(1)中国の戦略的抑止

近年、中国の戦略的抑止は広範囲な概念となっており、核兵器のみならず、宇宙、サイバー、電子戦争などにおける能力も含めてとらえられている。またそれらの能力は、軍事上の抑止だけでなく、中国の対外政策の影響力においても重要であると認識されている。中国は最初の核実験以来、自国の核戦力を、相手からの先制攻撃に対する「第二撃能力」をもつためのもの、つまり核の戦略的抑止のためのものと主張してきた。ただ、過去にそれを覆すような人民解放軍軍将校などの発言などもあることから、必ずしも「第二撃能力」に限定するものであるかどうかは保証されていない。

冷宇宙やサイバーの能力については、中国は多くの衛星を投入して、軍事作戦に効果的に利用できる測位システムを構築している。ただ人民解放軍としては、自国の宇宙やサイバーにおける能力には脆弱性があると強調し、特に米軍からの脅威をその例として挙げている。こうしたなかで中国は、これらの分野における人民解放軍の能力を高めるために、コンピューターハッカーなども動員して、投資と研究開発を進めている。

(2)中国で近代化する核武装

中国の核戦力は近代化されつつあり、核戦略上、中国に抑止だけでなく幅広い選択肢を与えはじめている。中国人民解放軍のロケット軍は、米国とロシアに比べるとまだ小規模ではあるが、過去20年の間。大きく成長してきた。今や大陸間弾道ミサイル(ICBM)だけでなく、核弾頭搭載可能な中距離弾道ミサイルである「東風21」も配備されている。こうして核戦力の近代化が進んでいるのは、国家的な核戦力運用における選択肢の拡大という目的だけでなく、人民解放軍内での競争の影響もあるのかもしれない。というのも、人民解放軍では、核抑止作戦は1966年から一貫してロケット軍が担ってきたわけであるが、弾道ミサイルを搭載可能な原子力潜水艦の配備により、海軍も核抑止作戦を担うことが可能となっているからである。

いずれにしても、このように中国は、人民解放軍ロケット軍と人民解放軍海軍に核能力を備えた運搬システムを維持しており、所謂「核の三本柱(トライアド)」である陸・海・空に分散された核運搬システムの確立に近づいてきている。近い将来、中国は人民解放軍空軍にも核戦力を導入し、核における戦略レベルや理論レベルでのさまざまな能力を含め、核運用能力を抜本的に変化させることになるかもしれない。

(3)中国との軍備管理

米国は、これまでソ連(現ロシア)と二国間で軍備管理に取り組んできたが、中国の軍事規模が拡大しているため、この関係に中国を組み込む方法を検討する必要がある。ただし、近い将来にそれが実現する可能性は低い。現状では核戦力の保有数が、米ロと中国の間では大きく隔たっているからである。また、中国は自国の攻撃を無効化させる米国のミサイル防衛に強い懸念をもっており、現状の自国に不利な状況下で、軍備管理交渉に参加する可能性は低いだろう。今や非公式でも公式でも、中国を管理するのは10年前に比べてはるかに困難になっている。今後、軍備管理においては、中国がどのような意欲を持つかによって大きく変化するだろう。

(文責在事務局)