(1)韓国を取り巻く状況

文在寅大統領は、大統領選挙期間中、国内の経済再生のほか、平壌を初外遊先とすることなどの政策方針を打ち出していた。その前後の韓国を取り巻く国際環境は、北朝鮮の核・ミサイル実験、トランプ政権の強硬的な対外姿勢、米韓ミサイル防衛システム(THAAD)導入を巡る対中国関係の硬化など、大きな変化の最中にあった。また国内では、保守・革新の間で対立が深まって分断状態となっていた。そのため文大統領は、こうした韓国の置かれた状況を踏まえて、革新派ではあるが保守派に対しても協調的な姿勢を取りつつ外交政策を進めているところである。

(2)韓国の立場と北朝鮮の核思惑

文政権は、北朝鮮に対して対話路線を重視しているが、核不拡散条約国の一員として、北朝鮮の核保有を認めることはしない。また文政権は、一連の北朝鮮による核・ミサイル開発によって、周辺国の軍拡やテロリストへの核拡散など、所謂「核開発ドミノ」の事態に陥ることを懸念している。なぜ北朝鮮が核保有を目指しているかについては、いくつかの理由が考えられる。南北朝鮮の経済格差が広がるにつれ、核は北朝鮮にとって有効な抑止力であり、特に対米関係において軍事的、政治的な交渉カードとなりうる。また、北朝鮮にとって、核保有は国際的な高いステータスをもたらし、国内的に金正恩体制の正当化を強める手段としても有効である。

(3)文在寅大統領の外交と北朝鮮の反応

今般の動向を踏まえ、文政権の対北朝鮮姿勢は、「朝鮮半島の非核化」、「和平の実現なくして半島統一なし」、「国民的合意と国際協調」、の3点を基軸としている。これらの基軸をもとに現在文在寅政権は、国連の対北経済制裁への参加、南北交流・経済協力を停止する等の措置をとっている。また、軍事費も過去9年間の保守政権で年2~3%の伸びだったのに対し、7%以上増加させた。ただし、米中が韓国抜きで対北対処(「コリア・パッシング」)することを懸念し、また従来からの姿勢として対話路線を掲げ、その実現に努めている。文大統領は北朝鮮に対し、韓国が、自主的に核開発や技術を導入すること、北朝鮮を攻撃することおよび政権転覆を図る意思がないこと、を表明している。一方、金正恩は、新年演説の中で核開発の進捗に触れつつ、対南関係の改善にも言及した。その後、平昌冬季オリンピックに際し、金正恩の妹、金与正特使が訪韓し、北朝鮮側は交渉の用意があると伝達、米韓合同軍事演習に関しても理解が示される等、柔軟な態度が示された。金特使は文大統領の交渉に対する自信と真摯な姿勢に感銘を受けたようだ。ただし、北朝鮮の態度軟化は、韓国の外交努力だけではなく、中国の国連制裁参加の効果が大きいと見られ、報道の通り4月末に予定される南北首脳会談では、朝鮮半島の和平実現と非核化のジレンマを文政権がどう乗り越え成果を出せるか、注目されるところである。

(文責在事務局)