6. 講話概要

G7サミット(主要国首脳会議)については、これまで多くの誤解が存在した。第一に、G7は価値を共有する「主要国」の会合であり、単なる大国や先進国とは異なるという点である。経済的な指標のみならず、価値の共有、国際法への準拠といった点が基準となっている。第二に、G7は単なる7首脳の懇親会ではなく、ゲスト国の首脳や国際機関の長(EU代表、国連事務総長、AUASEAN議長国首脳等も含む)も参加しており、世界中に影響を及ぼす決定がなされる場合があるという点である。このため国連にも並ぶ重要な国際機構とみなすべきである。第三に、G7は首脳会合のみならず下部組織を持ったグローバル・ガバナンスのメカニズムであるという点がある。閣僚会合や専門家会合、市民G7といったものが年中開催されている。国連と比較してより素早く行動できる枠組みとなっている。

そうしたG7の存在意義とは何か。まず、毎年開催されることにより各種取決めの実施点検が積極的になされ、継続性が確保されているという利点がある。また緊急会合も可能であり、臨機応変性が高い。さらに、首脳が参加することも重要である。外交官ではなく一国の首相が自ら決定を下したという事実があるだけで、内部の政治的調整が進みやすくなる。当然、首脳間の個人的信頼関係が醸成されるという点も重要である。また、国連が機能不全に陥っているという背景もある。特に国連では理想主義的な多数決制を筆頭に、組織としての硬直性が目立ち、国際的問題解決にとってマイナスに作用している場合がある。安保理と異なり、日独が活躍できる地位を持つ点も特徴である。リアリスティックな対応を担うのはG7になりつつあるとも考えられる。

G7とG20との関係性についても誤解が多い。G20はそもそもG7がつくったものであり、G7が司令塔で、G20は系列子会社のような存在である。まずG7はオイルショックへの危機対応のために設置されたが、その後G7の系列として、プラザ合意の時期(80年代半ば頃)において財務大臣や中央銀行総裁会議が始まった。その後アジアやロシアでの通貨危機のころ(90年代末期)にG20の財務大臣会合が始まった。さらにリーマン・ショック時には対応力の観点から財務大臣のみならず首脳会合も必要とされ、G20内で実施されるようになった。G20は参加国の政治的価値観が異なりすぎるため、ほぼ経済対応しかできず、今年も開催されたもののあまり注目は受けていない。一方G7は経済のみならず政治的危機対応も可能である。現在、G7は対中包囲網のイシューに傾斜していく一方、G20としてはリーマン・ショックほどの経済的問題がないことからも、重要度を下げているといえる。このような関係性がベースにあるため、G7G20に吸収されていくという見方も存在するが、それはほぼ不可能であろう。また過去には一時的に、核兵器拡散の懸念からソ連(その後ロシア)ともパートナーシップを結び、最終的にロシアを加えたG8となった時期もあった。国際的問題への対応のために、かつての敵国も糾合する普遍的な姿勢の表れといえる。ただしクリミア問題を受けて臨時会合が開かれ、ロシアを招待しないことが決定された。G7は憲章や組織を持つものではなくあくまで「会議」であるため、このように毎年の見直しを経て柔軟に行動できる点も特徴である。

ただし今後もG7+αへと拡大する可能性はある。国際的問題に対し、力を持った少数の主要国が素早く対応すべき場面が現実的に想定される以上、G7的な枠組みは今度も必要とされるであろう。そのためGゼロはほぼあり得ず、G2(米中)も望ましいとはいえない。一方、国連のように小国を含むあらゆる諸国間で多数決制をとるというのも理想主義的に過ぎ、また実行力がない点も問題である。すなわち、一国の覇権支配は問題であり、同時に、二百か国の多数決も幻想であるとすれば、主要国の協調によるサミットが現実的な最適解となるだろう。

今年のサミットについては、1980年台のレーガン・サッチャー・中曽根らが率いた対ソ強硬策時代のサミットに似ているように思われる。その今年のサミットの第一の特徴は、アフリカ等の途上国ゲストを招かなかった点がある。政治的正しさの観点から途上国支援を約束するという点はこれまで恒例となっていたが、今年は無かった。G7には拡大会合というものがあり、通常は多くの新興国・途上国代表を交えた会合となるが、今年はインド・オーストラリア・南アフリカ・韓国の4か国のみを招いた。そしてG7にこれらを加えた11か国の枠組みが「D11Democratic 11)」と命名された(このような命名は初)。それほど近年の国際政治状況において民主主義を強調することの重要性が増していることを意味している。しばらくの間、このG7+D11体制は継続するだろう。中国やロシアの国際協調路線が確認できるまで、こうした枠組みを通じた圧力形成が試みられると考えられる。ただし上記4か国がG7の新たな正規メンバーになるかどうかは不明である。QuadAUKUSを踏まえれば、インド・オーストラリアがGに加わる可能性はある。G7には参加していても7か国には含められていないEUを国扱いに格上げして、G10とする見方もある。他には、民主的に運営され、国際法を守り、自由と民主主義の価値を共有しているという観点から、ブラジルや南アフリカが候補となるが、ブラジルは現職大統領のもとでは恐らく難しい。また、中国包囲網として露骨になり過ぎるため、2国のみ加えてG9とする可能性は低く、中南米やアフリカの国を加える可能性が高い。以上を踏まえれば、ひとまずはG7D11拡大会合として継続していくことがあり得る。なお来年はドイツで開催予定だが、ドイツでは社民党政権が発足した。また途上国首脳についても、来年以降は再び招待していくと想定される。そうなると米の思惑通り、対中包囲網の強化に向けて順調に進むかどうかは不透明である。

少なくとも2021年はひとつの転換期とみなせ、新しいサミットの時代に入った。米はトランプ政権期にサミットを壊す方向に動いたが、バイデンは逆にサミットをフル活用し、米外交政策のために有効活用しようとしている。英ジョンソン首相もこの点ではバイデンと同じ方向を向いている。しかしドイツが議長国となる来年、米英の方針を踏襲するか、あるいは途上国寄りとなるかは未だ不明である。また日本が議長国となる2023年にはどうなるか。一つの焦点には、韓国が国際ルールを守る国として認められるかどうかといった点があり、この点は国内政治とも連関している。ドイツが韓国を招待する場合は日本もこれを踏襲する可能性が高いが、ドイツがそうしなかった場合には、日本は英米の方針をとるかどうかという点で選択に迫られる。とはいえQuadを踏まえれば、何らかの形でDの枠組みを用いることになると思われる。また、途上国を招待しなかった2021年方式を踏襲すべきかどうかも今後の一つの論点となる。日本はあらゆるサミットにおいて、アジアの代表としてふるまってきた。この点をアピールする意味でもASEAN代表等を招く可能性は高い。そのためD11とは異なる枠組みになる可能性もあるが、アジア・アフリカの代表を招いた拡大会議が行われることになると思われる。

(文責、在事務局)