2019年から発生したコロナも4年目となり、今もなお地球の周りをコロナが飛び回っている。日本でもいまだ第8波など議論が続いているが、世界的には半数の国において、「一緒にやっていこう」という方向に舵を切っている。本日は、今世界中の話題になっているインフレ、高金利、そこから派生する円安・ドル高、対露制裁、中国経済の話などをしていく。

最初の問題として、インフレの話が久しぶりに現実化した。今世紀に入ってから先進国においてインフレというものが起こったことがない状況の中で、皆デフレ対策に頭を悩まされてきた。インフレ対策については過去何度も経験があるため問題ないという声も聞こえてくるが、金融を引き締めるというのは、金利を上げたからといって全部が一斉にそれに応じて締まるわけではない。あるところは締まり、あるところは今までとあまり変わらないという状況が起きてくる。そうすると、今までと変わらないところは良いにしても、急激に引き締まったところは経済活動が非常にできにくくなる。その結果、あるところで余ったものを足りないところに回すようなファインチューニングをやらねばならないが、そういった経験のある者が各国の中央銀行にいないというのが現状である。

アメリカの高金利について、米国民のインフレに対する不満が募る中、世界全体の狙いはどこにあるのか。インフレターゲットというのがここ10年くらいの間に各国中央銀行で採用されている。2%という暫定的な数字で合意しているが、アメリカも7%をなかなか割らず、ヨーロッパはついにEU平均で10%を超える状況で、経済をかなり疲弊させ、収縮させるのではないかと言われている。去年の夏頃まではインフレに対する米国民の不満はそれほどなかったが、年末頃から国民の不満が起こってきた。その最大の理由は、色々な物の値段が上がっているにも関わらず、給与が伸びずに実質所得が縮減していることにある。また、コロナによって生産がきっちりとできるのかという供給側の問題がある一方、需要の方は財政支援で落ちずに来てしまい、これが需要超過=インフレという構図になった。民主党的バラマキには歯止めがかかってきたが、まだ余波が残る。アメリカで金融が引き締められ金利が上がる中で、実は、金銭の移動に大きな2つの流れが出来上がっている。1つはアメリカの中において株式市場に溢れていた資金が債券市場にいくという流れで、もう1つはアメリカから新興国へ動いていた資金がアメリカへ戻っているという流れである。為替の問題に目をやると、米ドルの相場が上がっていく一方、人民元も円もそれぞれ安くなっている。ユーロ全体がどうなっていくかは、ヨーロッパ経済のインフレーション動向にかかってくる。なお、皮肉なことに、米ドルに対して唯一値が上がっている通貨はロシアルーブルであり、3月には下がったもののその後値を戻し、今のところドルに対して強い通貨となっている。

今回の対露制裁を長い目で見れば、IT関係の新規技術や部品の供給がないということでロシアの先端兵器は作れなくなり、ロシアが今まで輸出していたエネルギーや食料を安定的に買うという国がロシアとの付き合いを忌避することでロシア経済が疲弊し、ロシアの体力が落ちることは間違いない。それでもロシア国民が生活に困ってこの戦争を辞めよう、あるいはプーチンに辞任を求めようとならない最大の理由は、エネルギーと食料はよそに売るほど潤沢にあるので、諸外国との取引を止められたからといって困るものではないということである。結果として、巡り巡ってきた我々のダメージの方が大きいかもしれないというのが現在の課題となっている。安全保障について言えば、フィンランドやスウェーデンのように、ヨーロッパの経済圏ではあるが軍事的にはNATOに入らなかった国々が、やはり対応を変えようということで、加盟を目指して動いている。ヨーロッパでは、経済的にはドイツが圧倒的に強く、他に対抗馬となる国がいない状況がヨーロッパ全体として良いのかどうか疑問が生じており、いかに対露制裁をアメリカ・日本と一緒になってNATOが維持出来るか否かが、最大の課題である。

コロナについて、集団免疫をある程度の国が得つつあるが、ワクチン未接種状況などにより、囲い込みが完全にはいかない。しかし7割程度の人が免疫を持てばそれなりの効果があるということで、今ヨーロッパやアメリカはウィズコロナの世界になっている。これに関連して、2つの問題を見ていく。1つは、コロナの状況の中で被害を受けているのは「お金持ちではない人」だ、ということである。もう1つの問題は、先進国ではウィズコロナの世界になったが、途上国ではまだその段階ではないことである。新興国、開発途上国へのワクチン供給量をいかにカバーするかというのが、今後の議題となる。さらに深刻なのは、実はコロナの間に各国の政府はかなりの資金を使って国民の支援をしていた。10月に世界銀行及びIMFの総会が開かれたときに、これまではどちらかというと健全財政が重要であり借金などしてはいけないと強く言っていたIMF自体も、このコロナの惨状から、ある程度借金をしてでも政府がとりあえず短期的には手をつけねばならないということに踏み切ったのが大きな変化である。ただしIMFは、支援は必要だけど、2つの「T」を意識しなければならないと条件をつけている。1つ目はTargeted、領域と対象人物をある程度絞り込まなければいけない、2つ目はTemporaryで、支援はやってもいいがいつまでも惰性的に続けてはいけない、という条件である。

今の中国経済の劣化はかなり深刻なものがあるとみておいた方がいいのではないか。不動産市場の乱れ方は象徴的であり、構造的に様々な問題が生じているということを中国政府も認識しそれなりの対応を進めている。これから先起こることで懸念されているのは、日本でも昔あったように、今後不動産関係の不良債権比率が高まっていくことによって、金融システム自体が問題を起こすのではないかということである。もう1つ懸念されるのは、地方政府の収入が無くなるということである。中国は基本的には土地等の利用権の売買に対して地方政府が関与することにより地方の財政収入をあげてきたが、不動産市場が止まってしまうと、地方財政の収入がなくなるという点が危惧されている。今や世界のサプライチェーン、工場生産のかなりのウエイトが中国を軸に回っているのであるから、そこが経済的に落ち込んでいくということは、やはり世界全体の足を引っ張るのではないかと思う。

(文責、在事務局)