(1)本講話の狙い

本講話の狙いは「インドと日印関係を国際政治の観点から鳥瞰するとどうなるのか。中国とどう対応するのか。国際秩序形成(≒ルールメイキング=経済力+軍事力)と日本、インド、中国、米国との関係をどう見るか」である。

(2)明治時代~冷戦期の日印関係

明治時代〜冷戦期の日本はインドと深い関わりがあった。特に、インドは明治〜昭和の日本の工業発展に多大な貢献を果たした。綿工業の原料の大半はインドを含む南アジア地域から輸入されたものであったし、鉄鋼業に関しても、その原料はインド産鉄鉱石であった。また、自動車と関連産業なども日印間で深い関わりがある。冷戦期の日印間には親近感はあったが、それは普通の二国間関係であった。その理由は、経済政策と外交政策のズレである。西側陣営の日本が自由主義経済と日米同盟外交を政策の柱にしたのに対し、インドは閉鎖的な社会主義経済と非同盟・親ソ外交を政策の柱にしていた。そのため、1960年代〜1980年代は日印関係の空白期間である。1960年代の日本は高度経済成長期であり、石油のためインドよりも中東を重視した。ただし、1980年代中頃に変化の予兆が起きる。1984年の中曽根首相訪印および1985年のラジーブ・ガンディー訪日が実現したのである。

(3)冷戦後の日印関係

冷戦後の日印関係は改善・緊密化している。2010年代には、インド太平洋時代という言葉が使われるようになった。日印の要人往来件数も増加傾向にある。そもそも、アジア太平洋という言葉は、日米主軸の経済・安保態勢を指していたが、そこにインドにも加わってもらおうということで、インド太平洋という言葉が使われるようになったのである。関係変化の要因は経済が基本要因であり、政府開発援助(ODA)、日本の対印投資、相互貿易が行われるようになった。インド経済は自力だけでは不十分であり、日本と組むことにしたのである。また、印米関係の緊密化も、関係変化の一要因である。印米関係は長年疎遠であったが、1990年代以降、クリントン、ブッシュ・ジュニア、オバマと続く米政権による対印緊密化政策が功を奏した。米国は、対中でインドとの関係を強化する必要に迫られていたのである。そして、中国要因は大きな要因である。日印両国は中国を警戒しているものの、関与を続けている。インドはAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加しているが、一帯一路には不参加である。逆に日本はAIIBに不参加だが、一帯一路には参加表明している。

(4)2000年代以降の日印関係

日印関係の緊密化は、2000年代以降進んでおり、政治関連では、首脳年次相互訪問開始(2005)、戦略的パートナーシップ(2006)、そして、日米豪印によるインド太平洋局長級協議(2017.12)が実現している。協議が外相級ではなく局長級なのは、インドが慎重なためであり、インドは中国を刺激しないように気を付けている。経済関連では、包括的経済連携協定(2011.8発効)、5年間に3.5兆円の官民融資(2014.9)、新幹線の導入(2015.12)、防衛装備品及び技術移転協定(2016.3)、原子力平和利用(2016.11)が実現している。

(5)モディ首相

モディ首相はインドの大国指向を明確化している。そのモディ首相の所属するインド人民党の総選挙綱領には、「偉大なインド」が明示されており、現代+インドの雄大な歴史(古代文明)を誇らしげに示している。米中以外では、インドだけが大国を指向し、曲がりなりにもグローバルな外交を展開しようとしており、この点が他の中小国とは違う。

(6)今後のインド

中国のように独裁制の方が経済発展を進めやすいが、民主主義下での経済発展がどうなるのかがポイントである。2019年5月までにインドは総選挙があるが、人民党が勝ちそうである。今後のモディ政権はプラスとマイナスの状況に対処しなければならない。インドはいずれ世界最大の人口大国となり、現在も人口の大半が25歳以下である。労働人口の観点から見ればプラスであるが、そのためにも教育・雇用機会の拡充が必要である。インドの貧困層は全人口の20%以下になったが、識字率はまだ73%に過ぎない。加えて、都市化現象(農村部から都市部への人口移動)への対応も求められている。これは、世界的現象であり、2050年までに人口の約6割が都市部居住民となる。インドも同様であり、今から手を打つ必要がある。

(7)今後の日印関係

今後の日印関係だが、日印関係をインド太平洋の公共財としてとらえてみてはどうか。そのうえでアジアにおける経済・政治枠組みを構築すべきである。問題は政治である。中国が強大化し、そのうち、インドも強大化する。今のうちに地域枠組みを構築しないと間に合わない。日印関係にとって中国要因が大きい。中国は経済発展によって民主化が進むと期待されていたが、習近平主席が主席任期を廃止したことが示すように、民主化が進むとの予測は外れた。中国はこれ以上の経済発展を望めないため、更に対外的強硬政策を進めてゆくのではないか。

(文責、在事務局)