(1)最新版「World Economic Outlook」から読む世界経済の行方

本年1月21日に公表された、IMFの「世界経済見通し」(World Economic Outlook:WEO)では、タイトルが”A Weakening Global Expansion”(成長の力強さを失う世界経済)となっており、IMFが「世界経済が減速していると認めた」ことが特筆すべき点である。また、今回の WEO では、中国経済の成長率が 2年連続で 6.2%となっていること、日本経済が「消費税対策導入」により上方修正された点も注目すべきであろう。他方、米国経済については、 2.9%(18年)→2.5%(19年)→1.8%(20年)という減速が気になるところである。

(2)米中通商摩擦の行方

冷戦時代は、ソ連に対して日本に対抗手段がなかったため、米国に守られるだけ、即ち対米従属の状態が続いた。というのも、冷戦時代から対米自立を訴えていたのは主にリベラル派であったがリアリティのある具体案がなく、日本の安全保障の方針に変化をもたらさなかったからだ。平成に入り冷戦終結とともに力を持ったのが、右派による対米自立論によるものだが、右派の言うそれはリベラルが主張するアメリカから距離を取る対米自立ではなく、日本自体が力をつけ米国と濃密な関係を築き上げることで米国と対等になるという意味での対米自立であった。この意味での対米自立を形にしたのが安倍晋三内閣である。2015年秋の集団的自衛権の行使を容認する閣議決定がその中核的な成果であり、日米双方にとって画期的な見直しであった。これによって、日米同盟における日本のあり方に不満を持っていた米国は、陰に陽に日本の変化を促す働きかけをぱったりとやめた。米国上下両院合同会議で演説を行った安倍総理大臣は米国の満足を肌で実感し、私に「日本は安全保障のために改憲を行う必要性がなくなった」とまで言い切った。

(3)日本の景気拡大の行方

日本の景気拡大が「いざなみ景気」(2002年2月から2008年2月まで)を超えて戦後最長になったものの、厚生労働省の不正統計問題がクローズアップされていることもあり、この記録の信憑性も問われているようだ。小泉政権時代(当時)の「いざなみ景気」は、名目経済成長率がほとんど増えず実質経済成長率が伸びるデフレ・輸出主導型の好景気だった。雇用も増えず、回復の実感に乏しいため、質の良い好景気とはいえなかった。今回については、実質1%、名目1.7%程度の成長が安倍政権発足以来続いており、その点において、「いざなみ景気」より質が良いといえるのではないか。ただし、今後、この景気拡大がいつまで続くかについては予測が難しい。景気を左右する金利の動きが失われているほか、在庫のサイクルも不透明など、景気の山谷が分かりづらくなっているからだ。

(4)消費増税と今後の課題

今年は、参議院議員通常選挙やアフリカ開発会議、G20、ラグビー・ワールドカップなど、日本全国で注目のイベントが控えている。とりわけ、注目すべきは10月に控えた消費税増税(8%→10%)であろう。最近、「増税の先送りはあるのか」と問われることが多いが、私は「先送りはない」と考えている。今国会で審議中の来年度予算案は消費税増税を見込んだ内容で審議が進められており、中止されることはない。むしろ懸念すべきは、消費税増税対策に伴う景気刺激策が行き過ぎているのではないか。軽減税率や自動車・住宅税制措置、プレミアム付き商品券に加えて、キャッシュレス決済利用者への還元策などが盛り込まれているが、いずれも制度作りが深まっているとはいえず、もっと国全体で議論すべきであろう。

(5)日本の就業者数増加が意味すること

就業者数が2010年代前半から上昇し続け2018年末には6,668万人に達し史上最高数を記録・更新した。人口が毎年40万人ずつ減少しているのにもかかわらず、就業者数が増え続けるのは特筆すべきことだ。ただし、実は就業者が増えている一方で、消費は伸びていない。就業者数が増加した要因は何かといえば、これは主に、女性、外国人に加えて、65歳以上の高齢者が社会に進出したことによるものである。こうした人々については、現状の労働環境では収入を消費にそのまま回すことが難しく、今後いかにして、賃上げを実現し、消費につなげる仕組みができるかが、重要になってくる。

(文責、在事務局)