(1)なぜウクライナ戦争が「最悪の戦争」と呼ばれるのか

まず、この戦争がロシアによるウクライナに対する侵略戦争であることを議論の出発点としたい。当のプーチン政権は「特別軍事作戦」と称しているが、主権国家に対する侵略戦争であり、国際法違反であることは明白である。ではなぜ、ウクライナ戦争が「最悪の戦争」なのかといえば、ロシアとウクライナが「兄弟国」関係にあることに加えて、この戦争の真の当事者が米ロによる代理戦争の様相を呈していることだ。この「代理戦争」について、米国は否定するものの、ウクライナに対して136億ドルの支援に加え、バイデン大統領は428日に軍事支援などのために330億ドル、日本円で4兆3000億円もの追加予算を議会に要求するなど徹底的なウクライナ支援に舵を切っている。また、ロシア政府も、20197月からすでに実効支配していたウクライナ東部、ドネツク州とルガンスク州のあるドンパスの住民に対して、ロシア国籍を付与するという政策を取っている。人口約650万人のうち、ロシア語を母国語とするロシア系住民が約250万人であるが、ロシア政府がロシアパスポートを支給するという政策に応えロシア国籍を取得したのはわずか70万人であった。プーチン大統領としては、手遅れになるまえに、専制的権力者としての自らの政治的余命とその限りある時間を考慮して、今回のウクライナ侵攻を決意したと思われる。とはいえ、いかなる事情があるにせよ、人道を顧みず、殺戮を指揮するプーチンの罪は重い。

(2)ウクライナ戦争における制裁

EU理事会は32日、国外送金の国際銀行間通信協会(SWIFT)システムからロシアの一部銀行を排除することを決定した。その結果、ロシアの資産総額の約40%をSWIFTから排除することに成功した。他方、資産額でロシア第1位のズベルバンク、そして、国営ガス会社ガスプロム傘下のガスプロムバンクはその対象から外された。また、同時にロシア中央銀行は外貨準備の凍結措置を受けている。そもそもロシアは外貨のポジションとしてユーロ(30%)、米ドル(15%)、UKポンド(67%)、人民元(13%~15%)、金(20%)をそれぞれ保有している。日本銀行にもロシア中銀の外貨勘定として6兆円がある。外貨準備は、各国の中央銀行に外貨を預託することで、通貨の安定性を維持しており、その意味で、今回の凍結という制裁は思い切った選択といえよう。

(3)対ロシア制裁における各国の思惑

この制裁についてだが、できることをやるのが制裁である。例えば、ロシア産原油について、米国はすでにロシアの原油輸入を禁止しており、英国も年内に段階的に輸入を停止する予定だ。しかし、欧州連合(EU)加盟国はロシアのエネルギーに大きく依存しており、ドイツは現在、原油の約25%、ガスの40%をロシアから購入しており、直ちに禁止できるのかは不透明である。また、日本に関しては、日本企業も出資するロシア極東の液化天然ガス(LNG)開発事業「サハリン2」の行方も気になる。今回のウクライナ戦争を受け、既にロシアから撤退した英米企業に対して、日本はいつまで継続するのか、といった点については、日本政府としてもきちんと議論する必要がある。他方、制裁に加わらない国として、中国やインドの存在がある。中国については前年比2倍以上もロシアからの輸入を増やしているほか、インドも、昨年1年間分のロシア原油輸入量をこの3月の一か月だけで輸入した。制裁については、国によって自分たちが生き残るためという実務的な視点が働くなかで、今後、どのように国際社会の足並みを揃えていくべきなのか、真剣に考える必要がある。そもそも制裁でプーチン大統領を止められるのかという本質的な疑問も残る。

(4)日本の課題

エネルギー資源がほとんどない日本としては、他国との関係性を何より重要視すべきである。その意味において、今後日本としては、従来の日米同盟に加えて、中国を含むアジアの国々とも連携を深め、様々なチャンネルでの対話を増やしていくことが急務である。また、小さな殻に閉じこもらず、もっと大胆に国を推し進め、挑戦できる社会へと変えていく必要があるだろう。

(文責、在事務局)