第318回国際政経懇話会メモ
「令和時代の皇室と外交」
令和元年11月26日(木)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
第318回国際政経懇話会は、君塚直隆関東学院大学教授を講師に迎え、「令和時代の皇室と外交」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
1.日 時:令和元年11月26日(火)正午より午後1時45分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:令和時代の皇室と外交
4.講 師:君塚 直隆 関東学院大学教授
5.出席者:13名
6.講話概要
(1)欧州王室からの示唆
日本では「日本の皇室は2千年の歴史を持ち、世界の他の王室は参考にならない」という象徴天皇制の特殊性を主張する議論があるが、私はそうは思わない。2016年8月8日の明仁天皇による「おことば」を見ても明白である。「おことば」には2013年に退位したオランダのベアトリクス女王が用いた表現と類似した表現が散見される。明仁天皇はオランダのベアトリクス女王やベルギーのアルベール2世といった60年来の欧州の友人達の退位を参考に「おことば」や退位のあり方を練ったと考えられる。欧州の立憲君主制は日本の象徴天皇制の在り方や今後の在り方に非常に大きな示唆を与えてくれているのではないか。
(2)平成時代の天皇皇后による活動
初めての象徴天皇として、明仁天皇は平成の30年間で昭和天皇と異なるあり方を示してこられた。その特徴は大きく2つの柱が挙げられる。一つ目は平成に相次いだ自然災害の被災地訪問である。膝を屈せられて被災者の方と同じ目線で一人一人に話しかけるというスタイルは昭和時代とは異なるもので、現地の被災者に大きな感動を与えた。このスタイルは皇太子時代に始まり、特に美智子皇后の影響を受けた「美智子流」の側面もあった。2本目は太平洋戦争慰霊の旅である。
(3)令和時代の天皇皇后の特徴
令和の天皇皇后夫妻は、歴史上初めてお二人ともが長期海外留学の経験を有する語学力や海外経験に精髄した天皇皇后である。しかしながら、平成の天皇皇后により求められる公務のハードルが上がってしまったという側面があり、そこにさらに上積みするのは不可能であろう。そのため、平成の天皇皇后の活動における2本の柱のうち、太平洋戦争慰霊の旅は一段落したものと見なし(戦争を忘れろという意味ではない)、新たな活動のあり方を模索していくべきではないか。
(4)新しい天皇皇后に期待できること
国際派の天皇皇后両夫妻はそれぞれ国際的な課題に皇太子・皇太子妃時代からご関心があった。例えば天皇陛下は皇太子時代からご外遊を契機に東南アジア等における水不足の問題に関心を持たれ、国連総会ではオランダのウィレム=アレクサンダー国王と共に水に関する委員会を立ち上げ、国連総会での演説経験を持つ初めての天皇となった。今後もグローバルな問題へのコミットが期待できるのではないか。また、皇后陛下は「子どもの貧困・虐待」にご関心をお持ちのため、スウェーデンのシルビア王妃やヨルダンのラーニア王妃を先達として、既存の財団の名誉総裁になるなどの方法でパトロンとなり、国民の関心を集める形でコミットできるのではないか。日本の皇族は欧州諸国、特に英国の王族と比較し、国際的課題を扱う団体へのコミットがきわめて弱い。これらの課題に取り組む世界の王族ネットワークにコミットできるような道を開拓していくべきだ。元々国際派で関心も強い天皇皇后両陛下ならばすぐにでも可能だろう。
(5)より国民に近い皇室へ
令和の両陛下も平成の両陛下と同様、国民に近づきたいと考えておられる。そこで3つ提言したい。1つ目は園遊会の工夫である。日本は1回2500人、年5000人を園遊会に招待するが、英国では1回8000人以上、年間3万人以上も招待している。日本では招待者が政財官や叙勲者、オリンピックのメダリスト等のエリートが中心だが、英国における招待者の大半は全国的な知名度はないが各地域コミュニティでのボランティア活動で功労があり、それぞれの市町村長が推薦する市井の人々である。日本も同様の形式をとれば60000人くらいは招待できるのではないか。2つ目は叙勲の工夫である。日本の叙勲者数は年間8000人だが、親授の数は40人である。一方英国の叙勲者数は年間2400人と日本より少ないが、全員が親授である。さらに英国では、チャールズ皇太子、アン王女、ウィリアム王子の3人で分担して年間30回、1回当たり80人以上に、一人一人にねぎらいの言葉をかけつつ親授している。3つ目は全国民向けのメッセージを打ち出すことである。英国では女王が毎年クリスマス・メッセージを出し、女王自身の言葉でその一年が語られる。
(文責、在事務局)