(1)米国社会の変化に伴う米国民の分裂

トランプ政権の性格を考えるにあたり、まずは米国国内で進行している社会的変化を理解する必要がある。近年、米国社会では、貧富の差が拡大しているほか、未婚の母や、中年白人の「絶望死」(自殺・アルコール中毒・薬物依存)が急増するなど、貧困層での家庭崩壊が顕著である。また、共和党および民主党の各支持層が明確に分裂しつつある。例えば、共和党支持層は内陸・地方部に、民主党支持者は東西沿岸・都市部にそれぞれ集中し、いずれも同じ政党支持者とばかり付き合う傾向が強いという調査結果がある。その中で、共和党支持層が右傾化し、民主党支持者が左傾化することで、中道の政策支持層が減少しつつある。

(2)トランプ政権の特徴

こうした米国の国内状況を踏まえつつ、トランプ政権の動向をみてみると、およそ以下の3つの特徴が浮かんでくる。第1は、支持層の選好を意識した政策展開である。例えば、トランプ大統領は、いったんはNAFTA離脱を宣言したものの、米国の農業がNAFTAの恩恵を受けており、さらに農業従事者の多くが共和党支持者であるという指摘を受けて、その宣言を撤回したといわれている。他方で、トランプ大統領は、反移民主義政策を推し進めることで、「移民は我々の仕事を奪う」と考えている製造業従事者を引き付け、彼らが従来支持してきた民主党からの離脱を促そうとしている。第2は、トランプ大統領の個人的資質によるメディア戦略である。トランプ大統領は、日々話題を変えてメディアの注目を集めることで、共和党支持者の更なる支持を得ている。第3は、従来の共和党カラーの強調である。トランプ大統領は、行政では規制緩和・大規模減税によって「小さな政府」を、司法では保守派の最高裁判事候補を起用して、伝統的な「強い米国」を再建するというグランドデザインを描いている。

(3)トランプ政権の外交政策

最近のある米国世論調査の結果によれば,共和党支持層の考え方は,民主党支持層とは対照的であり、「米国は外交では妥協せず、自国の国益を追求し、また、その魅力はその軍事力にある」という傾向がみられる由。そして、トランプ政権の外交政策はこうした政権支持層の傾向を反映してきているとみられる。また、最近は、支持政党に関係なく、米国民全体として、特に中国への技術流出を問題視する声が多いほか、北朝鮮への関心が強まっており、金正恩との会談を実現した時点でのトランプ大統領の支持率の高まりを見せた。他方、対日関係については、安倍総理とトランプ大統領の信頼関係がベースにあり、米国による日米同盟へのコミットメントは明確であり、日米経済対話の下で経済アジェンダを推進するという枠組が成立している。

(4)今後の米国選挙事情

現在のところ、上院は共和党、下院は民主党が優勢だが、個人的には下院の民主党優位については不透明感があると見ている。トランプ大統領としても、ロシアとの関係、移民問題、他国の対抗措置を招きかねない経済政策など、選挙に影響を与えうる案件については、しっかりと手を打たなければならない。とはいえ、トランプ大統領への支持率は、歴代政権への支持率と比較しても決して低くない。また、トランプ大統領には、投票日に実際に投票所に足を運ぶ熱心な支持者が多いといわれる。他方、現在の民主党の潜在的大統領候補には、今のところトランプ大統領に十分対抗できる有力人物が出ていないとみられている。

(文責、在事務局)