長引く露ウ戦とグローバルサウスの登場

露ウ戦が,一年余を超え,米欧日などの西側と中露枢軸を中核とする東側の対立が激化する中で,グローバルサウスの影響力が注目を集めている。グローバルサウスといってもまとまった勢力ではない。その定義は曖昧だが,新興諸国の概念に近い。東西対立の中でインド,トルコ,インドネシア,イラン,ブラジルなどは,独自の,活発な外交姿勢を示し,影響力を高めている。その典型的状況は,ロシアをめぐる国連特別総会決議に示される。過去5回の決議で,先進国50か国が一致してロシアに厳しい態度をとり,中露,シリア,北朝鮮,イランなどがこれに対抗するなかで,上記,グローバル諸国は,ロシアだけでなく,西側への批判的態度をとる状況である。特に,54か国を数えるアフリカ諸国は,国際的世論形成への影響を高め,グローバルサウスの評価を強めている。

中露のグローバルサウスへの接近

この状況で,中露のグローバルサウス諸国への接近が目立つが,上海協力機構(8か国)やBRICS(5か国)の加盟国拡大や協力国拡大を通じる動きがある。ロシアは,ラブロフ外相の訪問に見るように,アフリカや中東への軍事協力や穀物供与が効いている。中国は,一帯一路の推進があるが,最近はグローバル開発構想を進めている。2023年3月の人民代後,習,李強,王毅,秦剛の外交陣の整備とともに,活動を強化している。アフリカ諸国はかねてからの勢力範囲だが,サウジとイランを仲介した外交は,米国を出し抜き,中東への足場を広げるが,ブラジル大統領の北京訪問は中南米への影響拡大の象徴である。更に,習主席とウクライナのゼレンスキー大統領との会談は世界の注目を集めた。

これに対し,西側の対中・対露の団結は強いが,グローバルサウスへの働き掛け,その効果は十分でない。特に米国の影響力の低下が目に付く。

米国の軍事力と中国の貿易・援助力

米国の強みは,世界に冠たる軍事力であり,ドルの力・国際金融力である。その影響力は,安全保障の不安を感じている諸国に強く,欧州諸国,日本・韓国,豪州・比などの米依存は強い。しかし,中東・アジアでは,米国のアフガン戦争,イラク侵攻,ベトナム戦争への反感が,後遺症として残る。更に,アフリカ,中南米諸国の米安全保障への依存は強くない。その通貨・金融上の影響力も先進国には強いが,途上国には効果的でなく,ロシアへの金融制裁の効果は限定的だった。中国へのドル制裁は,発動されれば,効果が甚大と思われ,中国は警戒しているが,その反動も大きく,容易に発動できない。

これに対し,中国の切り札は,多くの国でNo.1となっている貿易取引で,その援助も債務の罠を引きおこすくらいだが,5Gによる監視独裁機器の供与も有効である。専制国家・中国がその影響力を,政治的目的のため行使する姿勢に,西側は批判的だが,民主主義体制ではない多くの新興国にとって気にならない。国連193票のうち,54を占めるアフリカは中国の戦略的友好国であるが,今や,中東,中南米に勢力を拡大しようとする。太平洋島嶼諸国も対象である。

日本のG7議長国外交

日本は,G7首脳会議での大きな目標として,①ロシアや中国の脅威に対する法の支配に基づく国際秩序の維持と,②世界が直面する諸問題に協力促進のため,グローバルサウスへのG7の結束した関与を挙げる。岸田首相は,このため,キーウにゼレンスキー大統領を訪ね,G7首脳会議へのonline出席へ招待するとともに,5月19日からの首脳会議にはG7メンバー以外にインド,インドネシア,ベトナム,ブラジル,コモロ(アフリカ代表),クック諸島(太平洋島嶼代表)を豪州,韓国とともに招いている。更に,岸田首相は,5月の連休を利用し,エジプト,ガーナ,ケニア,モザンビークのアフリカ諸国を訪問し,林外相も中南米を訪問するという。懸命なグローバルサウス志向政策であるが,TICAD(アフリカ開発会議)の歴史は長い。

岸田首相は2022年末,防衛3文書を採択するとともに,安倍外交遺産ともいうべき,インド太平洋構想,日米豪印のQuadを活性化しているが,TPPへの英国の加盟の他,日英,日仏,日独,日印,日豪,日韓との外務・防衛の2x2会議発足により,多くの諸国との外交関係のさらなる展開がある。特に,日韓関係の急速な進展は刮目すべきものがある。

川崎剛教授は,国家の大戦略は,「自分の属する陣営の国際的地位を強化し,さらに,その属する陣営の中での地位が向上するように行動すること」だとする。日本のG7外交は「自分の属する西側の地位を強化し,かつ,日本の西側での地位を引き上げる」目標である。グローバルサウス外交は,対象国が広く,容易でないとは思うが,その成果に期待したい。