(1)アジアの成長を阻害する諸要因

日本からはじまったアジアの経済成長は、過去半世紀以上の間、続いてきた。しかし、この成長が今後も続いていくかどうかは、主に次のような要因があることから保証されていない。

一つには、アジア経済はこの70年の間で好調を維持しているが、当初に比べるとそのペースに陰りがみえており、発展の規模も低下しているということである。二つには、国際社会で評価されているアジアの「中間層」の拡大が、いささか誇張されすぎていたということである。現在アジアで実際に「中間層」と呼べる人々は、域内全体の15%程度にとどまっている。このことはつまり、貧困を削減しても、それが「中間層」の拡大につながっていないということである。三つには、アジアでは巨大な市場経済が育成されずに、域内の労働人口の多さによって経済成長が支えられきた側面が強く、未だ脆弱性が高いということである。特に中国は、国内に社会問題をかかえていることから、その傾向が高い。四つには、トランプ政権の登場によって、米国からアジアの同盟国に対して、同盟維持コストへの支出を拡大することなど、経済的要求が高まっていることである。

(2)今後のアジアの繁栄

今後のアジアにおいては、米国は第二次大戦以降の同盟国を支援しているものの、中国がアジアのなかでリーダーとして台頭することを抑えられていない。中国は一人当たりのGDPも、人権も、民主主義もアジアの国のなかで後塵を拝している国である。しかしその巨大な市場からくる国力によって、中国は南シナ海やASEAN諸国に自国の影響力を拡大している。中国の習近平国家主席は、ある演説のなかで「アジアの安全はアジアの人民が守らなければならない」と述べているが、つまるところ「アジアのことは中国が管理する」ということであろう。

一部専門家の間では、今後米中の間で、貿易、情報、サイバー、テクノロジーにおける戦争や外交的な競争が行われ、「新冷戦」が展開されることになるのではないかと予想されている。こうしたなかで、日本とオーストラリアのような位置的に米中に挟まれる国家は、インドや南アジアなどとの関係を発展させることが重要になってくるだろう。いずれにしてもアジアの発展には、米国は中国との関係を良好なものにし、中国は平和的に台頭し、特に香港と台湾への強硬姿勢を改めることなどが重要である。

他にアジアでは、今後の繁栄に向けて、再び金融・経済危機を起こさないための対策、災害および気候変動への対応、テロリズム対策なども必要であろう。

(文責在事務局)