新型肺炎・パンデミック猖獗下の尖鋭化する米中対立
I.コロナが変える世界
1.パンデミックとなったコロナウイルス
2019年末、中国・武漢で発生し、2020年初、湖北省で猖獗したコロナウイルスは、韓国、日本などの周辺国、更に、イラン、イタリアに飛び火し、3月にはスペイン、独、仏、英と欧州全域に急拡大した。4月にはアメリカで急膨張し、西半球、アフリカを蔽う、文字通りのパンデミックとなった。5月20日の世界のコロナ感染者は5百万に近く、死者数も30万人を超えている。米国が、感染者150万人、死者9万人のダントツの状況のなか、露、西、英、伊、仏、独などの欧州諸国の感染者が20-25万台で続き、途上国にも感染拡散の続く状況で、多くの国では医療現場の逼迫・崩壊の危機にさらされる。しかし、発生源の中国は、感染者8万5千人、死者3千人台に留まり、早期収束を宣言する情況である。
2.社会隔離の衝撃と社会変革
この人-人感染力の強い、姿なきウイルスに対し、有効なワクチンは未開発であり、ウイルスを制御する薬も不明な状況で、医療崩壊を避ける対抗手段は、社会隔離(Social Distancing)が主となった。社会隔離は、これまで、人-人の接触と交流を増加させ、協業により社会生活を高めてきた近代文明の否定であるが、恐怖がこれを強要した。多くの国は国外との往来を遮断するのみでなく、国内でも、外出を制限し、公共機関の利用を制約した。在宅勤務やTV会議が流行したが、外食や、旅行は減少し、外出時はマスクを必須とする生活を強いられた。
このような自粛行動は各人の生活を制限するのるのみでなく、多くの企業活動には致命的打撃となり、企業倒産、失業増大から、政治不安の状況に追い込まれる。多くの国は3月から、強い隔離生活に入ったが、2月を経た5月中旬に入り、欧米諸国などでは、なお感染者が多いものの、社会隔離の一部を解除する動きがあいついでいる。但し、この数ヵ月のコロナウイルスによる個々人の心理、生活様式への影響は甚大であるが、多くの識者の告げるように、コロナの本年秋、来年と再燃の恐れもあるとすれば、ウイルスとの共存を意識した、現代生活への影響は根強いものとなろう。
『国際金融』2020年5月号掲載の、中小路氏の「イタリア・コロナとルネサンス」は、ペストが、欧州中世支配した教会の権威を終了させ、ルネサンスを招来したとの見解は極めて興味深い。コロナは独裁政権にも挑戦し、各国首脳は民衆の動きに、細心の配慮を強いられている。同氏は、また、21世紀のルネサンスとして「デジタル化」を挙げるが、デジタル化を伴う新しい生活様式が進むことになろう。国際関係も大きな変化を受ける。
3.深刻化する米中対立と世界秩序
「新型肺炎・パンデミックと世界のパワーバランス」(2020年4月1日掲載)で、筆者はウイルスが米中対立を悪化させるとしたが、一方に、早期収束をした中国が、その共産党支配の優位を唱え、生産を再開するとともに、余剰となった医療資源を駆使し、欧州・西半球・アフリカなどで、積極的医療外交を展開し、国際的影響力を高めている。更に、コロナに苦しむ米国を横目で、周辺での軍事活動を活発化している状況がある。しかし、中国コロナウイルスが、パンデミックとなり、世界に、大きな被害を与えている点についての釈明・陳謝はない。
他方、今や、世界最大のコロナウイルス感染国となり、多大の死者を出している米国としては、中国の動きを看過できない。しかも、今回のコロナ問題で浮き彫りになったのは、WHOを始めとする国際機関への中国の影響力の強さであり、また、医療資源生産における中国の独占的地位である。米国は、武漢生化学研究所が、パンデミックの原因だとして、中国の責任を問うている。米国の主張には、耳を傾けさせるものがあるが、問題は、トランプ政権の「米国第一主義」が障害となり、G7ですら共通の対応ができない情況である。
4.日本の立場、役割
日本は、3月の緩みもあり、4月に感染者が急増し、医療現場が逼迫した。その後の緊急事態の宣言をへて、事態は改善し、5月14日、39県で、自粛緩和が宣言され、残りの8都道府県も関西圏の21日解除を皮切りに、全国での緩和が見込める状況である。国際的にみれば、良好な状況だが、ワクチンや有効な薬剤が開発されなければ、再燃の危険はある上、何よりも、海外との交流ができない。米国の主導性が低下する中で、日本の役割は、日米、日欧の連帯を強め、コロナウイルス克服への対応を強化することである。,