(1)中日両国間における相互認識の課題

WTOは、1995年の設立以来、多くの成功をおさめてきた国際機関である。WTOの設立によって国家間の貿易ルールが定められ、国際社会に、開かれた市場、経済統合をもたらした。そしてその結果として、各地で経済成長が進み、国際社会を平和と安定に導いていったのである。実に、現在の世界貿易額は、1950年代よりも35倍に増大している。ではなぜ、現在国際社会において、WTO改革が声高く要請されるようになっているのか。

一つには、前述のWTOのもとでの市場の安定によって、これまで発展途上国であった国家が急速に経済成長し、国際市場においてパワーシフトが起こったことによる。GATTの時代は、米国経済が単独で強固であり、主導権を握っていた。しかし、現在はEUと日本だけでなく、中国、ブラジル、インドなども台頭している。こうした状況のなかで、新たに台頭してきた国家から、これまでのルールの変更が求められるようになっているのである。

二つには、グローバル化によって得られる利益が、社会全体にいきわたらず、特にかつての「西側」諸国内において、一部の層には利益をもたらしたが、一部の層にはかえって不利益を及ぼし、それぞれの国内で経済格差を広げてしまったことによる。こうした不利益を受けた層の声が強くなり、英国でのブレグジット、米国でのトランプ大統領を誕生させ、そしてこれらの国々を中心に、これまでのWTOルールの修正が迫られているのである。

(2)WTOの未来

このように、WTOは国際社会に繁栄をもたらしたが、その反動で利益を享受できていない層の反発も強く、WTOへの挑戦となっている。しかしながら、現実的には、WTOの代替となるものはないのが実情ではないか。米国のトランプ大統領は、WTOの紛争処理制度に不満をもっているが、実際に同制度を最大に活用してきたのが米国である。また現在も多くの国家がWTOのもとで紛争処理を行っている。つまり、現時点ではWTOに代わる有効な存在はないのであって、その機能の強化を進めることに注力しなければならないということである。今日では、Eコマースなど新しい分野でWTOが広く関与している。

仮にWTOの改革が進まなければ、世界はより分散化することになるかもしれない。例えば、米国、EU、中国の3つの分極ができことになるであろう。そしてNAFTAの再交渉のように、それぞれの分極のなかで、新しい経済秩序が構築されることになる。これはWTOのもとで進んできた統合やグローバル化に逆行するものであり、世界をより不安定で不確かなものにしてしまうのではないか。

(文責在事務局)