(1)グローバル政治都市としてのワシントン

ワシントンは、次の5つの理由から、国際社会において非常に重要な都市である。それらは、(イ)国際社会を先導している米国の政府が存在していること、(ロ)世界銀行、国際通貨基金、米州開発銀行、米州機構など主要機関が本部を置き、多国間の政策活動では世界で最も重要な都市のひとつとなっていること、(ハ)世界自然保護基金、国際赤十字など活発な非政府コミュニティが存在していること、(ニ)世界的に影響力をもつシンクタンクなど情報複合体をもつ都市であること、(ホ)政策課題を設定するアジェンダセッティングにとって抜きんでた場所であること、である。ワシントンはこのような多様かつ変化が激しい場所であるにもかかわらず、一般的なワシントンに関する議論や分析のほとんどが、一部のグループや人物に焦点を当てたものが多い。これではワシントンの状況を十分に把握することは難しいだろう。

ワシントンでは、南北戦争直後に設立されたアメリカ赤十字や第一次世界大戦中に設立されたブルッキングス研究所などの例を除くと、1960年代にシンクタンク、次に60年代から70年代にかけて国際機関、さらに70年代から80年代にかけてNGOの設置が拡大していった。80年代には、レーガン政権の国防予算の増大のもとで、軍事産業など安全保障関連分野に携わる機関なども拡大した。こうした動きにともない、70年代から外国籍人口は右肩上がりに増大し続けている。以上のような背景から、ワシントンはニューヨーク、ロンドン、東京などのグローバル経済の中心には位置しないが、グローバルな政治力を持つ最先端の都市ということができるだろう。
ワシントンは、これまで述べてき歴史が示すように、絶えず変化を続けている。ま個人的な印象ではあるが、トランプ政権になってからずいぶんと変化しているように感じられる。

(2)ワシントンの中のアジア

このように、ワシントンには多くの情報が集約され、さらに主要な機関が集中していることから、ワシントンで如何に行動するかが重要である。アジア諸国に目を向ければ、80年代には台湾が活発なロビー活動を展開し、親台湾の雰囲気が醸成されるなどの成功を収めていた。しかし、90年代後半から中国が資金を投入して活発な活動を行い、2007年からはじまる金融危機以降は特に顕著に行われている。一例をあげると、中国国営テレビ局であるCCTVは、現在100以上のジャーナリストをワシントンに常駐させ、情報収集などの様々な活動に当たらせている。ワシントンにおけるNHKのジャーナリストなどはこの5分の1程度であることから考えると、その大きさがわかるであろう。今後こうした中国による攻勢のもと、ワシントンにおける中国の影響力の拡大もありえる。日本はこれまで、どちらかというと外交官などによる古典的なロビー活動ばかりで、非公式なエリート間によるネットワークの構築やいわゆる広報文化外交は活発に行われていなかった。しかし、安倍首相の安定的な政権になってからは、こうした非公式な活動も活発になっているように見受けられる。例えば、経団連が2015年のワシントンに事務所を設置したことなどは、重要なことであった。今後、ワシントンで中国が攻勢を強めるなか、日本も更なる非公式な活動などを進める必要があるだろう。

(文責在事務局)