(1)アメリカ・ファースト

トランプ政権の誕生により、多国間協力に関して従来とは異なる米国の視点が見られるようになってきた。すなわち、単純な貿易収支の比較から損得の競争状態と見なすこと、合意済み案件の再交渉を求めることなど、である。これには、過去20年間の米国のみならず、世界経済を動かしてきた国際的なサプライ・チェーンを無視して、製造業を米国内に「引き戻す」という考えが根底にある。主要なところでは、北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓自由貿易協定の再交渉は既報の通りである。特に後者においては、政権側が表現するほどの成果や意義は、実質的にないといえるだろう。

(2)日本の課題

米国と日本が主導してきた環太平洋パートナシップ協定(TPP)は、アメリカの脱退により進展が不明瞭となった。しかし、日本は素晴らしい主導力を発揮し、いわゆる「TPP11」の実現に尽力した。その理由は、保護主義を防止し、円滑な世界供給体制を維持することが、日本の経済的繁栄につながるという考えからでているものであろう。また、米国が地域関与を低下させることにより生じる権力の空白を防ぎたい、という地政学的な理由もあろう。大統領本人からはまだ前向きな姿勢が見えないが、米国内でも議会、産業界でTPPへの関心が高まっており、すぐではないだろうが、米国も参加を再考する方向に動き出している。そうした米国の再帰を日本も待望しており、また、TPP11参加国も米国市場へのアクセスに期待している。

中国は、地域内のみならず、世界的な経済枠組みの中でも台頭している。現在までのところ、中国は順調に自由市場に適合し成長しているが、技術的保護の分野などでは十分に適合しているとは言い難い。そのため今後、日本、米国、欧州が国際的な枠組みをとおして中国への関与を高め、国際社会の規範に沿うよう誘導することが期待される。

(文責在事務局)