(1)国際文明論からみる国際関係研究の重要性

国際関係の研究は、国際文明論から説き起こすことが重要である。人間は必ずしも合理的でなく、情念的であり、非合理的な選択をするものであり、それは人間が行う国家の外交においても同様である。そのため、それぞれの人間の癖や行動パターンを観察することが重要であり、日本や中国の外交を見る際にも、リアリズムやリベラリズムという観点からだけでなく、人間自身を扱った国際文明論からみたプローチが必要なのである。

(2)日中の外交上における歴史認識問題は基本的に解決している。

日中間の歴史認識において、重要なキーワードは「侵略」「植民地支配」「お詫び」の3点である。1972年の国交正常化の際の「日中共同声明」では、それらの点について言及されなかった。その後95年の村山談話において、はじめてその3点が言及されたが、日本では社会党党首の話としてあまり重視されなかった。こうしたなかで重要になったのは98年の小渕首相と江沢民国家主席による「日中共同宣言」である。同宣言では、「中国への侵略によって中国国民に多大な災難と損害を与えた責任を痛感し、深い反省を表明した」と記されている。両国間の公式文書においてはじめて「侵略」という言葉が入った画期的な宣言だったのである。また同宣言では、「改めて中国は1つであるとの認識を表明する」との文言も入っているが、これは72年の共同声明にも入っていない言葉であり、この点も重要である。ただし、当時小渕首相は、頑なに「お詫び」という言葉を入れなかったことに注目が寄せられたためか、日本の政界やメディアではこの「侵略」という言葉が入ったという画期的な点を黙殺している。その後、2005年の小泉談話において、自民党の首相として初めて「侵略」「植民地支配」「お詫び」の3つのキーワードを入れたが、この時もメディアからはあまり取り上げられなかった。こうした経緯をたどり、戦後70年の2015年の安倍談話によって歴史認識問題は解決を迎える。戦後70年ということで注目された同談話に、「侵略」「植民地支配」「お詫び」の3つのキーワードがすべて入ったことで、両国国民に広く周知されたのである。以上の経緯をみると、両国の間では、公式文書における文言よりも、いかに国民の「情」において認識されることが、外交上の理解にもつながっているということがわかる。東洋人にとっては「情」による国民感情が大事なのであり、この点で対照的なのが米国であり、これを踏まえて外交をみていかなくてはならないのであろう。

(3)尖閣諸島の問題をどう解決するのか

尖閣諸島問題の争点は、中国の海警による日本の領海と接続水域への航行である。日本側の希望としては、こうした中国の公船が日本の領海に入ってくることがなくなることであろう。この問題の解決は、「日中漁業協定」を厳正に執行することに尽きる。日中両国でこの申し合わせができれば、中国の公船が来ることもなくなるだろう。

(4)日米同盟の強化から弱体化と日中関係の改善

次に日米同盟の変遷を、「基軸」をキーワードにみていきたい。日米同盟を日本外交の「基軸」と初めて述べたのは、96年の橋本首相であった。その後、2015年の安倍首相・オバマ大統領による東京での首脳会談において、安倍首相より「日米同盟を基軸とする平和と繁栄のためのネットワークをアジア太平洋地域において共に作っていきたい」と発言し、オバマ大統領より「日米同盟は米国の安全保障の基軸でもあり」「ネットワークを作っていくとの安倍総理の考えを支持」という返答を受けている。ここでみられることは、オバマ大統領による完全な日本側への迎合である。この重大性をメディアなどではあまり取り上げられていないようであるが、このことは、日本外交が最高峰に達したひと時といえよう。というのも、日米同盟はあくまでも日本の基軸だったわけであるが、それが世界をリードするものであると日米両国で合意されたわけであり、中国を戦略的相手とする「日米G2」が構築された瞬間だったからである。

しかし、これがトランプ大統領の登場によって弱体化させられる。2017年2月の安倍首相・トランプ大統領による日米共同声明では、「日米同盟は太平洋地域における平和と安定の礎になるものである」と、日米同盟を橋本首相の時から30年使われてきた「基軸」から「礎になるもの」と言い換えている。またそもそも、トランプ大統領は大統領当選後、この日米共同声明までの間に「日米同盟」という言葉すらも使っていない。ただ、実はこの「基軸」と「礎」については、英語では両者とも「cornerstone」で同じなのであるが、なぜか日本語訳では変更されたのである。この変更がなぜ行われたのか、その真実はわからないが、もし米国側が日本語訳を「礎」にするように要請したのであれば、それも重大な出来事となろう。

また、「自由で開かれたインド太平洋」という概念について、安倍首相は2016年にケニアで初めてこの表現を用いたが、それを日本が、2017年以降米国の官僚機関に「新戦略」として売り込んでいった。こうしてトランプ大統領は、2017年11月のハノイの演説において、「独立した主権国家がそれぞれの夢を追求する、自由で開かれたインド太平洋地域を目指す」と発言したわけである。ただ、トランプ大統領は一度もインド太平洋を「戦略」としては言っておらず、先ほどの演説においても単に自国第一を普遍的価値として主張しただけある。米国務省および国防総省が「戦略」と言い続けているだけである。このように、トランプ大統領以降、日米同盟は決して強化されているのではなく、弱体化しているのである。

反対に日中関係は、2018年10月の安倍首相の訪中の際に、中国側に「インド太平洋戦略」を「インド太平洋構想」に改めることを伝え、かつ安倍首相と習近平国家主席による日中関係新時代を公言するなど改善にすすんでいる。日中は隣同士であり、関係が悪化すれば改善に向かわなければならないが、米国にはそのような発想がない。

(5)習近平外交の全体像

最後、習近平国家主席による外交の全体像について述べたい。中国は情念的大国意識があり、日本は情念的距離外交ともいうべき、相手との距離をとった外交を展開している。日本は伝統的に、中国に対して中距離、米国に対して近距離、ロシアに対して遠距離、をとってきた。それを、日米の近距離関係をゼロ距離に強化し、又は日中の中距離を遠距離にしてしまうなどすると、全体のバランスが崩れておかしくなるのである。現在の日中関係をみると、日本の嫌中派による中国への反感的な動きに対して、習近平国家主席側が感情的に嫌悪しているといえる。例えば、習近平国家主席は本年、結果的に日本より先に韓国を訪問することになるが、これもそういった感情的な判断が影響しているのかもしれない。日中双方では、感情をコントロールして関係を構築していく必要がある。他に習近平外交では、米中関係を主敵のG2から対等のG2へしようとしており、そこで科学技術を主戦場としている。また、対米統一戦線外交を展開しようとしており、各国を中国側に引き入れようと、硬軟両面の外交を展開している。

(文責在事務局)