)Takako Ueta and Eric Remacle, eds.,  Tokyo -Brussels Partnership: Security, Development and Knowledge Society, Peter-Lang, 2008.
  5. (5)Takako Ueta, et al., eds., Developing EU–Japan Relations in a Changing Regional and Global Context: A Focus on Security, Law and Policies, Routledge, Oxon, 2018.