(1)トランプ政権下の思想的潮流

トランプ政権下で存在感を見せる白人至上主義だが、2017年の白人至上主義者と反対派が衝突したシャーロッツビル衝突事件以来、白人至上主義団体、極左団体「アンティファ」および警察との間で緊張が高まっている。米国国内では白人至上主義団体の集会に参加したことが明らかになると、解雇や退学といった制裁に遭う風潮がある。その一方で、白人至上主義者の反移民・難民主義にのみ還元できない世界観として「ペイリオコン(原保守主義)」がある。ペイリオコンは「黄金の50年代」と称される第二次大戦後の社会への懐古主義を唱える保守主義の一環である。「黄金の50年代」とは、戦後の繁栄を謳歌し、白人・男性・キリスト教中心の社会秩序が存在した公民権運動やベトナム戦争の挫折を知る前の時代、すなわち米国に(西側)世界が敬意を払っていた時代を指す。ペイリオコンは、「黄金の50年代」が失われた要因をグローバリズムに求め、移民の流入や自由貿易に反発する。また対外関与よりも国内に目を向けるべきだとし、国際組織や多国間枠組みは他国からの米国へのフリーライドの温床とみなす。保守本流の共和党主流派と異なる点は、グローバル化や国際関与を疑問視し、従来の共和党の立場に比べると、反移民、反多文化主義(共和党は自制している)、経済ナショナリズム、不干渉主義の傾向がより強い。

白人至上主義者の中の反移民・難民グループ思想とトランプ政権の反移民・難民政策は驚くほど親和性が高い。トランプ政権の支持層といわれる白人労働者と白人至上主義者の思想はイコールではないが重複する部分があり、その中でも特に先鋭的な思想の持ち主がトランプ政権に関与している。またトランプの躍進で、2015年から露出するようになったオルトライト(新極右)は従来の白人至上主義と大きくは変わらないが、ネットを通じて特に若者同士で発達したところに特徴がある。政権内では、元首席戦略官のスティーブン・バノン氏はグローバリズム批判、反中姿勢からペイリオコンという点においてオルトライトとの接点が見いだせる。また、大統領補佐官のスティーブン・ミラー氏は現在、移民政策をけん引しているが、その政策が白人至上主義者の反移民・難民グループと親和性が高いことから、白人至上主義者との接点が指摘される。

さらに、オルトライトの泡沫政党、あるいはペイリオコンをさらに急進化し政治色をつけた政党にアメリカ自由党(AFP)がある。現実的な影響力はないものの、欧州でナショナリスト勢力が台頭する中、米国のカウンターパート的存在として注目を集めている。トランプ大統領の掲げる「アメリカ第一主義」は、ペイリオコンによる「黄金の50年代」への回帰と類似し、移民に浸食される西洋文明の守り手というメンタリティからくるものである。こうした世界観を見ないと、なぜトランプ大統領がアメリカ第一主義を掲げるのか、アメリカ第一主義の根底にある世界観、すなわち北朝鮮やイランに強硬姿勢をとるも戦争での対外関与への資源投入には消極的で、NATOや日米・米韓同盟は不要論を唱える、といった姿勢をなかなか理解できない。

(2)2020年大統領選挙の展望

トランプ大統領の支持率は高くはなく、支持者と不支持者の間の格差はあるが、歴代大統領と比べて顕著に低いというわけではない。経済動向で期待感があり、現状であれば再選してもおかしくはない。民主党候補の支持率を見ると、前副大統領のバイデン候補が終始リードしているが、ウォーレン候補も台頭してきており、特に途中でサンダース候補が退いてウォーレン候補に票が流れた場合が注目される。バイデン候補は新鮮味に欠け、ウォーレン候補は勢いが見えるため、バイデン候補が決定的だとは言い難い。リバタリアニズム勢力は、共和党員だが反トランプ有権者の受け皿となっている。ミシガン州選出のジャスティン・アマシュがリバタリアン党の大統領候補となって立候補する可能性があり、ミシガン州やウィスコンシン州での動向が注目される。また、近年の選挙では、「アウトサイダー」が勝利する傾向にある。「アウトサイダー」とは、二大政党の対立が先鋭化し、政治が動かなくなったときに台頭する変革者を指す。トランプ大統領がこれに当たり、2020年の大統領選挙は、インサイダーのバイデン候補と、アウトサイダーのトランプ大統領が対立するという図式である。バイデン候補がどこまでトランプ大統領のエスタブリッシュメント批判の攻撃に反発できるのか、不安がある。さらに、まだ一期目のトランプ政権は「自分たちの構想を民主党/フェイクニュースがつぶそうとしている」というエクスキューズを用いることができる。とはいえ、現段階でトランプ大統領当選の見込みは、過大に評価できない。それでは民主党が仮に政権を掌握した場合、どうなるのか。基本的には国際的枠組みを米国の足かせではなく強みとみなす考えの持ち主が多いため、パリ協定やイランとの核合意には復帰する可能性もある。ただし、対中政策は国内世論や人権問題への懸念から、以前のようには戻らないことが予想される。しかしながら、中国を脅威とみなしながらも「スマートに」やるべきとみなされている。『ワシントンポスト』では、「中国国内の国際派の立場を損ねたり、ナショナリズムに追い込むことは好ましくない。また中国に対して圧力をかけるなら同盟を重視すべき」との論説がみられる。

(文責、在事務局)