(1)消費税増税と政治の対応

竹下総理が歴代総理の中で高い評価を受ける理由は消費税導入という業績にあるが、最近多くの政治家は消費税をババ扱いし、「消費税増税を語れば選挙で落ちる」と口を閉ざす風潮にある。消費税3%から5%に引き上げる法案の作成・成立時の政権は社会党政権で、8%、10%への増税時の法案の作成・成立時の政権は民主党政権であった。このことは自民党政治家の消費増税への消極的対応を物語っている。安倍政権は「消費増税を延期する」ことを名目に解散総選挙を行い、本来それを非難すべき野党が延期に同調したため、選挙の争点とならなかった。これにより「社会保障を持続可能なものにするためには消費増税はやむを得ない」という世論の意思表示の場が排除されてしまった。これらの状況は、与野党ともに社会保障と消費税という「受益と負担」の問題に政治家が正直に向き合ってこなかったことを示している。

(2)分かりにくい消費税増収分の使い道

消費税が高齢化を支える財源といわれるゆえんは、消費税収が全額社会保障費用に使われるということと、現在赤字国債でファイナンスされている社会保障費を縮小させることで財政赤字の縮小につながる、という2つの意味合いがあることにある。しかしこの区分が曖昧のため国民に分かりにくく、「消費増税しても赤字が補填されるばかりで社会保障の充実につながらない」との批判を生む。こうした状況を踏まえ、安倍総理は2018年10月に消費税の10%引き上げの発表の際、増収分の5兆円強を①教育負担の軽減・子育て層支援・介護人材の確保など、②後世代への負担の先送り軽減、に半分ずつ充当する、と説明した。

(3)消費税導入の意義

消費税導入は、高齢化社会の安定財源の確保に加え、税負担を平準化することで勤労世代への税の集中を防ぎ、勤労意欲を損なわせないという効果もある。その一方で、消費税の経済的なメリットも強調されるべきだと考える。すなわち、①課税ベースは消費で貯蓄には課税されないため、貯蓄や投資促進効果を持つので経済成長につながる、②消費税は仕向け地で課税する方式をとり、輸出時には消費税が還付されるため、我が国経済の国際競争を損なわない、という利点がある。

(4)消費税をめぐる論点

消費者の負担した消費税が納税されずに事業者の手元に残る、あるいは免税事業者からの仕入れも税額控除できることで生じる「益税」の問題は、2023年10月にインボイス(適格請求書)が導入されることで適正化される。登録番号が付されたインボイスは課税事業者に対し発行され、これがないと消費税の仕入れ控除はできない。他方で、免税事業者はインボイス発給ができないため取引が敬遠されるという点で不満があるが、課税選択をすれば控除ができ、また新制度により手間は軽減される。
消費税10%引き上げと同時に導入された軽減税率(酒類・外食を除く飲料食品と新聞購読料の税率は8%)には多くの問題がある。第一に、消費税には高所得者ほど負担が低くなるという逆進性があるが、高所得者のほうが低所得者より飲食料支出が多いため、軽減税率導入は逆進性を強めることになる。第二に、消費者・事業者・税務当局に多大な執行コストをかけ、その追加コストは結局国民負担の増加となる。第三に、軽減税率を導入すると毎年消費税収が1兆円超減る。唯一のメリットは軽減税率導入によりインボイス導入がセットで決まったことである。

(5)消費税の今後

今後の我が国の経済社会情勢を考えると、財政赤字リスク軽減と社会保障費の増加などにより、消費税引き上げは不可避となる。その際には、増収分を財政再建と社会保障充実にどう振り分けるのか、国民的議論が必要となる。また、消費増税による経済への影響を軽減すべく、価格決定に対する小売事業者の自由度拡大と、税率引き上げ幅を小刻みにすることが必要である。

(文責、在事務局)