(1)ロシアの政治・経済状況

ロシア経済は、2008年の世界金融危機で、主要輸出品であった原油価格が暴落し、以降今日まで低迷が続いている。それには、クリミア併合による欧米からの制裁による影響も大きい。欧米からは、主に北極圏やシェール層などにおける石油探鉱・生産に必要な技術の輸出禁止、ロシアの国営企業に対する長期の新規与信の禁止、特定の対象となる個人・法人への渡航禁止および資産凍結、の3つの分野で制裁が行われている。こうしたなか、ロシア政府は中国に倣って地方の道路網整備などインフラ投資、またそれによる個人消費の拡大によって成長を実現しようとしているところである。具体的には、ロシア政府は2019年2月に、人的資本、快適な生活環境、経済成長、の大きく3つの分野に分けられた13本の国家プロジェクトを打ち出した。ただし、近年ロシアでは個人ローンが急増しており、ローンを借り入れている家庭の3分の1で返済額が月収の6割を超すなど、社会問題になっている。こうした状況から鑑みると、どこまでこうした国家プロジェクトが効力を発揮できるのかどうかはまだわからない。

(2)政権に対する世論と抗議デモ

本年夏のモスクワ市議選において、選挙管理委員会が、候補者の出馬を支持する署名に問題があったとして60人近くの野党候補者の出馬が認めなかったことを受けて、7月中旬から市民による講義運動が続き、これまでに2,200人以上が拘束された。8月31日には「政治的抑圧」に反対する数千人以上が参加するデモ行進も行われた。ロシアでは、政権への支持離れがみられるようになっており、9月の統一地方選挙では与党が苦戦を強いられ、モスクワの市議選では、反政権票を恐れた与党候補が軒並み所属政党を隠しても所属で出馬し、結局的に与党候補が1人もいない異常事態になった。ロシアでは、ここ数年、将来を見通せないとして社会に閉塞感が広がり、20代から30代の若い世代の間で「変化」を求める声が強まり、「自由で公正な選挙」を求めた抗議が広がっている。

こうしたなか、プーチン大統領の任期にも注目が集まっている。ロシアの現行の憲法では大統領の任期は連続で2期までしか認められておらず、現職のプーチン大統領(66歳)は2024年に任期満了となる。今後については、次の3つのシナリオがあるのではないかといわれている。一つ目は、ベラルーシと新たな連邦国家をつくり、大統領退任後もプーチンが権力を維持できるポストを新設するというものである。二つ目は、任期制限を撤廃して憲法を書き換えるというものである。三つめは、鄧小平やカザフスタンのナザルバエフのような最高指導者となり「院政」政治を行うというものである。

(3)今後の日ロ関係

最後に、今後の日ロ関係はどうなるのか。安倍総理大臣とプーチン大統領は、2018年11月の会談で平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を引き渡すとした「日ソ共同宣言」を基礎に交渉を加速させることで一致している。ラブロフ外相は、18年12月7日の記者会見で「平和条約を締結するということは、第2次世界大戦の結果を認めるということだ。これこそが不可欠な第一歩であり、これがなければ何も論議できない」と述べ、北方領土は、第2次世界大戦の結果、ロシアの領土となったことを日本が認めない以上、交渉は進められないという考えを強調している。9月5日にロシア極東ウラジオストクで行われた安倍首相とプーチン大統領の通算27回目の首脳会談では、北方領土問題で具体的な進展は見えなかった。米ロが対立する中、ロシアには「米国の同盟国である日本は、独立した対外政策ができない」という先入観が根強くある。また、支持率が低下しているプーチン大統領が、領土の引き渡しで日本に妥協するのはますます難しくなっている。日ロ両方は平和条約問題の交渉継続を確認しているが、突破口は見られないのが現状である。

2016年12月16日、安倍首相とプーチン大統領の首脳会談を踏まえ、医療・都市環境・エネルギーなど8項目の経済・民生協力プランに基づき、民間で80件の合意文書に交わした。政府間で12件、民間レベルでは当初想定のほぼ倍の68件の広範な経済協力で合意した。日本側の投融資は3000億円規模にのぼる、過去最大規模の対ロシア経済協力となる。政治主導で日本企業のロシア進出が加速する見通しである。19年9月6日、安倍首相は「東方経済フォーラム」で日本企業関係者と懇談し、ロシアとの8項目の協力プランについて「皆さまの積極的な取り組みで具体化が着室に進んでいる」と歓迎しており、こうした関係の継続は可能であろう。また、北極のLNGプロジェクトにおいて、日本の投資家、企業の進出などがみられるようになっており、今後この分野の関係も進展していく可能性がある。

(文責在事務局)