(1)インドの社会

現在、インドの人口は約15億人であるが、2050年には20億人規模に達すると予想されている。この数は、世界人口の20%に相当する大きさだ。インドの社会や文化は歴史的に単一のものではなく、これは2047年になっても変わらない。しかし、国家としてはより統合へと向かうだろう。今後、インドは貧困削減、寿命、教育、栄養失調、ジェンダーの平等など、個人のレベルで人々の生活を改善していく。特定のコミュニティ、カースト、文化やジェンダーを取り残すことなく、社会の調和、平和や平穏をもたらす必要がある。もちろん社会的ノイズが完全に消滅することはないだろうが、統合へと向かうインドを日本を含む国際社会は見誤ってはいけない。

(2)インドの政治

インドは2050年には世界最大の民主主義国となっている。イギリス植民地時代のインドは約600もの藩王国に分かれており、1つの国家として独立したところで、いずれ再び分裂状態に戻るだろうと考えられていた。しかしその予想に反し、独立後のインドは民主的に発展を遂げてきた。市民の委任の下で統治が行われ、選挙による民主的なプロセスで政権交代も生じてきたのである。民主主義を維持するためには、メディア、司法、憲法等が果たすべき役割が大きい。だが最も重要であるのは市民の存在だ。一度独立や自由を経験した人々にとって、それ以外の社会形態は受け入れがたい。教育はエンパワーメントを促すが、識字率が低く経済発展レベルも低い状況下でインドは民主主義を存続させてきた。国家のサイズや規模を考えれば、インドが民主主義国であり続けることは世界にとってもきわめて望ましいことであろう。

(3)インドの経済

独立時に300億ドル程度であったインドのGDPは、2050年あるいは2047年には30兆ドルにも及ぶと予想されている。すなわち、インドは民主的な社会状況下で15億の人々に対し、100年の間に一人あたりGDPを1000倍に増加させたことになる。インドの経済は社会と政治の安定とあいまって発展してきたのであり、今後もその流れは続くであろう。飛躍的な経済成長をうまくマネージしていく上で、巨大な国家であるインドにとって最大の課題は、争わずして成長の果実を地域間の格差なく公平に分配することである。それに失敗すれば、人口動態的に見て惨劇を招きかねない。人口が増え続ける限り経済も成長し続けるだろうけれども、権利の平等を忘れてはならない。

(4)インドの安全保障・防衛

以上のように社会、政治、経済の3つの分野において発展を続けるインドが、国際社会においてグローバルな安全保障を担保する1つの柱国家となるのは自然なことである。インドは拡張主義を志向しない。むしろ戦火を交えることなく、国際社会にとって望ましい多極世界の実現に寄与しようとするだろう。この目的は、純粋なソフトパワーのみによって達成できるものではもちろんない。その基盤となる強大なハードパワーもインドは構築してきた。海軍は既にブルーウォーター・ネイビーとなっており、核抑止力も有している。これらの軍事力と経済力を合わせ、インドは、インド太平洋地域にとどまらず、世界のいたるところでルールに基づく秩序による平和を築くことができる。そして、それは国際社会が期待することでもあろう。とりわけ、小国は力が物を言う大国支配の世界を望まない。

(5)インドの外交政策

安全保障・防衛と同様に、外交政策においてもインドは力ではなく原則に基づくリーダーシップを発揮し続けるだろう。インドの首相が最近述べたように、現代は戦争の時代ではない。インドは不戦政策を維持することを望むであろうし、世界の諸問題を平和裏に解決する方法が常に存在すると考えている。また、インドは、グローバルサウスの声を国際社会に強く届けるための取り組みも始めている。しかし、インドの経済力や軍事力が急速に強まる中、必ずしも十分な能力を持たない分野があったり、国内問題が未解決のまま過剰拡大を冒してしまったりするリスクもある。インドの指導者はこの危険性を正当に自覚し、自身の手に負えない紛争や課題に引き込まれないようにしなければならない。

最後に、今後のインドは独立後から現在までの75年間とは全く異なった国になるだろう。これまで述べた5つの全ての側面において、インドは直線的でなく指数関数的に変化しようとしている。その変化を理解しようとするなら、ダイナミックなアプローチでインドに関与していくことが国際社会にも求められるだろう。

(文責、在事務局)