(1)アメリカの分断

アメリカの分断を語る上で注意すべき点が3つある。まず①アメリカは元々分断していた。というのも、独立戦争の際は独立強硬派、王党派、中立派が対立していたし、独立後は連邦派と反連邦派が対立していた。その後も南北戦争、公民権運動、ベトナム反戦運動など、アメリカは歴史的に常に分断状態にあった。次に➁アメリカは分断するように作られた。市民が大国を統治するにあたり、強権的存在を防ぐ必要があったことから、そのための憲法規定が作られた。州(state)には独立した立場で地方分権を進めさせ、三権分立・議会の二院制を創出するなど権力を分散させた。同時に、民意の暴走と権力化を防ぐ必要もあった。そこで、直接投票でなく「選挙人」という党のエリートを挟む投票制度(選挙人制度)を作った。アメリカでは、特定の権威や地位が固定化・世襲化することへの不安や懐疑(反知性主義、反権威主義)が強く、それが民主主義を支えている。分断は、見方を変えれば、一つに染められてしまう事へのアメリカ的抵抗の表現といえる。最後に➂分断は顕在化しただけである。例えば、白人警官による黒人市民の暴行という事件はこれまでも数多くあっただろうが、ビデオ撮影・ネット投稿など技術の発展やメディア環境の向上により表に出やすくなった。

(2)アメリカの分断と政府への信頼

アメリカが歴史的に分断してきたからといって、現在の分断を楽観視してはいけない。なぜなら、政府への信頼度が低下しているからだ。信頼度は1960年度の77%から右肩下がりとなり、今は20%台にとどまっている。原因は、ウオーターゲート事件、党派対立、メデイア報道、格差拡大など複合的である。20%を切ると、二院制が機能していないとの懸念から、第三の候補・アウトサイダーを求める傾向にある。実際オバマ元大統領は、無名政治家ながら突然出現し「一つのアメリカ」を標榜するといった点でアウトサイダーであった。人々はアメリカの閉塞感を打破してくれる存在として彼に過度な期待を寄せた。一方トランプ元大統領は公職経験がない点で稀な存在であった。両政権は政治不信を土壌にして生まれるべくして生まれたという点で似ている。結局オバマは中道を目指すが故、民主党と共和党両者の不満をさらに高めて分断を深めてしまった。一方トランプは、味方と敵を分けて対立をあおる統治手法故、分断を深めたのは言うまでもない。対してバイデンは50年もワシントンンにいる究極のインサイダーである。世論は、トランプというアウトサイダーによる政治・劇場型手法に疲れたのだろう。バイデンの支持率の低さは、扇風による積極的支持ではない消極的な支持をしている世論の在り方を考えれば納得できる。
 確かにアメリカの分断は今に始まったことではない。だが、その理由は政治不信によるものではなかった。政治不信があるなかでの分断は、政治的不安定さを助長する。様々な物事に関して、民主党支持者と共和党支持者の間で基本的見解の相違が明瞭になっている。そして現在の分断状況はコロナ渦という危機においてでさえ解消されなかった。このような政治的トライバリズム(政治とアイデンティティを基礎とする集団主義)が出てきている事は危惧すべきである。

(3)アメリカの分断と国際社会

民主党支持者と共和党支持者が考えるアメリカにとっての国際的不安要素は全く異なっている。国際政治における存在感は、パワー×意思によって決まる。政権が比較的短期的に交替するアメリカが、意思を戦略的に一貫・継続させていくことは、民主党と共和党の間で国際社会への認識がかなりずれている現状では難しい。そうすると国際社会における存在感・信頼度が低下していくだろう。バイデン政権が力を入れる気候変動問題も、共和党政権に変わった際には政策が全く変わるであろうから、他国もアメリカの分断を傍観してはいられない。逆に中国、ロシア、北朝鮮はパワーに穴があれども戦略的意思の一貫性はブレず、トップダウンで長期的に政策を実行することが出来る。この点、アメリカよりも国際社会で存在感がある。

(4)今後の分断状況

今後の分断状況には、①楽観的シナリオと➁悲観的シナリオがある。①白人層に取って代わりヒスパニック系が増加し、人種構成が多様化している。また人権正義に鋭敏なZY世代が有権者の大多数を占めてきている。よって共和党は従来の白人・中高年・男性・キリスト教保守派だけでは権力を維持する事は出来ないので、上記新たな層を獲得する必要がある。今後よりリベラルなコンセンサスが共有されるようになり、対立構造が収まる可能性もある。➁アメリカのミドルクラスが減少し、格差が拡大傾向にある。近年技術革新が更に進んで産業構造が変化しており、変化に上手く適応できる人と出来ない人が出ている。また大学進学率が80%を超える中で、高卒者が安定的な生活を送る事は厳しくなっている。そのような状況下で疎外される人々の不満はエリート層に向けられ、自分たちの代弁者としてポピュリスト政治家を生む可能性がある。その場合、左右両方のポピュリストが勢いづき、更に政治の振れ幅が拡大するだろう。

(5)今後の大統領選挙

先週の勝利予想(betting odds)では、バイデンとトランプが五分五分であり、若干バイデンが有利状況にある。クリントン、オバマも大統領選1年前の同時期に40%台と低かったが勝利したことから見て、バイデンの現40%が危機的状況であるとはいえない。トランプ元大統領が裁判に時間を割かれる中で無党派層を開拓するのは難しいだろう。鍵は経済だが、バイデン政権の経済政策(バイデノミクス)を評価している労働者層は多くない。トランプ元大統領は反ウオーク(社会正義に目覚めたの意)を労働者に訴えて勝利したところ、この労働者層の獲得の如何によって勝敗が決まるだろう。共和党候補者はウクライナ支援には消極的であるし、トランプは「台湾に半導体産業を盗まれた、関税を課すべきだ」と発言している。またロシアや北朝鮮はトランプ政権の復活を望んでおり、AIによる選挙介入も危惧される。共和党の勝利は日本にとって不安要素であり、今のうちに政治家・メデイア・シンクタンク・スポーツなど多様な層でのネットワーキングを構築し、リーダーの変更に左右されない環境を作っていくことが重要である。

(文責、在事務局)