I.コロナと世界

1.収束に向かうか? COVID-19

米ジョンズホプキンス大によると、世界のコロナ新規感染者の数は、10月上旬時点で、8月のピークから4割減で、126ヵ国で感染者数の減少傾向がみられるという(日本経済新聞10 月8 日)。原因として、ワクチン接種の進展、マスク着用普及など社会隔離の進展があげられるが、更に、ウイルスの自己崩壊説まで出ている。欧米先進国では、コロナの感染は続くが、多くの国で小売り、飲食業などで、経済・社会再始動の動きが出ている。

日本では、8月下旬、新規感染者が約2万5千人の猖獗だったが、9月上旬1 万人に減少し、10月中旬は500人を切る改善ぶりである。今後、第6 波への懸念も表明されるが、菅首相が強力に推進したワクチンは、10月中旬には、第2回接種者は国民の65%を占める。1日あたり、1%増のペースを勘案すると、11月初旬は8割を超えると予想される。抗体カクテルの効果、経口薬剤の出現の近いことを勘案すると、コロナ収束の楽観も許されよう。

2.コロナの爪痕、後遺症

しかし、2019年末から2年(来年も続く)以上にわたり、人類を恐怖に陥れたウイルスの爪痕は鋭い。どこから感染するかも知れないこのウイルスへの対応は、社会隔離しかなく、自殺者も増えるなど、人間心理、社会、経済への影響は甚大だった。IMFの「世界経済見通し」は、世界の数十年分の経済発展を巻き戻したとする(IMF.2021b)。いずこも、医療に過大な負担がかかり、観光、運輸、飲食業などは大きな打撃を受けた。コロナ対応の最終的なつけは政治に及んだ。各国は医療負担、個人への一時給付や企業への保障など、財源を問わない巨大な財政支出で対応し、中央銀行の公債買い入れが急増した。しかし、巨大な財政支出も政治の信頼を回復できず、各国首脳は試練に直面した。トランプ大統領が典型だが、日本の安倍首相、菅首相も退任したが、欧州でもマクロン大統領ほか各国首脳にとっても試練であった。習近平総書記も当初の対応では躓きが見られた。

もちろん、コロナはマイナスの面ばかりでない。オンライン連絡・会議により、自宅労働を増やし、海外と交流し、デジタル社会の普及に貢献した。この結果、多くのIT企業は巨額の利益を得る中、上記、金融緩慢が株式市場を押し上げた。しかし、コロナは失業を増やし、低所得層を打撃し、所得格差の是正コロナが変えた世界とが各国の大きな課題となっている。日本の財務次官は「ばらまき合戦」批判をしたが、各国は巨額になった財政赤字をどうするか?IMFは社会を前進させ、気候変動などに対応するには、巨額の公共投資が必要だと主張する(2001a)。

最近、コロナ感染状況の改善に伴い、各国が社会活動を再開する中で需給のミスマッチが起こり、石油価格が上昇するなど、インフレの危険が生じている。米連邦準備の金融緩和の縮小が典型だが、金利上昇など国際的金融・通貨情勢への影響が注目される。

3.米中対立の激化

コロナは国際政治を動かしたが、特に米中対立を激化させた。米国から見ると、世界にパンデミックをまき散らした中国が、謝罪もせず、武漢強制隔離と全土の監視体制強化で早期収束を達成し、医療外交を展開し、世界で影響力を高めるのは納得できない。しかも、米国が世界一のコロナ感染者と死者を出し(現在米感染者44百万人、死者70万人、中国感染者9.6万人、死者4.6千人)、ロックダウンが相次いだことも腹立たしく、反中感情が強くなる。更に、トランプ大統領は大統領選の敗北を認めず、これが2021年1月6日の議会襲撃の遠因となり、米国の分断は深まっている。

他方、中国は2018年から米国にその通商政策、技術盗取を責め続けられたが、コロナ対策で自国の社会主義体制に自信をもった。習総書記は、2021年1月、世界は100年に一度の大変動期だが、中国に機会があるとしたが、中国ではアメリカの民主主義への侮蔑が広がっている。3月のアラスカでの米中高官会議で、楊代表は米国での議会襲撃や黒人問題を指摘したが、中国国内では好評を博した。

2021年就任のバイデン政権は4 月末の議会演説で、独裁国・中国との競争に勝利するため、米国の体質改革を提案し、対中政策での価値外交・インド太平洋の重視、同盟国との協力を推進している。大統領はNATO、G7や日米首脳会談で、香港、新疆での人権問題の指摘とともに台湾海峡の安定を主張した。

2021年8月の米軍のアフガン撤退は、20年に及ぶ中東政策の転換として耳目を引いた。撤退時の不手際もあったが、バイデン大統領は、国力の対中集中を明らかにした。9月、AUKUS(豪州の原潜の開発・配備を、米英が支援する枠組み)を表明し、更に、米日豪印(QUAD)首脳の対面会談を行った。この間注目すべきは英国の動きである。TPP 加入申請を2月に行ったが、クイーン・エリザベス号の派遣などアジアシフトが著しく、仏独も続いている。

バイデン政権のかかる動きに対し、習政権は改めて共産党体制の優位を喧伝し、米軍のアフガン撤退をロシアと共に、米国の覇権後退と指摘したが、台湾問題での主張を強め、台湾統一は中国共産党の歴史的使命と強調する(共産党成立100 年の7月1日、辛亥革命100 年の9月11日)。人民解放軍による台湾侵攻作戦の動画が公開される中、9月中旬、中国はTPP 加盟を台湾に先立って申請した。

もちろん米中関係は対立のみでない。気候変動に関する協力や、米中貿易交渉の再開もある。しかし、中国は今後、2022 年の第20 回党大会に向けて政治の季節に入り、強硬姿勢は続こうが、最近の注目は、習政権の「共同富裕」の主張である。新文化革命とも評される主張だが、中国社会のダイナミズムを損なわないか、今後の推移が注目される。

4.日本の役割の増大と新国家安全保障戦略

米中対立激化の中で、日本の役割増大が注目される。かつて、オバマ政権時代には、尖閣などの日中紛争に米国が巻き込まれないようにとの姿勢があった。しかし、中国の軍事力の急速な充実が地域的にアメリカを凌ぐ状況の中、米国のスタンスも中国への曖昧戦略から厳しい戦略へ変化してきている。安倍政権が打ち出したインド太平洋戦略を米国も採用したが、バイデン政権は特に同盟国との協力を重視する。上記のように、QUAD を強化し、AUKUS を発足させたが、日米同盟は基軸である。米中対立が激化する中で日本はその前面にある故、役割の増大は当然である(米ソ対立時代のドイツのように)。日本の役割は、上記、TPP への中国、台湾加盟問題に関して
も大きい。

コロナは日本の政治も変化させ、2021 年秋には、岸田新政権の成立があった。岸田首相はその所信表明演説で、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防の改定を宣言したが、日本の国際的責任の重要さの増大している状況を銘記すべきである。

II.バイデン政権の対中集中戦略

1.分断が制約する景気刺激・体質改善策

コロナ猖獗は、米国を世界最大の感染国とし、ニューヨークを始め、相次ぐロックダウンをもたらし、経済活動の収縮と大量の失業を引き起こした。2020 年度の連邦財政は、税収の低下する中、財政支出は軍事費以外のコロナ対応費で2019 年度の3.7兆ドルから、5.8兆ドルと6割近い増加のため、財政赤字も3.1兆ドルと3 倍、GDP15%に跳ね上がった(表1)。トランプ大統領は、ワクチン開発に力をつぎ込んだが間に合わず、失脚した。

バイデン政権は、発足後、コロナから米国を救出すべく、ワクチン接種、雇用維持の米国救出法を提案・成立させた(1.9兆ドル)。2021年度の赤字は3.7兆ドル(GDP17%)と更に増える見通しだ。さらに、R&D・インフラ整備の米国雇用法と教育や子育て重視を含む、中長期の経済政策を提唱した。中国に対抗する体質改善策であり、中産階級支持の政策だと位置付けた、総額6 兆ドルの提案は、財源を高所得者へ課税、法人税の引き上げを含むものだが、財政赤字を中長期にも5%を上回るものにしている。

 

表1 2022 年度米大統領連邦予算案

 

米国救出法の3月の早期成立は、ワクチン接種の急激な進展とともに、政権の意気込みを印象付けた。その他の進展は遅々とし、21年度末9月の時点で、1兆ドルのインフラ投資法のめどはついたが、3.5兆ドルに及ぶ中産階級家族計画、気候変動対策は難航している。2022年度連邦予算は、赤字縮小の見込みだが、年度内に成立せず暫定予算となり、債務上限の合意も12月までの一時しのぎのものとなっている。

米国では、予算作成は議会の任務であるが、議会での勢力バランスは競り合っている。下院でも、民主党219対共和党211だが、上院では、民主党50対共和党50で、ハリス大統領の1票で多数を占めるに過ぎず、少数の民主党の造反も政権への打撃となる。共和党では、昨年の大統領選の敗北を認めないトランプ派が勢力を占め、民主党との分断は深いが、その背後には怒れる中流以下の白人労働者がいる。2045年には、白人が人口の半分以下になる情況がトランプ信奉者を支えており、アメリカは南北戦争時代と類似の内乱状態だとの意見もある。

 

コロナが多数の失業や企業倒産を生む中、資産保有者やIT 関係者は利益を得て、今や1%の富豪が所得を増やし、株や投資信託の5割以上を保有する状況は、民主党での左派の勢力を強め、バイデン派の足元を揺らす。富裕層や法人税引き上げを財源とする、上記、中産階級支持提案にも慎重な動きとなる。ワクチン接種は6 割を超えてから大幅に減速している。バイデン政権は、連邦政府職員に接種を義務付け、航空会社など多くの企業も接種を義務付けているが、共和党系の知事は義務付けに反対している。但し、コロナの新規感染者は、8月末の17.7万人からは、6万人への大幅減で、多くの州都市では急速に社会・経済活動が回復している。物価上昇が加速し、連邦準備制度は金融緩和の縮小に動いているが、国際金融・通貨情勢への配慮がある。

2.両派合意の対中政策

民主・共和分断の中で、両派の合意は反中に基づく対中戦略である。トランプ政権時代に立案された国家安全保障戦略はなお基本だが、2021年3月の暫定国家安全保障戦略ガイダンスは、さらに踏み込んで中国を唯一の対抗国とし、ロシアと区別している。国防予算は財政赤字の中だが、今後中期にわたる増額を計上する(表1)。増加総額は抑制されているが、アフガンからの撤退やイラク、欧州での関与縮小の費用を振り替え、太平洋抑止構想に51億ドルを計上し、国防費は、インド太平洋シフトで、中国の挑戦への対応に集中する内容である。

CSBAのマーンケン理事長は2021 年2月の議会証言で、米軍の増強の中核として、①核の近代化(小型化を含む)、②攻撃原潜の充実、③長距離打撃力の確立、④ドローンなどの無人・使い捨ての安価な兵器の拡充を求めたが(Mahnken 2021)、いずれも人民解放軍との戦闘において不可欠なものであり、これらの諸兵器の充実は予算に含まれている。これに関連するが、Berger 海兵隊総司令官は(Force design 2030)で、2018年の米軍事戦略は、海兵隊の使命を中東などでの暴徒との闘いから、大国との闘い、インド太平洋における戦いに変えたとし、海軍との統合した戦いの本来の任務に戻る。陸上での砂漠戦、市街戦に対応する余裕はなく、A2/AD脅威など敵対環境での海軍の遠征作戦を擁護するというものである。具体的には第一列島線に展開し、第二列島線から、来援する米海軍を支援するという内容であるが、日本の自衛隊との緊密な協力が必須のものとなる。

3.進む同盟国との協力

バイデン政権の、トランプ政権との決定的な差は同盟関係の重視だが、大きな進展を見ている。政権発足以来、日米、NATO、QUAD と首脳・外交安保関係高官の会談が相次いだが、インドを米日豪の枠組みに取り入れたのは大きな進展であった。更に、9月のAUKUS は米英の攻撃型原潜を豪州に供与するという内容で、通常潜水艦供与の契約を反故にされたフランスの怒りはもっともだが、対中戦略上、画期的であった。米国の軍事技術の粋を集めたものだが、上記マーンケン理事長が推奨するように米海軍が、中国人民解放軍に優位を保持できる大きな要素である(注:かつて筆者が米海軍専門家に原潜を日本に供与する可能性を聞いたところ、即座に、明快にNOであった。)。米国の原潜は、RAND報告などでも、中国海軍に壊滅的打撃を与えられる能力を持つが、40ノットの速力で空母も追尾できるところから、中国のA2/ADの網をかいくぐり、南シナ海・第2 列島線内を含め広範な海域を警備できる上、沿岸へのミサイル攻撃も可能である。当然、中国はAUKUS に強く反発している。

最近の注目は英国のアジアへの参加である。AUKUSでも英国の主導性が強かったといわれるが、TPPへの加盟を表明し、クイーンエリザベスの長期派遣を決め、米豪日との軍事演習にも参加である。Brexit で欧大陸からはなれ、香港では中国に煮え湯を飲まされたなかで、発展するアジアに参加することで、中国への関与となっている。イギリスに次いでフランス、ドイツ、カナダもインド太平洋の安全保障に関与するようになり、バイデン政権の対中同盟戦略は功を奏しているが、特に台湾問題への影響が注目される。

4.台湾問題

タブーとされる台湾問題に踏み込んだのは、2016年末大統領当選のトランプ氏だが、台湾旅行法を制定し、米台高官の交流が可能になり、武器輸出も再開した。大統領選挙で敗戦の2020年11月から、大統領退任の2021年1月の2ヵ月ばかりの間に、「台湾保証法」を制定し(台湾への武器輸出、国家主権に関わらない国際機関への参加、国務省の台湾ガイドラインの見直し)、ポンぺオ国務長官は米台間に残る規制を廃止し、交流を自由化し、米国在住の「台湾経済文化代表処」を「台湾代表処」に格上げした。最近の情報によると、米軍の海兵隊や特殊部隊が台湾軍を1年前から訓練しているとのことであるが、これもトランプ政権時代の実施となる。中国は、台湾への武力介入を正当化する要件として、独立宣言や外国勢力の介入など、7条件を定めているが、これに抵触しないか?

バイデン政権もトランプ政権に劣らず、台湾に入れ込んだ。大統領就任式への台湾代表の招待、武器輸出の継続、議会議員や政府高官の訪台など相次いだが、極めて、有力なのは、NATO、G7、日米、QUADなど、同盟友好国の台湾海峡の安定への支持の表明であり、上記、軍事演習である。台湾は李登輝総統の主導で民主国となり、コロナ対応も素晴らしく、半導体という戦略物資の大生産国でもある。

III.中国

1.習政権の自信
―国内締め付けと対外大国ぶり―

習政権は、コロナを早期収束し、米国との通商戦争にも対応する中、米国の分断状況に自信を深めているが、習政権の内外強硬姿勢は高まりを見せている。その理由としては、中国では、成長鈍化でナショナリズムの役割が増大する中、共産党の正統性が常に問われ、失敗は許されない。今後の政治日程として、2022年秋の第20回党大会での習近平氏の党総書記再任が優先課題であるが、本年11月の6中全会、来年初めの北京冬季オリンピックの成功が必須な条件で、コロナ・ゼロ政策が典型だが、国内の統制強化が進行する。香港では2020年の香港国家安全維持の制定に引き続き、民主運動への弾圧が強まり、アップルデイリー紙の廃刊がおこなわれた。対外的にも、大国・中国の威信は高められるべきであり、インドとの緊張は続き、豪州や周辺国への強い姿勢とともに、尖閣でも緊張は高まる。海外からの新疆、台湾問題への介入は許されない。中国の自信は、トランプ氏以来のデカップリングにも拘らず、多くの西側企業は中国から去ろうとせず、中国への投資も続くことである。しかも、先進国では中国批判が強まっているが、国連では、アフリカを始め、途上国の支持で西側を上回る票数を得ている。但し、最近のIMFゲオルギエバ専務理事の世銀首脳時代の中国肩入れ疑惑は、中国の国際機関への過剰介入を強く印象付ける。

2021年3月人民代での第14次5ヵ年計画で、中国の広大な国内市場を活用し、対外関係の悪化からするデカップリングにも耐えうる内外双循環を提唱した。半導体などでの弱点を克服する目的だが、海外市場での、中国の大きなシェアを狙う極めて重商主義的スタンスであった。習主席は7月1日の共産党創立百周年大会では、共産党主導のもと、中国の第一の100年(2021年)の目標である小康社会を全面的完成に至ったとした。小康社会は2002年の16党大会以来の共産党の優先課題で、習政権は、中国社会の絶対的貧困を解消するという大きな目標を達成したことになる。

2.「共同富裕」は新文化革命か

しかし、習総書記は8 月17 日、第二の100 年
(2049年)の奮闘目標として「共同富裕」の実現を取り上げ、これは社会主義の本質的要求だとした。鄧小平は豊かになれるものから豊かになれと「先富論」を唱えたが、「共同富裕」は富裕者からの富の移転を狙ったものである。中国はジニ係数が異常に高く、所得格差の大きい国であるが、コロナは低所得層を打撃し、失業を高め、所得格差を拡大した。急激な格差の歪みを是正し、社会の安定性を高め、共産党への信頼性を高める必要があるが、「共同富裕」は毛沢東が1953年に提起した構想である。人民公社を組織し、大躍進を展開したこの構想は「共同貧困」の結果に終わっているが、毛沢東を称揚する習近平の思惑も交差する。

習総書記は、「共同富裕」により、「調高・拡中・増低」(高所得の調整・中所得層の拡大・低所得層の所得増大)を実現するが、同時に公有制を主体とすると述べている。高所得はだれかということになるが、IT産業、不動産、教育産業が対象になっている(三浦、2021)。いずれも、コロナにも拘わらず、高収益を上げ、民営で共産党支配から遠い特色がある。不動産会社への金融規制、8月30日の中央全面深化委員会での反独占強化及び大手学習塾の廃止、9月1日の中国データ安全法によるデータの管理、10月の民間企業のメディアへの進出禁止、個人情報保護法などが相次いで出され、「共同富裕」と規制の強化が急速に進行している。新・文化革命との評価もある。

3.「共同富裕」の規制強化

まず、アリババ集団は、中国国内のみでなく、海外にも店舗を持つ、巨大な電子商グループだが、クラウド事業や動画事業の他、傘下に金融事業を行うアントグループを持つ。中国政府は、2020年末、アントグループの新規株式の上場を停止したのみでなく、金融活動に関与したうえ、アリババ集団に独禁法違反で罰金を科している。また、テンセントは巨大なIT企業だが、当局は独占禁止法違反をとがめ、活動を制約している。2021年9月、アリババ、テンセント両社は「共同富裕」に、それぞれ1.7兆元を拠出した。また、滴滴、TikTok などにも政府は関与を強めている。さらに、中国政府の関与はエンターテイメント業界にも及び、人気の男優・呉亦凡や女優・趙薇などが公人として悪い社会的影響を起こしていると非難され、脱税も指摘され、相次いでネットから消えている。

教育部は、習主席の中国の特色ある社会主義思想を学習するように指導し、西洋崇拝を排除するように求めている。また、学習塾などでの校外教育費が異常に高額の実態を踏まえ、教育部が「双減」(学校の宿題軽減と郊外教育の軽減)を打ちだしたが、民間大手学習塾に大打撃で、教育界から民間を追い出した結果になっている。国家発展改革委員会は10月、民間企業の新聞、テレビ、インターネットニュースへの参入への制約を強めた。

不動産産業に関しては、恒大集団の破綻が表面化した。総額33兆円を超える負債を抱え、債務不履行の懸念について、IMFもその広範な影響の可能性に警鐘を鳴らす(2021b)。中国の住宅価格の上昇が最近加速し、中国での所得不均衡の大きな要因とされている点からすれば、高い教育費と共に、「共同富裕」の障害であろう。最近の住宅価格の抑制が、中国政府の不動産業への金融政策の転換により行われているとすれば、恒大集団も破綻に到ろうか。しかし、中国政府は、恒大集団の処理をその活動分野ごとに分けて、国有企業への吸収で行い、衝撃を緩和している。しかし、債務不履行は他の不動産企業にも拡大しており、今後も同様な手段で対応は可能であろうか。

以上のように、習総書記は、2020年の党大会に向けて、国有企業重視の社会主義市場経済を推進している。2021 年1-8月の国有企業の利益は、民間企業の利益を上回る逆転ぶりを示したという(日本経済新聞2021 年10月16日)。しかし、「共同富裕」で、習氏が抑制している電子商やIT 産業は、中国の先端部門を主導してきた企業であり、毛沢東の犯した「共同貧困」の危険はないのか注目される。

以上の状況で、極めて注目されるのは、最近の外資の動向である。米国の通商戦争にも撤退しなかった米企業だが、最近、マイクロソフト傘下のSNS リンクトインは最近の習政権の締め付けに対し、中国撤退を表明したが、米小売大手・ウォルマート社も主要仕入れ店を中国からインドに移転させるとした。Newsweek 社は、10月19日号で、「ドキュメント・中国撤退」を特集するが、「共同富裕」という「新・文化革命」による外国企業の大脱出の危険を指摘する。

4.繰り返す台湾統一
―習氏のギャンブル

7 月の共産党創立100周年大会は、第二の100年目標(2049)として、社会主義強国の実現に邁進する、世界一流の軍隊を作り、国家の主権・安全を守り、台湾統一を実現するのは共産党の歴史的任務とした。辛亥革命110周年記念の10月9日には、孫文は統一中国を願ったとし、「台湾独立」分離は祖国統一の最大の障害であり、歴史の審判にあうとした。折から台湾の国慶節は10月10日だったが、蔡総統は現状維持を求めると、自制の姿勢を示した。

習近平が国内での統制を強め、しかも、自身の評価を毛沢東に比する評価に求めるのは、2022 年での20 回党大会のみならず、27 年の党大会でも総書記の道を求めているためとの意見が強い。しかも、それは台湾解放の実現のためだとするが、台湾解放の実現は毛沢東を超える行跡となる。

Jude Blanchette はXi’s Gamble(ForeignAffairs July/August)で、習近平が急いでいるのは、時間がないからだとする。現状は、米国も西側も衰退期のなか、中国の技術力は強くなるが、米国への相対国力の頂点は2020年代だとの判断に基づく戦略的挑戦だとする。中国の生産年齢人口はすでに頂点を過ぎ、総人口も20年代後半には減少に転じる。米国の人口は30年代にも根づよく増加するが、30年代にはインドが大国として登場する可能性が強い。中国の軍事力は2020年代、急激に充実し、台湾との格差はますます大きくなる。2027年の台湾侵攻はありうるとする。

しかし、台湾も非対称戦力を強めており、台湾海峡を越えて本格介入し、中期にわたる兵站を確保することは容易でない。さらに言えば、現在のような、内外にわたり締め付けを強める政策が可能か、疑問が残る。生産性の高い民間部門に介入し、共産党の支配を強め、国有部門を強めることが中国経済の成長を阻害しないか。「共同富裕」は結果として「共同貧乏」を招き、政治不安に発展しないか? 習総書記は、11月の6中全会に結党以来の総括をする「歴史決議」を提案し、自己の業績を誇るだろうが、失敗の歴史を繰り返さないかである。Blanchetteは、習近平が長期独裁を続ける結果、習亡き後の中国の混乱を憂慮する。

IV.日本の戦略

1.重要な日英関係

日本を巡る外交、安全保障環境は激動している。米中対立が激化し、台湾海峡がきな臭く、インド太平洋の環境が緊迫するような状況では日本の関与の増大は必須である。特に、バイデン政権は、対中戦略として、アジア・欧州の同盟・友好国との連携を強める状況だが、同盟友好国にもインド太平洋への関与を高める動きが強まっている。最近の注目は、インド太平洋でのこれら諸国の軍事演習の頻発である。トランプ政権時代、米国は南シナ海の埋め立てに抗議し、自由航行作戦を行っていたが、頻度も参加国も少なかった。しかし、今や、米、日、豪の他、インドも海軍艦艇を派遣するようになり、英、仏、独、加の艦隊も参加する状況である。

特に、英国は空母クイーンエリザベス艦隊を、アジアに常駐させるが、当然日英関係の進展がある。英国は2021年2月TPP加盟を表明し、議長国・日本は、6月の会議で各国の了解を得て、英国の加盟を審査する作業部会を設置し、加盟への前進とした。前述の如く、9月には中国と台湾が加盟を申請したが、まず、加盟審査の作業部会の設置の関門があり、更に、本格審査の後、11ヵ国の賛成が必要である。共産党支配の国有企業を優遇し、多額の補助金を与える中国がTPPの加盟条件を満たすとは思えないが、台湾の加盟にも政治的駆け引きが影響しよう。米国の参加の可能性の低い中で、日本は、まず、英国の加盟を優先して実現し、日英関係を強化し、TPPを拡大・強化すべきである。

2.新安全保障戦略への期待

岸田首相は、10月9日の所信表明演説の中で、自由・民主主義の諸国と連携し、自由で・開かれたインド太平洋を推進する。安全保障環境が一段と厳しい中、国家安全保障戦略・防衛大綱・中期防を改訂するが、更に、憲法改正の論議を深めるとした。

国家戦略の基本として、川崎教授は、自国が属する陣営が、国際秩序戦で他陣営に勝り、自陣営での、自国の地位が高くなることとしている(川崎2019)。安倍首相の提唱したインド太平洋戦略は、米国も採用し、上記のように、日米豪印、英独仏がインド太平洋に関与する状況は日本の地位を高めている。TPP もしかりだが、経済安全保障から言うと、中国依存の大きい日本企業は上記「共同富裕」の動向に備えるべきである。

国防に関しては、日米同盟が機能するとはいえ、日本自身の国防力充実が基本である。日本の周辺の安全保障環境は、台湾海峡もさることながら、北朝鮮のミサイル、潜水艦など不安定を増している。韓国は国防力を大幅に増強し、国防費は日本を超えるが、今後も、軽空母、長距離ミサイル延伸を目標とし、原潜の計画も伺える。

日本の防衛予算は、中国の5分の1の状況で、いかにして日本を守るかだが、軍事力の劣る国の戦略としては、相手の弱みを突く非対称戦略が求められる。専守防衛で攻めてきた相手の攻撃に対応する拒否的抑止ばかりでは有効でない。現行の策源地攻撃論もミサイル基地は探知が難しく、有効性を欠く。相手が攻撃してきたとき、相手の重要な、弱点を突く力(懲罰的抑止力)を持ち、相手に脅威を与え、軍事コストを科することが、有効な抑止につながる。第一列島線内の艦船は特定しやすく、長距離ミサイルでの攻撃力を保有すれば、日本の懲罰的抑止力として有効であろうが、どうか? 攻防の戦力を保持しなくては、有効な戦略・戦術を考案することは難しい。今こそ、憲法を改正して、日本の生存に必須の戦略条件を整備する時期にあることを主張したい。

《参考文献》

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