第144回外交円卓懇談会
「変容する日米中トライアングルの行方」
2018年5月29日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局
日本国際フォーラム等3団体の共催する第144回外交円卓懇談会は、マイク・モチヅキ(Mike Mochizuki)ジョージ・ワシントン大学教授を講師に迎え、「変容する日米中トライアングルの行方」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2018年5月29日(火)15:00~16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「変容する日米中トライアングルの行方」
4.報告者:マイク・モチヅキ(Mike Mochizuki)ジョージ・ワシントン大学教授
5.出席者:21名
6.講師講話概要
マイク・モチヅキ・ジョージ・ワシントン大学教授の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
(1) 日米から見た修正主義者としての中国
世界は中国とロシアの(再)台頭で大国間政治が復活している。米国は中国を、米国の価値観に反し覇権国を目指している現行のリベラル国際秩序に対する修正主義者と見なしており、それに対抗するため「自由で開かれたインド太平洋」政策を打ち出している。米国にとって、従来までの関与政策は失敗であった。また、日本は、ルール基盤の海洋秩序を目指しており、日米豪印4か国で対中政策を進めている。ルール基盤の海洋秩序に対する中国の挑戦は、東・南両シナ海での一連の強硬な軍事的言動から明らかである。だが、海洋安全保障・秩序は、複雑で断片的かつダイナミックであり、単純な現状維持国と修正主義国の競争と捉えるのは誤解につながる。日米中それぞれは、他諸国とも対話を通じて理解を深めていくことが重要であろう。
(2) 国際海洋法条約と現状
現代の海洋秩序は、法的に世界中で多国間の条約や協定、各国国内法等の網で結ばれており、確固とした秩序が明文化されているわけではない。1994年に発効した国連海洋法条約(UNCLOS)は広く知られたものの一つだが、これも多元、多国間主義を基調としており、包括的で曖昧な部分もあり、公平なバランスが志向されている。日本は当初、海上司法管轄権の拡大に反対し同条約調印に消極的であったが、1995年に批准した。中国は1996年に調印し、米国は慣習法として尊重するものの、議会が締結を拒んできたので批准していない。 国連海洋法条約では、経済的排他水域(EEZ)での軍事行動を排除しておらず、各国に立場の相違がある。アメリカは、世界最大の海軍力として公海での航海の自由を主張し、それに127か国が賛同している。中国は、排他的経済水域内での外国軍の活動を沿岸国が制限できるようにすべきと主張し、それについて23か国しか賛同していない少数派だが、その中にはインド太平洋諸国も数か国含まれている。日本は、日米安全保障があり米国の立場を支持するが、同時に近海で活動を増す中国軍によって、ジレンマに陥っている。
他方、海賊対策や人道支援及び災害支援分野では地域内、地域外で多国籍協力関係の動きも見られる。2005年に日本が主導したアジア地域でのReCAAPや、アフリカ東部沖での国際的な海賊取り締まりなどである。
2016年7月の常設仲裁裁判所判決で、EEZを主張する根拠として「島か岩か」の判断があり、太平島(イトゥ・アバ)は岩であるとされた。条約121条3項は「人間の居住または独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域または大陸棚を有しない」としている。中国、台湾ともに太平島を島と見なせないことになったが、この例からすると日本の沖ノ鳥島、アメリカのパルミラ環礁等、島ではなく岩と見なされてもおかしくないことになってしまう。
国連海洋法条約は海洋生物の多様性や環境保護を謳っているが、実際現行の海洋秩序では各国国益の最大化が重視され、漁業の乱獲や環境汚染が問題となっているが、対処すべき最優先課題となっておらず、懸念される。
(3) 海洋秩序の課題
これまでの海洋秩序の現状をめぐり、いくつか課題が挙げられる。まず、構造的に海洋安全保障が公共財と戦争原因の紙一重であること。海洋通商に関わる全ての国々の関心事であるシーレーン(海上輸送路)は、平時は公共財であり、これまで米国が提供体制を担ってきた。しかし、それは紛争時に公共財を独占化できる体制とも言え、そうした懸念を持つ国は海軍力の増強をし、自らシーレーンを奪取できるよう目指し、挑戦的になるかもしれない。中国の近年の海軍力増強はそうした考えに基づいていると見られる。
そして、国家主権と「人類共通の遺産」の関係である。現行の海洋秩序はいかに国家主権を行使するかという視点であり、国連海洋法条約でも海洋は「人類共通の遺産」として謳われているものの、海洋の保護はほとんど取り組まれておらず、海洋の統治とともに国家の責任が考慮されるべきではないか。ほかの地球規模的な課題では知識層や市民社会が、国益最大化に邁進する国家行動へのつり合いを取ったケースが多いが、海洋秩序の分野ではまだ発言力が弱い。
これまで米国が大きな存在感を持っていた日本、中国近海では、米国の影響力低下が懸念されると同時に、中国が台頭している。米国にとって中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)が懸念となっているが、日本も同様に、専守防衛の範囲で中国に対して接近阻止・領域拒否を執ることにより、自国ひいては同盟国の米国の安全保障に寄与し、地域安定化に役立つのではないか。
(文責在事務局)