(1)世界経済情勢について

2008年のいわゆるリーマン・ショック以降、各国の株価は大幅に下落し、各国株式市場では記録的な下落をみたが、各国政府が打ち出す金融・経済危機対策により、2008年末から2009年初めにかけ各国市場とも、下げ止まりに転じた。その後も経済は低調を続けたが、2016年夏には経済は底を打ち、貿易、設備投資ともに回復基調にある。また、ここ数年続いた世界貿易の伸び率が経済成長率を下回る「スロートレード」状態も改善の兆しが見られる。とは言え、今日の世界経済は、いくつかのリスクを抱えている。具体的には(1)潜在成長率が低迷しており、世界全体の成長率が以前のようには伸びないこと、(2)米国などの先進国において、内向き政策志向が強まっていること、(3)とくに米国において低い長期金利と高い株価が持続していること、(4)新興国のドル建て債務が拡大していること、(5)銀行への規制強化の反面においてシャドー・バンキングが増加しつつあること、などが挙げられる。

(2)先進国の金融政策とインフレ率

日米欧の政策金利をここ数年で比較すると、欧州や日本はマイナスに、アメリカはリーマン・ショック後0%近くまで急落したが、ここ2年で2%近くまで上昇している。マネタリーベースで比較すると日本と欧米との差異が際立っており、欧米は対名目GDP比率が20%前後であるのに対し、日本は90%近くまで拡大している。いわゆるアベノミクスのもとで2013年以降急拡大した。ただし、それまでも日本銀行としては同比率を維持・拡大してきており、既に当時の米欧より高い20%付近であった。また、先進国のインフレ率を見ると、欧米は2%を少し下回る水準にある一方、日本は低く1%に届くかどうかという状態。このため、米欧と日本とで、金融政策運営に差がでるのは自然である。

(3)日本の金融政策と出口戦略

日本銀行は、2016年に従来の「量的・質的金融緩和」、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を強化する形で、新たな金融緩和の枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。新しい政策枠組みとして、(1)金融市場調節によって長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」、(2)消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」、の2つがある。そのもとで、ここ数年の日本の実体経済としては、労働力率が上昇する中で失業率が低下しており、女性やシニア世代の活躍などにより労働市場の活性化が顕著に見られる。バブル崩壊以降、下落していた日本の潜在成長率は、ここ数年は緩やかに回復しているが、今後、生産年齢人口がさらに減少する中で、この傾向を持続させていけるかという課題がある。また、医療費の増大などを考慮し、頑健な社会保障制度の確立を目指すことも重要である。消費者物価2%目標についてだが、現行の金融政策からの出口戦略は、物価2%の達成までかなり距離があることから、日本銀行としては、現時点で出口を議論するのは適切ではなく、まずは、今後の経済・物価・金融情勢の動向を慎重に見極める必要がある。

(文責、在事務局)