(1)ウイルス・科学技術・外交

ウイルスと外交というテーマで、持論を展開したい。まず喫緊の課題として言及しておきたいのは、海外在留邦人への新型コロナウイルスワクチン接種という問題である。およそ100万人の海外在留邦人が存在するが、米やイスラエル等では在留邦人も接種対象となる一方、そうならない新興国もある。そのため在留邦人へのワクチン接種可否について調査が必要であり、場合によっては我が国が手を差し伸べる必要があるだろう。これは在留邦人の生命と安全は領事局が担当するためで、実際にハリケーン・カトリーナの際には全米の領事が行方不明者捜索にあたったという事例がある。また、2001年6月に米が行ったDark Winterと呼ばれる生物兵器テロのシミュレーションにおいても日米の連携がみられた。この際日本が開発した安全性の高いワクチンが米にも供給され、現在でも備蓄されているものと思われる。

戦前の帝国主義の時代から、資本主義・共産主義のイデオロギー対立、また宗教対立を経て現在もなお、世界は弱肉強食の状態にある。日本の平和主義が永続する保証はどこにもない。そうした対立事例の枚挙には暇がないが、米軍撤退後のアフガニスタンでの平和構築という課題や、ミャンマーの軍事クーデターの問題など、世界中に課題がある。無論、日本も無関係ではない。日本はアフガニスタンに対してはODAを通じて支援を行ってきた。教育・医療援助・インフラ整備などの分野で新興国の支援を積極的に行うことが、両国の良好な関係性維持のために必要である。一方、外交の失敗は戦争にも繋がりかねない。明治維新以降、日本と欧米の間に結ばれた不平等な関係性は、様々な制度を通じて今日まで維持されているともいえる。戦争を通じて科学技術は飛躍的に進化を遂げるが、科学は本来平和のために利用されるべきである。実際、様々な軍事技術が民生にも応用され、特に生物兵器に関する技術はワクチン開発にも応用された。

(2)新型コロナウイルスと世界情勢

2019年末から世界中に伝播している新型コロナウイルスは、SARS-CoV-2という正式名称を持つ。この名称は、2002年~2003年頃に流行したSARSコロナウイルスと同じグループに分類されることを反映している。我が国では手洗いとマスク着用、また3密を避けることが感染拡大防止のために有効と説明してきた。重要なのは、人々がお互いに飛沫が届かない距離を保つという点である。閉鎖空間ではウイルスの感染力が高まるため換気も重要である。

ところで、かつて存在した天然痘にはワクチンが効果的で、1980年にはWHOが根絶を宣言した。この際に使用された方法はリングワクチネーションと呼ばれ、患者の発生した地域を囲い込むようにワクチン接種を行うというものであった。日本人の蟻田功博士がこれを指揮し、限られた予算と人員を効率的に運用して封じ込めを成功させた。しかし現在、WHOの上層部には中国の影響が強く、いうことをきかない場合もある。組織の動きづらさが生じていると思われる。

このように、中国の意向は現在の国際情勢にも大きく影響する。米では大統領がトランプからバイデンに交代したが、非常に危うい状態である。香港の一国二制度が崩壊したのち、台湾情勢も変化した。面子を重視する中国としては、台湾を手放すという選択肢はあり得ない。最近の日米共同宣言では50年ぶりに台湾に関する条項が盛り込まれたが、日本としてはバランス外交を通じて戦争を抑止するべきだろう。欧米にもこれらの点を理解させなければ文明の衝突が起こると考えられる。かつて鄧小平は遺訓において、しばらくの間、中国は国際社会において目立たないよう説いたが、習近平はこれを破った。中華思想では中国が世界の中心であり、その版図はかつての元の国による、東欧までを含む広大な範囲に及ぶと考えている。

欧米諸国は新型コロナウイルス感染症との戦いを「戦争」と表現し、戦時体制を構築した。対して日本は平時の延長線上で対応するため、スピード感が足りない。米ではトランプ大統領の「ワープ・スピード作戦」により、アメリカ食品医薬品局(FDA)は緊急時使用許可(EUA)を発出するなどした。これによりメーカーは、副反応の発生による製造責任から一時的に免責されている。ファイザー社のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、副反応が強い分、免疫が立ち上がっていると思われ、効果があると考えられる。しかしRNA自体が非常に脆いために、超低温での保存・運搬が必要になる。またこのワクチンにはPEG(ポリエチレングリコール)が含まれるが、化粧品にもこれが含まれているため、特に女性のアナフィラキシーショックの懸念が指摘されている。中国は従来型のワクチンを生産・輸出しており、特に変異株に対してその効果はあまり期待できないが、ファイザー社のmRNAワクチンは効果があるとされている。理由はワクチンの仕組みに関係する。コロナウイルスの周囲にあるスパイク蛋白が細胞への侵入と関係しているため、ウイルス全体を用いずともこのスパイク蛋白に対する抗体が生成できれば、免疫を誘発できる。そこでウイルスの遺伝子材料であるRNAから、スパイク蛋白の生成に関与する部分のみを取り出してmRNAを生成し、これを接種することで、人体においてスパイク蛋白を生成させ、これに対する抗体をつくらせる、というのがこのワクチンの働き方。変異株ではスパイクの形状が多少変化しても効果にはさほど影響しないだろう。

日本はマスク製造などをほとんど中国で行っており、物資不足に際して輸入が停止する事態も発生した。この経験からも、ワクチンを含む医療物資は国家戦略物資とみなし、国内で生産すべきである。また日本では制度面で米のようなスピード感がない。米FDAによるEUAは多様な薬品・療法に発出されており、日本の対応と大きく異なる。

近年の科学技術の発展は目覚ましいものがある。例えば現在では遺伝子改変技術(CRISPR-Cas9)により簡単にゲノム編集(突然変異を引き起こすこと)が可能になった。これは「神の技術」とも呼べる。他にも通信技術やAIの分野も急速に進化した。また人類の歴史とは「差別の歴史」でもあったが、21世紀に入り差別も乗り越えられつつある。例えばLGBTは、遺伝子を残すという生物にとっての至上命題を乗り越えた、つまり「人を超えた」存在ともいえる。人類の進化は神に近づくことであり、技術の進歩で寿命が延びれば子孫を残す必要もなくなる。その際、生物学的な男女の別は不要になるだろう。

目下、コロナウイルスに関して重要なことは、「うつらない」ことである。また、高齢者が重症化しやすいため、高齢者にうつさないように心掛けつつ、重点的にワクチンを接種すべきである。

(文責、在事務局)