ロシアのウクライナ侵攻に関する国連決議に見るロシアの国際的評価
2022年12月1日
坂本 正弘
日本国際フォーラム上席研究員
ロシアのウクライナ侵攻に関しては、国連安保理の決議がロシアの拒否権で不可能な中、国連の特別総会による決議が、2022年3月以降、4回行われてきた。総会決議には法的拘束力はないが、ロシアの侵攻に関する国際的評価を見る上では重要である。
決議の状況は、下表のようであるが、第一回は3月2日の決議で、「ロシアの侵攻を非難し、軍隊の即時撤退を求める」もの(A)だが、国連加盟国193のうち、「賛成141、反対5、棄権35、無投票12」の内容だった。第2回は4月7日の「ロシアを国連人権理事会理事国から排除する」決議だが(B)、「賛成93、反対24,棄権58,無投票18」だった。第三回は、10月12日で、ロシア占領のウクライナ4州のロシア領編入に反対し、編入声明の撤回を求めるもので(C)「賛成143、反対5、棄権35、無投票10」だった。第4回は、11月14日で、「ウクライナへのロシアの賠償支払い請求」の決議だが(D)、「賛成94、反対13、棄権74、無投票12」の4内容だった。
これらをどう評価するかだが、第一に、4回にわたる投票がいずれも賛成多数で成立したことは、ロシアへの非難の強さを物語る。特に、主権、領土の侵害にかんするAとCでは、賛成国が140を超え、圧倒的であった。ロシアの無法な行動への強い反対である。ただし、A,Cの場合でも、反対・棄権・無投票は50を超える。更に言えば、ロシアの権益にかかわる、ロシアの人権理事会からの除名のB, 賠償請求のDの場合は、賛成,93~4に対し、反対、棄権、無投票は100と賛成を超える。ロシア非難への消極性といえようか、ロシアの国際的影響力の強かさが目立つ。
第2に、決議支持国の中身を見ると、ロシアのウクライナ侵攻に強い衝撃を受けた欧州諸国の42か国を中核とし、北米、日本、韓国、豪州などの西側支持が硬く、さらに、中南米、太平洋諸国の支持が続く。アフリカやアジア、中東諸国はA、Cで支持が多いが、BとDでは支持が激減し、反対・棄権国が多くなる。
第3に、反対国、棄権国は、ロシア周辺国は当然として、アフリカ、中東、アジアの諸国へのロシアの影響力を感じる。ロシアが、強い関係を保ってきた旧ソ連諸国に加え、中国、北朝鮮、ベトナム、イラン、シリア、キューバなどの反対・棄権は当然だが、アフリカでは、ロシアは兵器供給、ワグネルの参与、鉱物資源開発、食料供給などを行ってきたことにより、アルジェリア、マリ、ウガンダ、コンゴー、エチオピアなどとの関係を深めてきた。9月に行われた軍事演習・ボストーク22参加の14か国は、旧ソ連国、中国のほか、ラオス、アルジェリア、シリアに加え、軍事協力のニカラグアと共に、インドも参加した。
第4に、このようなロシア自身の影響力とともに、中国が、中露枢軸として工作したことも考えられる。BRICS、上海条約機構諸国の反対・棄権が多いが、特に中国の影響力のつよいアフリカでは、多くの反対・棄権・無投票を生み出している。
第5に、棄権・無投票の中には、インドのように中立主義もあるが、インド大陸では賛成国はない。中東やアセアンでも賛成国は少なく、棄権府投票が多い。イランの外交官が、ロシアの侵攻に反対するなら、アメリカのヴェトナム戦争、アフガン侵攻、イラク侵攻にも反対すべきではなかったかと述べたが、アメリカへの批判票は無視できない。
最近の、アセアン首脳会議、G20,APECではロシアの孤立化の進行が目立ったが、アメリカの人気も強いものではなかった。安倍元首相以来のインド太平洋構想を推進する日本外交の出番ではないか?