先端技術覇権を巡る米中闘争
2018年12月31日
坂本 正弘
I.急激に増幅する米中通商闘争
1.仕掛けるアメリカ
2018年を振り返ると急激に悪化する米中関係に圧倒された感がある。年末の米中首脳会談は小康の機会と期待されたが、中国の5G(第5世代移動通信システム)を主導するファーウェイ副会長逮捕を巡るいきさつは、技術覇権を巡る米中闘争が一段と激化しているとのイメージを強めた。2019年の米中関係は、更なる緊張すら予想される状況である。
トランプ政権の、対外政策の関心事は、2018年には、対北朝鮮から、対中関係に急速に移行した。2017年末に公表された国家安全保障戦略、国防戦略において、すでに、中国が、米国の今後の最大のライバルだとの指摘があったが、対中301条調査は17年夏から始まっていた。米中通商戦争の具体的な展開は3月初めの鉄・アルミへの関税賦課から始まったが、3月22日の301条調査報告は、中国の知的財産権侵害を強く攻撃した(本誌2018年10月号拙稿参照)。米国は、6月から中国輸入500億ドルへ25%の関税賦課を行うとともに、WTOに中国を知的財産権侵害で提訴したが、米国は米企業、中国企業の行動への制約を強め、中国への先端技術情報の流出を規制した。2018年8月成立した2019年度国防授権法は、安全保障の見地から、対外外資委員会(CFIUS)の権限を強化し、中国資本による米企業の買収を制約するとともに、輸出規制法を改革し、米国資本の中国投資を規制した。更に、国防授権法は、中国企業のファーウェイとZTEの製品を、米政府機関の調達から除外するとした。トランプ大統領は、9月、更に、中国輸入品2千億ドルに10%の関税賦課を行うとともに、2019年1月以降、これを25%に引き上げるとした。
ペンス副大統領の、ハドソン研究所での10月4日の演説は、米中新冷戦の宣言とも評される。改めて、中国の米国からの先端技術盗取を攻撃するとともに、中国は、西太平洋での米国の安全保障に挑戦しているとした。新疆、チベットでの人権侵害を指摘し、一帯一路構想は、関係途上国の借金漬け構想だと喝破し、共産党独裁政権との全面対抗を明確にした。ペンス演説は、トランプ大統領の取引重点の対応と異なり、価値観の対立を前面に出した伝統的米外交の姿勢だという点では、米議会、知識人、一般国民の見解を示したといってよい。
2.戸惑う習政権
これに対する中国の対応だが、2017年10月の第19回党大会で核心の地位を得た習近平総書記は、2018年3月の全人代で、国家主席の任期制約を消去し、更なる権力の集中を成し遂げた。中国の特色を持つ社会主義の実現を唱え、一帯一路の推進による中華民族復興の夢を唱道するが、技術覇権への象徴である「中国製造2025」の推進を強く訴えた。かかる情況で、特に、トランプ大統領との良好な関係を自負・喧伝していた習氏にとって、大統領が仕掛ける強硬な貿易戦争は意外だったと思われる。米国の関税賦課に対抗し、中国も米国製品への関税賦課を行ったが、大幅な株の下落、元安の中、米国との妥協の道を探っていたと思われ、G20時の米中首脳会談には期待を持っていたと考えられる(『米中通商戦争と覇権』参照)。
3.待たれた米中首脳会談
その2018年12月1日の首脳会談の結果だが、米大統領府の公表によると、①米国は、中国輸入品2000億ドルへの2019年1月の関税25%引き上げを中止する。②中国は米国からの農産品、燃料、工業品の輸入を増やすが、特に、農産品は直ちに輸入拡大を行う。③強要技術移転、知的財産保護、非関税障壁、サイバー侵入・盗取、サービスなど構造問題の交渉を直ちに行う。④今後90日以内に、交渉の合意がなければ、上記関税は25%に引き上げられる。⑤北朝鮮問題では、米中は協力する。⑥クアルコムのNXP買収を中国は認める。⑦中国は、麻薬のフェンタニールの米国への輸出を止めるなどの内容であった。米国が中国への大豆・豚肉の輸出など利をとり、中国は2000億ドル相当の製品について関税の25%への引き上げを延期ということで、妥協した。米国に利益多しともいえるが、米中関係の小康を得たとの評価でもある。但し、対中強硬派のライトハイザー通商代表が交渉代表者となり、構造協議の期限が90日と短いことなどは、2019年も楽観できないことが示されていた。
4.ファーウェイ問題の衝撃
このような状況での、12月初めの孟晩舟ファーウェイ副会長の逮捕は大きな衝撃であった。中国ではこの情報を踏まえて、首脳会談の合意を中国は履行すべきか否かが、議論された。上記、米中首脳会談での内容としては示されていないが、中国にとって先端情報技術の振興は、中国製造2025の10の重点分野のトップであり、米国も常に問題としていた分野である。ファーウェイは、2018年夏制裁を受けたZTE以上に、5Gを主導する中国の主要企業であり、米中の技術覇権争いの中核にある企業である。上記のように、米国政府は、安全保障上の理由で、両社をその調達から排除したが、その排除を同盟友好国にも要請している。豪州・NZ、英国、一部欧大陸諸国でも、安全保障上の理由から排除の動きがあるが、日本政府も、安全保障を重視する動きを強めている。
2018年の米中摩擦を振り返ると、仕掛けたのは米国で、しかも、二国間交渉である。二国間交渉は、大国に有利で、中国が好んだ方式だが、自由多角貿易の論理から禁句とされてきた。しかし、中国に多国主義は通用せず、二国主義も中国より強いアメリカにして可能であることから、その財産権侵害のWTOへの提訴には、日本・欧州も参加している。
しかし、今回のように、米国が個別企業を取り上げるのは異例であり、ファーウェイ、ZTEへの制裁は厳しいものがある。米国コラムニストのラナ・ターナーは、米国が安全保障の理由で企業行動を制約する状況の背後には、中国との経済戦争、更に、本物の戦争で敗北するのではないかとの不安があるとしたが、米国の強引ともいえる態度には、技術覇権への強いこだわりがあるといえよう。
5G(第5世代移動通信システム)革命は、2019,20年にかけて急激な展開が予測されるが、移動通信技術の更なる発展を通じて、経済・社会の変革をもたらすのみでなく、軍事・安全保障にも大きな影響を与えることが予想される。中国は、大きな資源をつぎ込んでいるが、人口大国の上、その政治体制から大きなdataを利用できる体制があり、経済便益のみならず、軍事上の競争において、米国が中国に凌駕されるかもしれないという危機感があるといえよう。ファーウェイ・ZTE両社に対する米国の厳しい態度の背後には、2019年に本格化する5Gの国際標準を巡る競争の激化がある。米中闘争が、2019年には、技術覇権を巡り、更に、激化する可能性もあると考える次第である。
II.台頭する中国と5Gを巡る米中闘争
1.米中経済安全保障調査検討委員会の憂慮
米議会の諮問機関である米中経済安全保障調査検討委員会(以下USCC)は、例年、中国の経済・安全保障の状況と、米国議会・行政府の対応を勧告する報告書を出すのが慣例だが、2018年11月の報告では、第4章を特設し、中国のハイテク技術の発展について述べるとともに、別途、中国のInternetofThings(IoT)という特集を出した。2020年から急展開する5G(第5世代移動通信システム)において、中国が、世界中に関連機器を売却し、米国を凌駕して、IoT情報革命で主導権を握り、国際標準を獲得し、その急速な発展が、米国の安全保障にも憂慮すべき影響を与える可能性ありとする。その対応の重要性を指摘するが、米国のこの分野での将来展望に関して楽観していない。
2.5G発展の衝撃
移動通信システムの発展は、第1世代のアナログ携帯電話に始まり、第2世代のデジタル方式となり、第3世代は、世界標準化に準拠した、データ通信が可能となり、4G(第4世代)は、高速、大容量化がすすみ、インターネットと接続された。5G(第5世代)では、IoTシステムとの接続を大幅に強化することにより、遠隔地からも瞬時の通信・対応を可能にする。図表1のように、5Gは4Gに比べ、100倍の大量データを瞬時に送付し(1万メガビット・超高速化)、100倍のIoT器具と連携し(平方キロ100万台の多数同時連結)、情報を処理し、瞬時・地球的リアルタイムの情報の利用(1ミリ秒の超低遅延)を可能にする(図表1)。
IoT(Internet of Thingsモノとの接続によるインターネット利用)では、モノに対し各種センサーを付けて、その状態をインターネットを介して、状況を把握し、モノを操作するが、モノとモノをインターネットで結びつけて、操作することもできる。この間に、データ処理のクラウドコンピューティングやAIが介在するが、大量のデータを高速で扱い、遠隔地からも、リアルタイムで反応するIoTシステムの発展には、5Gの展開が不可欠だという状況である。安全で快適な生活を実現する仕組みだが、図表2は、その便益の一部を示す。5G・IoTの発展により、遠隔地からでも、例えば自宅のエアコンを操作し、温度や湿度を管理したり、電力消費を調節する。企業も無人の配達や買い物客の動向の把握に利用する。また、自動運転、交通管理や、ロボット介護、遠隔医療が可能になり、国民生活や企業活動の便益に大きく資する。
軍事の分野でも、重要な発展をもたらす。とくに、無人システムがC4ISR(command,control, communication, computers, 情報、監視、偵察)の能力を高め、打撃能力、電子戦、多数の無人機・ロボットによる交戦能力を増強し、兵站管理にも貢献する。
5Gを発展させるには、多数の、高価値のIoT器具・設備を必要とする。GSMA(移動体通信地球システム連合)の予測によれば、世界全体のIoT器具・設備数は2017年の75億個が2025年には250億個になると予測するが、それを上回る予測もある。McKinsey社は2025年までに4兆~11兆ドルの便益をもたらすとしている。このような状況で、IoT発展の第一人者になれば、膨大な利益を得ることから、各国企業は激烈な競争を展開している。米国企業が、総体としては、なお優位だが、中国企業が猛烈な追い込みをしている。5Gでの主導が今後の展開のカギであり、中国は政府・企業一体となっての追い込みであるが、それは単なる経済便益ではなくすでに述べたように軍事上の優劣に大きく係る問題だからである。
3.世界通信技術での中国企業の台頭
図表3は主要通信技術での世界主要企業の市場支配状況である。第1に、注目すべきは、ファーウェイが2017年には、スウェーデンのエリクソン社を乗り越えて、10兆円規模の世界最大の通信技術製造会社となったことだが、その影響力を大きく高めていることである。第2に、5Gの展開に不可欠の基地局を含む移動体インフラ設備の売上でも、ファーウェイが、世界の28%とトップを占めるに至った。4位のZTEの13%と合すると世界の41%となり、この分野での中国企業の存在が急膨張した感がある。ファーウェイは、2016年、4Gのネットワークで世界の537の過半を占めるに至ったが、これは、5G展開で極めて有利であり、ドイツや英、カナダの会社と5G建設の予約をしているとする。逆に、米国企業は、基地局製造に入っておらず、今後5G基地局の展開で、中国勢以外の、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアに主に依存する以外ないことになる。なお、韓国サムソン、日本のNEC・富士通はシェアは小さいが生産している。
第3に、WLAN、イーサネットスイッチ、ルーターの分野では、米国のCiscoの優位が目立つが、ファーウェイはすべての分野で無視できない存在を示している。
第4に、スマートフォンの半導体では、米国のクアルコムのシェアが極めて大きいが、米政府が、2018年4月のシンガポール企業による買収を防いだ理由である。その他・アップルのシェアも大きいが、逆に、中国勢の姿がない。2018年4月、中国ZTEへの供給を、米側が差し止めたところ、部品の調達ができず、倒産寸前の状態だったことは記憶に新しい。ファーウェイは、生産の内製化に取り組んでいるようだが、中国勢の弱点ということになる。中国政府は、国内での半導体供給体制の整備に、全力を挙げることになろう。
4.中国政府の5G支持政策
中国政府はIoT産業・企業の育成に力を尽くしてきた。①資金の支持をする、②政府調達を集中する、③中国の標準を国内、国際的に促進する、④外国資本の中国国内市場への参入を阻止する、⑤ファーウェイ、ZTEなどの世界チャンピオンを育てる、⑥海外の知的財産を盗取するなどが方法だが、中国企業の基地局建設による世界的ネットワーク形成とともに、5Gでの国際標準の主導を目指している。
5Gの振興には、第1に、5Gを中国製造2025、インターネットプラスの中核とし、13次5ヵ年計画(2016―2020)での発展を計画している。第2に、中国移動、中国電信、中国連通の三社からの支持で、2014年国有企業の中国タワーを作り、株を発行し、基地局など5Gネットワークの建設に集中させた。第3に、以来、中国タワーは、35万の基地局を作ったが、中国政府は、2020-2030年に5Gネットワークに4450億ドルを支出する(米国も2024年までに2750億ドルを5Gのインフラに支出)。第4に、中国政府は、ファーウェイとZTEに国内ネットワークインフラの3分の2を割り当て、残りの3分の1を外資と中国企業が争うようにする。第5に、中国技術アカデミーは、2025年までに世界市場でのシェアを中国ブランドfiber通信ネットワーク設備で60%に高めるとしている。
5.5G国際標準を巡る米中の戦い―ITUの台頭
5Gの国際標準設立を巡る戦いは激しいが、標準設定の時期は切迫している。2017年末標準の一部がすでに採択され、2020年の大規模商業化を控え、2019年末の完成が期限とされる。国際標準は、各国の競争企業、学者、政府の技術専門家の合意により形成されるが、一旦、設定されると、技術のグローバルな相互運用とデーターの移転が保証される。技術のパテントは保障され、それを持つ企業は地球的市場を持ち、ライセンス収入を得て、更なる技術発展が可能になる。当然競争は激烈である。
国際標準に関係する主な国際機関は3つあるが、そこでの主導権争いも激しい。ISO(国際標準機関)は、企業コンセンサスを重視する非政府機関だが、2017年3430の主要な地位のうち、米国は540、中国は223を占めるが、米国が有利である。
3GPP(第3世代計画)は、民間部門の国際機関で5Gの技術的標準の作成上で重要だが、58の委員会のうち、クアルコムが、ファーウェイに勝って、最も重要なグループを握っている。但し、中国は11と米国の14に次ぐ委員会を主導し、拮抗している。
ITU(国際電気通信連合)は民間企業の意向も強いが、国連の機関で表決は国別となる。5Gには関心が薄かったが、中国解放軍出身の趙厚麟が、2015年事務局長に就任の後、5G世界標準設定への動きを、大きく強めた。加盟国169のうち、途上国が大半を占める中で、中国が、国連の威光を持ち上げ、その影響力を高めている。中国の政府、企業は活発に動き、会議には大代表団を送り、そこでの主導権を高める一方、中国で、5G関連の会議を多く行い、得意の接待外交により、各国の支持を強めている。2018年9月、中国は、5G設定の主要な39のグループのうち、8の議長をとり、ファーウェイと中国通信がその5つの議長を占める状況だが、米国はVerizon社が1つを占めるのみの状況である。
この3つの機関の中で、国連の機関であるITUの影響力が大きくなり、3GPPがその技術的補佐の役割を果たすようになった。3GPPは2017年末のリスボンの会議で、4Gと5Gシステムの併用による5Gへの移行過程を決めた(リリース15)が、2019年リリース16の決定に向かっている。2019年10-11月には、ITU主催の世界無線通信会議が行われ、5Gの国際標準が決定される予定となっている。しかし、5Gの方式で低周波とTD方式を主張する中国側と高周波とMD方式を主張する米国方式が分かれている。更に、上記のように、パテント数や既設基地局の状況は中国に有利だが、米国も巻き返しを図っているところから、国際標準が一つにならないとの観測もある。
III.アメリカの対応・焦り?
1.中国の巧みさ、したたかさ
すでに述べたが、USCCの報告書は、事態を楽観していない。4Gまでの、米企業の世界標準の成果に油断したところに、中国政府とファーウェイなどの中国企業の予想以上の挑戦にたじろいでいる面がある。もともと、中国には、IoTや5Gの発展に有利な条件がある。巨大な人口がもたらす情報と市場だが、コンピューター技術の発展があり、外資のもたらした製造技術が備わった。そこへ、中国政府が巨額の資金を集中し、市場を独占し、技術を盗取し、すでに述べたように、ファーウェイやZTE、中国通信、中国タワーなどのチャンピオンを育てた。これらの企業は、パテントを多くとり、5Gに必要な製品に進出し、カギとなる基地局の建設に邁進した。一帯一路構想は、デジタルシルクロードと異名をとるが、海底ケーブルを引き、多くの港に権益を獲得し、鉄道を引く状況で、アジア、欧州、中東、アフリカの諸国で、中国には多くの基地局を建設する有利な状況を作っている。その上に、ITUの権威と中国人脈を利用し、途上国を動員し、国際標準を目指す巧みな外交術は、2015年欧州・途上国を味方にして、米日連合を破ったAIIB設立時の巧妙さを思い起こさせる。
5G、IoTの発展により、膨大なデータの収集・加工により、人口知能や自動運転など、次世代のハイテク技術に、世界がネット化される中で、中国がこの分野を主導し、5Gの国際標準を握ることは、中国に巨大な先行者の利益をもたらすが、それは経済的利益に止まらず、軍事上の優位につながることとなる。中国は、すでに、無人機119機の航空制御を示したが、5Gでの優位はその能力をさらに高めることになる。しかも、中国製品に埋め込まれた、ソフトウェア、ハードの製品がいざというときの障害となる情況は、米国防総省の極めて憂慮するところである。中国は2020年までに、局地的情報化戦争で勝利するという国家目標を持つが、5G、IoTの成果は、そのA2・AD能力を高め、そのような目標達成を見込むことになるか?
2.米企業への不信
米国にとっての今一つの憂慮は米国企業の動向である。米国企業にとって、利益は国益の上にある。第1に、米国の情報産業にとっては、中国の大きな市場は強い魅力である。Googleが典型だが、中国当局と折り合いがつけば、いまでも、その企業秘密をとられる危険を冒してまでも、中国へ進出したい気持ちがある。第2に、中国は最大のIT生産国だが、その生産の過半は米国のIT企業であるIBM、Microsoft、Cisco、Intelなどの中国の生産工場から出荷される。強い中国政府の有形無形の圧力にどの位耐えられるかの不信を持つ。第3に、ITUや3GPPでの国際標準交渉でも、中国企業が国益を重視し、統合的行動をするのに対し、米企業は企業利益が優先し、ばらばらである。
USCCは議会に、①行政予算管理局、連邦予算情報安全保障審議会に対し、中国の供給網の危険に関する報告を出させる。②国家通信情報行政機関に、5Gの安全のために、中国製品の危険に対応する過程を報告させる、③国内の5Gネットワークの安全発展のための新しいい行政機関が必要かを検討させる。などについての勧告を出している。
3.米政府の中国個別企業への干渉
かかる状況で、米国政府は、米企業、中国企業の行動に、直接、強い規制をかけるようになった。すでに述べたように、2018年8月、2019年度国防授権法により、CIFUSの強化・FIRRMAの成立によって、中国企業の米企業買収制限を規定するほか、輸出規則改正法によって、米企業の中国進出を規制することとなったが、更に、米政府機関のファーウェイとZTEからの製品調達を禁止する決定を行った。
米国は、情報流出防止の観点から、特に軍事情報を共有する同盟国にもファーウェイ、ZTEからの調達に留意するよう働きかけている。米、英、加、豪、NZのファイブアイズ諸国は、情報の機密護持を共有するが、調達禁止に踏み切っている。日本でも、政府調達の上で、サイバーセキュリティの確保に留意するような方針が打ち出されたが、仏独などのNATO諸国にも動きは広まっている。
4.米中通商闘争の今後
ファーウェイ孟副会長の逮捕事件につき、中国はカナダ政府に重大な結果をもたらすと警告した。孟氏は、その後保釈になったが、2人のカナダ人の拘留が続いている。中国は、しかし、強い米国には、この件で抗議はしているが、ファーウェイ問題と米中首脳会談の合意とは切り離す方向で動いている。中国は米国自動車への関税を引き下げ、米国産大豆の買い付けを実行し、首脳会談での合意事項の交渉の日時も、米中間で話し合いが進んでいる。米国の攻めに対し、中国の凌ぎが続いている印象だが、その低姿勢ともいえる状況には、5G問題での、国際調達、国際標準での、中国に優位な状況への打撃を少なくしようとの戦術とも見える流れである。
米中通商闘争は、米国にも、その株式市場の乱高下に示されるように不安を与えているが、中国への打撃は、経済減速、株安・元安に示されるようにより大きいと考えられている。しかし、上記5Gの展開などを勘案すると、今後の展望はどうか。
今後のシナリオとして、第1に、株安、元安と折からの成長減速が、中国経済への打撃となり、中国製造業のサプライチェーン構造も打撃を受け、工場がアセアン諸国に移転し、中国経済停滞のシナリオの可能性は捨てられない。この時は、ライトハイザー通商代表が主導した、1980-90年代の日米交渉と同じく米国の勝利になる。しかし、第2のシナリオは、中国が経済停滞を凌ぎ、5Gの発展などにより、経済活性化を達成する時は、米中対立が、安全保障を含め、より広範に激化する可能性を持つ状況である(『米中通商戦争と覇権』参照)。2019年が、その幕開けとならないことを祈るが、その可能性は否定できない。
IV.日本
1.中国の日本接近
以前から、米中関係が緊張すると、日中関係は改善するが、逆も真なりとの考察があった。2017年の北風から、一変して、2018年の中国からの日本への南風は暖かく、強かった。5月には、李克強首相の訪日があり、10月には安倍総理が訪中して、一帯一路への協力を要請された。2019年には、習主席の初訪日も予想される状況である。
2.日本の5G対策
しかし、今回のファーウェイ事件は、日中関係にも、微妙な影響を与えそうである。日本政府は政府機関が使う情報通信機器の調達における指針を、2018年12月初めて策定したが、安全保障上の危険性を考慮に入れ、機密情報漏洩の見地から、安全性を重視する方針を定めた。また、総務省は5Gの電波割り当てに際して、大手携帯会社に、サイバーセキュリティへの対策に留意することを求めたが、5G基地局建設やネットワーク機器調達の指針となる。この分野で押されている、日本企業が、この商機を生かせるかどうかだが、中国側は、中国製品に競争力ありとして、この方針に不満を示している。
3.2019年の大阪G20
ブエノスアイレスのG20会議では、安倍首相は、まとめ役としての評価をとり、2019年の大阪G20では、主催国首相としての手腕が期待されるが、主役は米中対立の行方である。一層の対立の中では、纏めを重視すべきでない。自由な、開放のインド・太平洋の実現が、安倍首相が唱道する日本の国是である。大阪の会議でも、中国が「自由貿易」を擁護し、アメリカの「保護主義」を攻撃するかもしれないが、世界の自由貿易の基礎には、アメリカの「保護主義」が、中国に要求している競争条件の平等、知的財産権の擁護の実現が前提条件であることを示すべきである。
また、5Gを巡る問題も、2019年における国際標準とも絡み、大阪G20の議論の焦点の一つとなろう。世界の情報の主導権は、すでに述べたように、経済権益を規定し、世界の安全保障にも大きな影響を与えるが、同時に人権の問題である。現在、日本人が中国の裁判所で、スパイ容疑で12年の懲役刑の判決が下りたというが、どのような罪なのか、不明であり、脅威である。世界の情報の主導権が、人権無視の、独裁国家に握られることは、絶対、避けたいところである。