(1)未体験ゾーンに入った北朝鮮問題

金正恩政権下の北朝鮮は、それ以前の政権とは異なる特徴が2つある。第1は、金日成と金正日は、後継者にどのような体制を引き継ぐべきかを第一に考えていたのに対し、金正恩は今後数十年を見据えて自身の体制維持と安全を考えていることである。第2は、金日成と金正日にもそれぞれの「並進路線」があったともいえるが、金正恩は、「まずは核開発、続いて社会主義経済建設」という段階的な「並進路線」をとっていることである。昨年9月、すでに金正恩は核開発の「完成」を宣言した。そのことは、その後は「経済建設」に総力を集中させることを宣言したに等しい。そこからは、金正恩の長期的視野に立った本気度がうかがえる。そこにおける北朝鮮のシナリオが「朝鮮半島の非核化と平和体制」であり、そのプロセスの一環あるいは終着点としての「北朝鮮の非核化」である。他方、トランプ米大統領が、交渉の入り口で北朝鮮の「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」しか受け入れられないとの姿勢を崩さなければ、両者の交渉は決裂するだろう。ただし、アメリカ側にも妥協点を探ろうとする気配があり、現在の米朝接近の機運は当面続くとみられる。このような情勢下において、北朝鮮問題の動向は、従来の経験から断定することのできない未体験ゾーンに入ったといえる。これは日本にとっても外交力を活かす機会といえる状況であるが、重要なのは、北朝鮮の非核化へのタイムフレームをどのように設定するかである。現状、日本は2020年までという形で事実上譲歩している。交渉中は制裁を緩めず、制裁をいつでも再開できる状態を維持しながら北朝鮮との間で何らかのギブ・アンド・テイクの取引をすることになるのではないか。

(2)「一帯一路」の多面性と「インド太平洋」の多義性

中国の「一帯一路」構想は、日本や欧州にとっては、自由で開かれた国際秩序を転覆させるための対外戦略として映っている。実際、これまで先進民主主義諸国が築いてきた国際秩序が侵食されているという現象は起きているが、中国としては、秩序転覆というような大それたことをやろうとも、できるとも思っていない。むしろ鉄鋼の過剰生産や西部開発など中国の国内問題を解決するための手段という一面も持っている。「一帯一路」については、これら複合的な側面から考えることが必要である。他方、「インド太平洋」構想は、「対中対抗戦略の枠組」(日本)、「世界経済の成長・統合のエンジンであると共に南シナ海をめぐる対中ヘッジの政策」(米国)、「日中間での紛争の種」(豪州)、「『一帯一路』との狭間におけるリスク」(ASEAN)、「太平洋に入り込む契機」(インド)など、国によってさまざまな捉えられ方がなされている。こうした状況下において、あからさまな対中対抗戦略を支持する国は少ないとみられる。そのなかで日本は、中国の「一帯一路」に、従来のリベラルな国際秩序の原則や仕組みを浸透させていくと同時に、中国を「インド太平洋戦略」に引き込んでいくことが重要である。

(3)日露関係について

現在、北方領土をめぐって安倍首相が展開している対露外交は、90年代に日本政府が進めていた路線とほぼ同じであり、まずは56年共同宣言に基づく2島返還と平和条約を達成し、残りの2島を継続協議に委ねる方策を探る、というものである。つまり4島一括返還は現実的ではないという考えが背景にある。ただし、このような段階的返還論自体は、依然、少数派の考え方であり、こうした路線は、90年代にはうまくいかなかったし、結局ロシアに2島をとられたまま幕引きとなってしまうというのが主流の考えだろう。とはいえ、安倍首相はプーチン大統領となら、そのような段階的返還が実現できると考えているふしがある。この文脈において安倍首相が唱える日露外交における新しいアプローチというのは、つまるところ共同経済活動である。つまり、北方領土におけるロシアの主権を認めない形の共同経済活動によって可能な限り日本のプレゼンスを確立し、56年共同宣言に基づいて処理した後にも国後、択捉について継続協議が不可避となる現状を構築しようとしているのである。ある意味、共に強力なリーダーである安倍・プーチン両首脳間で出来なければ解決は遠のくばかりというのは、理屈としては正しいかもしれないが、だからといって成功する保障はない。

(文責、在事務局)