(1)5Gとは?

5GのGはGeneration=世代の略、すなわち通信の世代を表している。移動型(無線、モバイル)通信の歴史の始まりは、1980年代に遡る。1980~1990年までは1G時代であり、米国モトローラ社を筆頭に、日本などの通信企業が世界を牽引し、端末も小型化していった。続く1990年代は2G時代であり、いわゆるガラパゴス携帯(ガラケー)が端末の中心であった。しかし、まだ一般的には浸透しておらず、モバイル通信自体がまさに時代の最先端の象徴であった。2000年代に3G時代を迎えると、ドコモ社の提供するi-modeが、メッセージの送受信、一部ウェブページの閲覧機能を「ガラケー」上で実現し、日本はモバイル通信の先進技術国として先頭を走ることとなった。2007年にApple社のiPhoneの登場で、スマートフォン(スマホ)時代が到来したが、3Gでは通信スピードが十分でなく、「スマホ」はそれほど普及しなかった。2010年代、4Gの登場により通信速度が飛躍的に上昇すると「スマホ」は急速に普及し、ついに2020年に5G時代が幕を開けた。このように通信世代は、およそ10年1世代で発展し、通信速度は世代ごとに約10倍ずつ上昇した。4Gの携帯端末ではHD動画も自由に見られるようになり、通信速度は30年間で約千~1万倍に跳ね上がった。

(2)5Gの規格上の特徴

4G技術をベースにして発展したのが5Gの技術であり、規格上3つの特徴がある。

第一に、その通信速度の速さである。eMBB(enhanced Mobile Broadband)技術により、通信速度は4Gの10倍となり、HD動画をわずか1-2分でダウンロードできるようになった。

第二に、想定するアクセス数の多さである。例えば、4Gでは1㎡当たり1万人のユーザーによるアクセスが可能だが、5Gでは100万人が可能となり、単純計算でも4Gの100倍規模ということになる。これにより、人だけでなく家電の通信網へのアクセスが容易となり、遠隔での家電操作がスムーズになる。

第三に、その反応の速さである。5GはuRLLC(Ultra Reliable and Low Latency Communication)技術を採用し、パケット通信の転送フレームが従来製と異なるため、タイムラグがほとんどなく、安定度・信頼性も高い。これらのことから、例えば、車両の自動運転といった極めて高い信頼度を要する操作において5Gは必須になっていくと考えられている。

(3)5Gのもたらす世界

2019年に5G導入の口火を切ったのは米韓であったが、技術品質においては現時点では中国とEUの一部が先頭を走っている状況と言える。

それでは5Gの浸透した世界はどのようになるのか。第一に、場所やツールを問わずに通信可能になるという点で便利な世界になる。第二に、スマートな世界になる。IoT、AIの発展と並行して通信網が生活の基本インフラになることで、例えば走行中の車両における車間距離を自動かつ効率よく制御できるようになる。第三に、生産的な世界になる。ヒトとヒトのみならず、例えば農工業における業務管理でヒトとモノ、モノとモノも通信でつながるようになり、高い効率性が実現可能となる。第四に、楽しい世界になる。通信速度や安定度の著しい向上を前提とするバーチャル世界において、3Dによる現実に近い世界が再現できるようになる。そうすると、例えば過疎化の進んだ地方や離島での医療提供や、コロナ禍で制限される国内・海外旅行をバーチャルかつよりリアルに体験できるようになる。

5G技術で世界がより安全になるのか、それとも危険になるのか、それは使い方次第である。少なくとも5Gは、通信用の基本インフラとして将来人類のあらゆる活動のプラットフォームとなり得る。

(4)世界における5Gの現状

2021年3月現在、64か国153社の通信キャリアが5Gを採用している。通信格差が国内・国際的な情報格差や貧富の格差に繋がっている。5G基地局技術は韓国(サムスン)、EU(ノキア、エリクソン)、中国(ファーウェイ、ZTE)が、端末技術は米国、中国がリードしている。世界の携帯端末の約8割は中国製であり、5G端末におけるその割合はさらに増える。5G関連の特許は米・EU・中国がほとんどを占める。しかし、製品製造に必要な部品技術におけるシェアは日本が抜きん出ており、韓国・台湾も一定程度のシェアを占める。5Gにかかる特許出願件数における企業別シェアをみると、ファーウェイ社がトップ(15.05%)であり、続いてノキア社(13.82%)、サムスン社(12.74%)、LG電子(12.34%)、ZTE(11.7%)、クアルコム(8.19%)、エリクソン(7.93%)、インテル(5.34%)、その他(12.89%)である。ドコモ、ソフトバンク、NEC、富士通などの日本企業は「その他」に入り、シェアは大きくない。

(5)5Gの日中比較

5Gの導入・展開で日中を比較すると、5G端末加入者数では、中国が約3億人に対し、日本は545万人である。基地局数では、中国は今年末までに50万局、来年末までに100万局の設置を目指す。一方、日本は総務省によれば、3年後に28万局の設置を目指している。世界の5G市場におけるシェアを比較すると、中国が約25%に対し、日本は約12%であるため、両国とも市場規模は決して小さくはない。しかし、導入と規模の観点から、日本は中国と比較すると、2年程遅れているといえる。

(6)5Gにまつわる日本の現状

2020年に5Gの時代に突入したとは言え、日本で現在利用される端末のほとんどが4Gだ。ドコモ社、KDDI社、ソフトバンク社いずれも5G用の基地局を十分に所持していないことがネックとなっている。当初は東京オリンピックを目標に5Gの浸透を目指していたが、コロナの影響もあって遅れている。そのため、5G対応の携帯端末を保有していても地方では殆ど利用できないのが現状だ。

(7)5Gと日本の展望

日本企業を含む世界各国のリーディングカンパニーが定期的に集まり協議し、通信方式を「3GPP・リリースver.XX」という形で規格化を進めている。これは、技術効率の低下を防ぐための通信業界による試みであるが、5Gの規格化はまだ完了していない。引き続き規格化やルール整備は重要であり、世界各国・企業間の連携・協力が必須になる。

5G製品において、基地局・端末いずれの生産においても、日本製部品がないと成り立たないことは、間違いなく日本の強みであり、今後も同分野における日本の貢献が大いに期待される。日本は5Gの牽引役としては遅れをとったものの、特定企業が技術を握るのではなく、オープン仕様に基づき様々な販売業者の機器を組み合わせることのできるO-RAN(オープンラン)システムの推進に資金とマンパワーを投入していくだろう。さらに日本企業は、ポスト5Gや6Gを見据えた新たな技術、産業創出に邁進していくだろう。