1.はじめに

国会は、わが国の国民が推進する民主主義的統治構造の下で国民の総意を代表する最高の意思・政策決定機関であり、三権分立体制の一環として、その権威は誰しも侵害することが出来ない。この点が、中国にみるような共産党が立法府、行政府、司法府の上位にあって統治する一党独裁国家とは基本的に異なる。戦後平和憲法の下で基本的人権が保障され、自由と平和を愛好する我が国国民は、国会の権威・権限を侵害しようとするいかなる国内外の勢力にも毅然として対抗し、民主主義的統治機構の頂点に立つ国会の権威、権限を死守する責任をもっている。

しかし、国内外の情勢の変化、国民の政治意識・行動の変化に伴い、国会が国民の、国民による、国民のための統治機構の一環である限り、立法府である国会のあり方、運営の仕方などについて、国民の総意の下で審議・改革することも、わが国民の政治的責務である。同様なことは、行政府、司法府のあり方、運営についても同様であろう。しかし、民主主義統治機構の基本である三権分立体制は、絶対に維持さるべきものであり、国会も、行政府、司法府もすべて、国民の基本的人権を擁護し、国民の幸福を追求する権利を保障する義務があることはいうまでもない。

世界経済のグローバル化、国民の価値観、世界観の変化に伴い、国民各層の政治意識・行動も変貌しており、戦後72年余の民主主義的統治機構の運営も多くの課題を抱えていることが判明した。これらの変化に対応して、国民の、国民による、国民のための国会の再構築のためには、如何なる政治改革、特に国会を巡る改革が必要となっているかに絞って、以下考察してみたい。

2.国政レベルでの民主主義政治制度の改革

我が国の議会制民主主義体制へ民主主義の理念を一層貫徹するためには、下記に列挙した普通選挙制度を含めた諸々の制度上の欠陥や、市民の政治意識、より広く国のガバナンス体制の欠陥を早急に除去することが不可欠である。以下、実行可能な範囲内での国政レベルでの議会制民主主義政治制度の改革と議会運営上の改革を、若干提案したい。

(1)普通選挙制度の改革

 (ア)衆参両議院議員の立候補者は、日本国籍を有し、あらゆる民法・刑法上で3年以上の有罪判決歴がない、満25歳以上の男女とする。
 (イ)現行の国会議員選挙に関する法律を改正し、衆議院議員選挙は、人口比に徹し、簡易国勢調査による有権者35万人に一人とする。小選挙区制のみとする。(注記1)
 (ウ)衆議院議員の任期は4年とし、再選による任期は通算4期を限度とする。(注記2.1)
 (エ)参議院議員の任期は4年とし、再選による任期は通算4期(16年)を限度とする。(注記2.2)
 (オ)参議院議員の選出は、小選挙区制度を廃止し、一方で都道府県を一選挙区とするものと、他方で全国を一選挙区とするという2種類の比例代表制を都道府県単位で導入し、それぞれの選挙区制からは一人を選出する。(注記3)
 (カ)衆参両議院に欠員が生じた場合には、各選挙区別に繰り上げ当選とする。その場合の任期は残任期間とする。補欠選挙は実施しない。
 (キ)衆参両議院議員立候補者は、各政党が推薦する者と自薦等による立候補者から構成される。各政党が推薦する衆参議院議員立候補者の半数は女性とする。
 (ク)衆議院議員の小選挙区制に基づく立候補者選定では、現行の一人多数票制から複数多数票制へ変更する。(注記4)
 (ケ)衆参両議院議員候補者による選挙活動の期間、方法等は、特に定めのない限り公職選挙法下の現行制度を継承する。
 (コ) 衆参両議院議員候補者による選挙費用の調達は、借入金を含む候補者本人名義の資金と候補者への個人寄付に限定し、一人当たり寄付限度額は年100万円とし、国政報告会や支持有権者個人ないし団体所属個人による集会での納入会費を含む。団体寄付は禁止。候補者一人当たりの選挙費用総額は1億円を限度する。
 (サ)政党および政党支部への個人及び団体寄付は合算して、一個人、一団体当たり年間100万円とする。
 (シ)政党助成金制度は廃止。(注記5)

(2)国会審議・運営制度の改革

 (ア)衆参両議院の通常国会会期は、予算審議国会(1回)、法制審議国会(4回)、決算審議国会(1回)の年6回、各会期は30日間とし、予算審議国会は補正予算審議を含め毎年1-2月、法制審議国会2-3月、5-6月と9-10月、11-12月、決算審議国会は4-5月とする。各通常国会は、議員の単純過半数の合意に基づき特別国会を召集でき、会期を定める。
 (イ)衆参両議院では、議員の3分の1の要請により、議長は臨時国会を召集しなければならない。会期は国会議員の合意に基づく。
 (ウ)国会審議での党議拘束制度を廃止。(注記6)
 (エ)衆参両議院に議院運営委員会、政策委員会、特別委員会を置き、各委員会の議題は、各政党代表の合意により決定する。
 (オ)衆参両議院における議院運営員会、政策委員会、特別委員会の委員数は、政権与党所属議員と野党議員同数とする。無所属議員は与党か野党
どちらかに席をとる。
 (カ)衆参両議員は少なくとも3委員会への登録を義務とし、その選択は任意とする。各委員会の委員長および副委員長には、各政党推薦による政権与党と野党代表が付く。
 (キ)すべての委員会所属委員は議案提案権を有する。委員会で3分の2以上の賛同があった場合には、委員長はその決議に従い、議員立法の審議に入らなければならない。(注記7)
 (ク)衆参両議院におけるすべての法案審議は、政策委員会あるいは特別委員会での出席議員3分の2の合意を経て、本会議へ上程される。本会議での議決は出席議員の5分の4の合意で成立する。
 (ケ)衆参両議院の政策委員会、特別委員会の審議は、一般公開を原則とするが、委員の3分の2以上から、非公開の請求がある場合には、委員長は非公開
とすることができる。
 (コ)衆参両議院の政策委員会、特別委員会の審議では、委員の3分お1以上から、証人、参考人の出席を求める要請がある場合にば、委員長はその要請に
従う。(注記8)
 (サ)衆参両議院における予算委員会の審議を実効あるものにするために、国会に政策・予算分析・評価を専門とする独立委員会を設置する。本独立委員会は同時に、衆参両議院における決算行政監視委員会の審議を実効あるものにするために、決算行政監視委員会を補佐する機関としての機能も有する。本独立委員会は、国政調査権限を有する。その詳細な機能および運営規則は別に定める。(注記9)

(2)国会議員の報酬と報告責任に関する改革

 (ア)衆参両議院議員の報酬は年俸1,200万円とする。
 (イ)衆参両議院議員は、政策活動費用として年600万円を限度として請求できる。その収支状況は毎月議長へ報告し、常時一般公開とする。この運営規則は別に定める。
 (ウ)衆参両議院議員は、議員会館に執務筆をおき、政策秘書6人を限度として採用することができる。政策秘書の給与は、勤務条件に応じて年俸360万円から600万円とする。政策秘書の採用には、両議院の議院運営委員会の承認を必要とするが、政策秘書応募要件および採用に関する規則は別に施行細則で定める。(注記10)

3.民主主義的政治制度の一環として基礎づける三権分立制度は、理念としての民主主義を貫徹できるか

(1)三権分立制度と独裁・専制政治制度

 古代ローマ時代以来、王政下にあったあらゆる地域の人々は、絶対的君主(制)の下で15世紀以上にわたって、政治的自由は束縛されていたが、欧州では13世のMagna Carta採択以来、国政、地方自治体レベルでの市民(burg/berg に住む商人たちと農園主たち資産家bourgeoisieを指す)による一定範囲内での自治が認められて、各種政治制度が誕生した。18世紀の米国独立戦争とその後のフランス革命によって、欧米諸国で市民(相変わらず資産家たち限定的な市民で、小作人、日雇い労働者、農奴、奴隷を含まない)による、市民自身の、市民のための政治体制の端緒がみられたが、我が国を含めてその他の地域では、相変わらず王政ないし独裁専制政治制度が横行した。なお、市民の範囲が広がり、現在のように非納税者を含むようになったのは、第1次世界大戦後のロシヤ革命以降である。(なお、わが国では第2次世界大戦後)
 しかし、第2次世界大戦後に政治的独立を果たし、民主主義的政治制度の下で三権分立体制が導入された途上国でも、実態は三権分立からほど遠い国々が大半であり、米ソ冷戦体制が解消した1990年代以降に入って、漸く一部途上国で徐々に実現しつつある状況である。現在でも一党独裁・専制政治体制国家では、民主主義的政治制度の根幹である普通選挙制度も三権分立制度も共に存在しない。(参考:中国、朝鮮民主人民共和国、カンボジアなど)そこでは、政府が国民に奉仕するのではなく、国民が党・専制政治指導下の政府に奉仕することを強要されており、民本主義、民主主義の下での個人の政治的自由は存在しない。グローバリゼーションと「2030年開発アジェンダ(SDGs2016-30)」の下で経済成長、貧困削減、教育水準と情報・資本・人々の移動の国際化が紆余曲折ながらも進展し、中産階級が着実に増大している中で、途上国において、かかる独裁専制政治制度は何時まで存続できるのであろうか、甚だ疑問である。

(2)改革への道

 (ア)実態面での主要諸国との比較
三権分立制度を導入している多くの国々では、国政では行政府の長たる大統領の選挙では直接選挙制を採択しているフランス、フィンランド等EU諸国、多くの中南米国、旧ソ連邦諸国と一部アジア・アフリカ諸国と大統領選挙人制度と直瀬選挙制度を併用している米国があり、他方では行政の長について、間接選挙制度の下で議院内閣制を採用している一部のEU諸国と旧英連邦諸国と日本がある。
 一般的には、前者では三権分立制度下における立法、行政、司法機関間の相互牽制機能が厳しく、後者では比較的弱いとされている。その理由は、前者では、立法府と行政府の長は国民の直接選挙下にあり、それぞれが国政の最高意思決定機関、国政の最高執行機関として完全に独立しているのに対して、後者では、立法府が行政府の長を任命し、行政府の長が閣僚と政府機関の長や委員と司法府最高機関の任命権者である。なお、前者でも行政府の長が閣僚と政府機関の長や委員と司法府最高機関の任命権者であるが、前者では立法府による合意が求められる。後者でも、一部重要な政府機関の長ないし委員の任命には、立法府の同意が求められるが、議院内閣制の下で、衆議院で3分の2の絶対多数を占めている場合には、立法府による同意はさほど困難ではない。さらに、両制度の下で国家予算案と決算案は行政府の長が作成し、立法府が合議の上最終決定するが、前者では立法府と行政府の間で常に緊張関係がみられるのに対して、後者では議院内閣制ということもあって、かかる緊張関係は微弱か存在しないのが通例である。なお、会計検査院が前者では立法府に所属しているのに対して、後者では行政府に属していることが多く、これが両府間の緊張関係の強弱に関係しているといえよう。前者における立法府の優位性は、行政府閣僚の承認権、高い頻度の公聴会の開催、有能な多くの議員スタッフによる強固な支援体制の下での議員立法の普及度・頻度の高さと相まって、議院内閣制に立脚した後者に比すると、民意に沿った議案審議が一層見られ、より民主主義的な政治制度といわれる基本的な理由である。

(イ)三権分立制度の活性化と民主主義的政治制度の改革
 議院内閣制の下では、行政府は立法府で多くの議案成立要件である3分の2の圧倒的多数議席を確保すると、三権分立制度に本来期待する立法府の牽制機能の有効性は低下する。2012年以降の自民党・公明党連立の安倍政権の発足以来、内閣法制局による集団的自衛権の合憲性という従来の憲法解釈の大転換や安保法制をめぐる立憲主義違反に疑問を投げ、抵抗したのは野党議員だけであり、立法府は完全に行政府の管理下にあるといってよい。さらに、司法府の長も内閣総理大臣の指名に基づき立法府が承認することになっており、司法府下部機関の裁判官任命も最高裁判所長官によるので、立法府で多数党である与党の意向が司法府でも重視される傾向が最近屡みられる。今回の最高裁による別姓違憲訴訟に対する敗訴も、その一例であろう。辺野古基地への移転に関する沖縄県知事による工事差し止め措置をめぐる訴訟事件への地方裁判所の判決は注目に値する。(過去における沖縄県知事対日本政府の訴訟事件では、常に日本政府が敗訴した。)かくして、今日の我が国の国政では、立法府、行政府、司法府の間の緊張関係や相互牽制関係は、最早存在しないし、そのために民主主義的政治制度の根幹である三権分立体制が危機に直面していると言ってよいであろう(ウ)議会制民主制度の下での健全な三権分立制度の回復:二つの選択肢。
  ①次回の国会議員選挙で、与党議席を3分の2過半数未満に追い込む。
このためには、野党勢力は選挙に関係なく、通常の国会審議に於いて、政策面で与党へ対抗できる、国民にとって魅力的な政治活動を展開する。その結果は、選挙時における有権者の投票行動へ反映される。しかし、このような状況を生むためには、常時野党間の連絡・協議を密にして、政策面での合意点を出来るだけ多く見出して、政策面で与党に対抗することが急務である。その場合、当然ながら大同小異という形で妥協が必要である。出来るだけ与党との政策面での違いを明確に有権者に示すためには、最も重要な戦略的な政策で野党間の合意を見出し、他の政策の違いについては目をつぶる。可能であれば、野党間で統合可能な政党は、選挙時以前の早い段階で統合できる環境作りに励み、実際に統合できていることが必要である。選挙直前の選挙のための統合は、有権者が最も嫌う行動であることから、これは絶対に回避しなければならない。
 なお、選挙運動時に、衆議院選挙では県別、小選挙区別に与党候補に対抗する野党の立候補者をたてるためには、常時かかる有望な立候補者を育成ないし発掘しなければならない。選挙時には、野党の立候補者は一人区では一人はもちろんのこと、2人区でも与党候補が一人の場合には一人に絞り、2人の場合には2人という風に全野党間で調整し、全選挙区でどの野党に関係なく野党候補者を当選させるためには、与党候補者と同数を野党候補者で占めることが不可欠である。あらゆる選挙区で、野党候補者数が与党候補者を上回ると、野党候補者同志での票数分裂が結果し、与党候補者が当選することになる。参議院議員選挙でも同様である。
  ②国会におけるあらゆる重要議案の成立に必要な賛成議席を3分の2以上にする。
 与党の議席数が全議員数の3分の2を下回る場合には、重要法案の制定・採決時に、与野党間の協議が不可欠となることによって、与党による野党の政策への歩み寄りが実現し、民意に一層向いた政策の採択・実現が可能になる。ただ、かかる法案採決に拘わる議院運営上のルールの改正には、与野党間での根気のいる調整協議が不可欠であろう。このような議院運営ルールの改正には、野党はこの課題を選挙時の重要な政策公約として取り上げることによって、選挙後の与野党間の合意が一層容易になると考えられる。
  ③議院内閣制を維持しつつ、内閣総理大臣の選出で両議院議員間の合議制度を導入へ
 現行の議院内閣制に改革を導入して、内閣総理大臣の選出を衆議院議員の3分の2の採決ではなく、参議院議員の同意を条件とする。こうすることにより、国民、有権者の意向を一層反映させることができると考える。同時に、組閣権限は従来通り、内閣総理大臣の権限とするが、この場合任命大臣の承認を米国のように立法府の権限とすることか必要であろう。また、内閣総理大臣の所属政党と衆議院の多数党との間に「ねじれ」が生ずることもあり得るが、これによって立法府と行政府の間には緊張関係ないし牽制関係が生じ、三権分立制度が元来期待する効果が生まれる。この場合、内閣総理大臣の権限への国民の信頼は現行の総理大臣へのものと比較して、一層大となるであろう。

4.要約と結論

以上、民主主義の理念を貫徹する民主主義的政治制度の現状とその在り方について考察してきた。公正、平等、自由、参加を基軸とする民主主義の理念に立脚した政治制度の発展は、国家間で若干の時間的・制度的仕組みで差異がみられるが、いずれも19世紀後半以降の近代化過程で顕著となった比較的新しい政治制度である。いくつかの国々では21世紀の今日でも、未だ定着は愚か、導入さえされていない。本政治制度は、基本的には住民、国民が主権者として行使する普通選挙制度と三権分立制度を両輪とした制度である。前者は、最高意思決定機関たる地方議会と国会が、住民、国民を代表し、後者は立法府が制定した条例・法に基づいてその政策を履行する行政府と、国の最高法規たる憲法とその他の法律に基づき、行政府の権力行使を監視し、立法府の法制行為の合法性を審査する司法府による相互牽制体制を意味する。この両制度により、民主主義の理念がどの程度実現し、住民、国民の経済的・政治的・社会的福祉の向上、環境保全、文化的充実につながるかどうかは、立法府、行政府、司法府の三権分立制度に基づく運用如何によるが、最終的には、住民、国民の監視体制によって規定される。
 かくして、いかなる地方自治体や国においても、民主主義の理念の貫徹は、一方で民主主義政治制度の存在と、他方ではその制度を運用・監視する住民、国民の決意と能力によって規定される。我が国に於いては、民主主義の理念に基づく民主主義的政治制度が第2次世界大戦後の民主化過程で導入されたこともあって、地方議会、国会とその運営はもちろんのこと、行政府や司法府によって導入された諸制度・仕組みとその運用も未だに改善・改革すべき点が多々存在する。と同時に、これらの法律、制度とその運用を監視し、民主主義の理念に合致するかどうかを検証し、国内外の環境、価値観の変化に即して民主主義的政治制度の再構築責任を有する地域住民、国民の意志および主権者教育を通じた有権者の能力の向上が急務である。
Better Late than Neverである。以上

(注記1)衆議院議員と参議院議員の任期を通算4期とした根本的理由は、一方で古参議員の知見を各種委員会、本会議での討議に活用すると共に、若手議員の研修活動に力を入れてもらうためである。他方では古参議員によく観察される既得権集団との癒着を出来るだけ排除し、新しい議員の参入を通じて、国会での審議を創造的かつ時代の要請に合致するためである。さらに、衆議院議員選挙を小選挙区制だけに限定したのは、各政党内部での政策形成審議で、出来るだけ日本各都道府県、市町村が直面している課題の多様性を理解すると共に、共通課題への全国的な解決策に着目して、国会における審議を全国的に組織された産業界、労働界、職種別集団などの既得権益よりも、全国の各地域社会に居住する国民一般の要望・利害に応えるためである。
(注記2)議院内閣制の下では、内閣総理大臣は衆議院解散権を有し、政局の見通し故に、戦後毎年ないし2年以内に衆議院解散による衆議院選挙が実施されてくることが多かった。数少ない例外は、吉田・佐藤・中曽根・小泉・安倍第2次内閣だけである。このような状況下では、任命大臣の是非や政局を睨んだ議論が横行して、政治の安定を通じた法制・予算・決算などについて与野党議員による政策に基づいた真剣な審議という、国民が衆議院に期待する本来の役割を満足させることは到底不可能である。そこで、衆議院議員の任期を絶対年数ではなく通算4期(議員任期を全うすれば最長16年)に限定することによって、与党議員の間にも内閣総理大臣の安易な解散権の行使を抑制する効果があり、また野党議員による総理大臣不信任案の安易な提案を阻止することも期待できる。なお、参議院の解散はないのが故に、参議院議員は再選を含めて最長通算16年間議員として、中長期的な立場からの国会審議ができる。
(注記3)参議院議員選挙を比例区制に限定した根本的な理由は、国会が制定する法律・制度設計について、特定地域の個別利害に焦点を合わせた衆議院での政策審議に対して、参議院では全国的、国際的、世界的視点に立った国民全体の利益に資するための審議を期待するためである。と同時に都道府県単位での比例代表制の導入は、かって全国単位での比例代表制の導入で見られた「政策形成に無関心な立候補者」を排除するためである。
(注記4)現行の小選挙区選挙制度では、同一選挙区の有権者の投票数の絶対数が立候補者の当選・落選を決定する。小選挙区で落選した立候補者が比例区で当選する道は現在残されているが、この制度が政党の党内事情によって左右されるために、小選挙区比例区並立制度に対する批判も多い。よって新しい制度の下では、比例区制度を廃止する。しかし、現行小選挙区制度の最大の問題は、有権者の選択肢が狭められていることにある。そこで、立候補者の数にもよるが、上位3人まで選出し、最上位候補者は3点、次は2点、最下位は1点という点数制を導入して、最終的には最高点数を獲得した候補者が当選するという新しい選挙制度の導入を提案したい。ある政策に賛成して候補者(政党Aないし無所属)へ投票する有権者が、他の政策では候補者(政党A以外)を支持する場合もあるであろう。しかし、現行の小選挙区制度では、有権者は、そのどちらかの政策を優先して、一人の候補者(政党A,B,Cないし無所属)へ投票することしか選択肢がない。政策に注目して複数の立候補者へ投票する選択肢があれば、特定選挙区で有権者大半の支持政党がA党であっても、政策で優位なB党、C党ないし無所属立候補者が選出されることが可能となる。このような選挙制度の下では、政策でもって選挙戦が闘われることになり、現行制度以上に選挙民の民意が政策ごとに反映されて、従来型の血縁、地縁、金銭本位の選挙ではなくなる。この複数候補点数制の導入によって、より民主主議理念を貫徹した選挙制度となる可能性が大である。その結果、特定既得権益集団の利害から一般市民の経済・社会福祉改善、環境保全・文芸多様化を志向する立候補者選びへの転換も促進されるであろう。
なお、地方議会選挙の場合には、国会議員選挙以上に、狭い地域社会での特定既得権益集団の利害を代表する候補者が当選する選挙結果が多くみられる。青森県のある地方議会選挙では、選挙違反で検挙された立候補者が全員当選するということが過去に見られた。このような状況では、選挙民の政治教育を通じて、選挙民への民主主義理念の浸透をはかることが重要であろう。近年地域社会で活躍する政策指向的な市民社会組織が増えつつあるが、これによって一般市民の特定政策に関する民意がより明確に反映されてくることが期待される。一昨年7月の参議院選挙から18歳、19歳人口も有権者となったが、選挙権登録を含めて、彼らの政治教育が投票率の引き上げと、従来の血縁・地縁に基づいた選挙行動から脱皮して、政策に基づいた選挙権行使になることが、民主主義の理念の貫徹に一歩でも寄与することは疑いない。
(注記5)現行の政党助成金制度では、国民の税金の一部が国会議員の議席数に基づき各政党に配分されており、議員数の大小が助成金額を決めている。小選挙区制の下で落選した立候補者へ投票された有権者の意志は完全に無視されている。いやしくも国税の配分で有権者間で差別することは、憲法で保障された国民に対する公平性の観点から問題である。さらに、無所属議員で会派に属さない場合および共産党(政党自らの基本方針)には政党助成金は配分されていないという国会議員間の不公平性も存在する。上記の有権者間と国会議員間の不公平性を排除するためには、現行政党助成金制度を廃止することが妥当である。なお代案として、立候補者個々人へ一定同額の国政選挙補助支援金(例えば500万円)を提供し、落選者を支持した政党あるいは落選者個人(無党派の場合)からは、当該額の返還を義務付けることも考えられるが、膨大な財政赤字に直面している我が国では、かかる国政選挙補助支援金の許与は国民の理解・賛同を得ることは困難であろう。なお、現行公職選挙法に基づく立候補者すべてに課されている立候補納入金は、その金額の増額を含んで、納税者の膨大な選挙費用への応分な負担の観点からも、今後も継続することは望ましい。
(注記6)大半の議案の採決において、各政党は党所属議員の投票に政党の党議拘束性を設けている。その結果、特定政策採決において所属政党の政策に反対したり、棄権したりした場合には、特に重要法案の採決の際には、離党勧告ないし除名問題に発展する。党議拘束規定は、国会での民意を託された実のある討議を抑制し、国会審議を政党の利害に基づく政党間の対立だけを煽る結果をもたらし、国民へ向いた審議が行われない。政党党議拘束制度は、民主主義理念の発露、民主主義的議会制度・政治制度の発展を阻害することになる。国会議員は(地方議員も)、たとえ特定政党に所属していたとしても、所属政党の総ての党議政策に賛成ということではない場合は多い。現行の政党本位の議院運営制度を早急に改めて、有権者の民意を直接代表する議員個人本位の制度を導入することが望ましい。
(注記7)戦後の新憲法の下で制定された現行議院運営制度では、1940後半から50年代にかけて議員立法制度が広範囲に活用された。しかし、現在の議院内閣制に基づく国政では、行政府による議案提出とその法制化が支配的で、議員立法が極端に少ない。このことは、首長選挙と議会議員選挙という直接選挙制度が導入されている地方自治体でも同様である。議員立法制度を有効に活用して、議会へ民意を直接届けることで、民主主義理念を貫徹する参加型議会制度を強化することが望ましい。そのためには、議員による政策形成能力・意欲の向上が緊急課題であろう。後述するように、三権分立がもう一つの民主主義的政治制度の根幹であることを考慮すると、行政府に依存した法制化という現行の体制を反省して、議員立法制度の一層の活用と充実が望まれる。
(注記8)我が国の議会運営では、重要政策課題であっても、公聴会を開催して、広く国民の意見に耳を傾ける機会が少ない。今後は、あらゆる重要政策課題については、証人、参考人が出席する公聴会の開催を義務付けることを提案したい。こうすることで、選挙で選出された議員以外の多様な意見を聴取して、国政(や自治体)政策へ広く民意を反映させることが一層可能となる。なお、地方議会では、議員を通じた陳情書の提出・審議件数は、毎年かなりの数に上るが、その採択件数は比較的少ない。その一つの理由は、陳情書の内容が特定利害集団の利害にかかわる案件が多く、地域住民全員の利害とかけ離れていることが多いためである。住民は今後、市民社会組織、NGO等との協議を通じて、市民の政治参加を促す手法として、住民全員の利益の改善、地球市民全体の利益に資する陳情書を適時提出し、公正、平等、自由、参加という民主主義の理念とその理念に基づく民主義的政治制度を共有する議員と共に、地方議会での採択に努めることが望ましい。
なお、地方議会の審議では、住民のレファレンダム制度があるが、提出された議案で、有権者の意見に相当隔たりが見られると予想される議案については、有権者総数の20%からの署名入り申請がない限り、この制度を利用することができない。そのために、レファレンダム制度の活用件数は非常に限られている。この比率を、直近選挙時における投票率が有権者の50%未満の場合には、その30%として、さらに投票率が有権者の50%以上の場合には、その比率の20%として、出来るだけ議院運営へ民意を反映させる制度の導入が望まれる。
(注記9)我が国の予算委員会は、新年度予算案と年度末の補正予算案を審議する機能を持った常設政策委員会であるが、その予算審議時間は現行では前者については、通常1週間、後者については通常12時間という短期間である。さらに、政権与党が提案する予算案における予算項目についての詳細な討議よりも、政権運営に関する諸々の質疑応答に大半の時間を費消しているのが現状である。その結果、政府提案の予算案は何らの修正無く予算委員会で決議され、衆参本会議へ提出され、可決されるのが通常である。国民の税収を含めた歳入案と財政投融資を含めた歳出案は、本来国の政策を実現するための重要な財政手段であり、その歳入・歳出案が国民の、国民による、国民のための政策を実現するのに適切かどうかを審議する国会は、行政府提案の政策を詳細に亘って審議する責任と義務がある。しかるに現実には国会議員には、通常広範に及ぶ政策やそのための予算を科学的に分析、厳正評価する専門的能力や審議時間に欠けるが故に、党派に関係なく予算委員会を補佐する独立専門機関が不可欠である。国会は、かかる独立専門機関の助言に基づき、行政府提案の政策・予算案を徹底的に審議し、国民への負託義務を履行することが可能となる。同様な補佐助言は、衆参両議院における決算行政監視委員会の審議に於いても不可欠である。本独立専門機関は予算委員会の補佐機関として政策・予算の分析・評価に従事するところから、決算行政監視委員会で決算・行政成果の分析・評価も担当することが適切である。なお、本独立委員会の職務の重要性から、その専門職員数は最低200名を確保し、立法府国家公務員として政府内外から広く募集することが肝要であり、その資格・処遇は行政府国家公務員に準ずる。
(注記10)立法府の機能強化の一環として議員立法制度を活性化するためには、両議院における議員立法を補佐する制度の拡充が不可欠である。現行の政策担当秘書と2人のスタッフという体制は、議員立法の推進のためには極めて貧弱である。衆参両議院では各議員は少なくとも3つの委員会に所属しなければならないという議院運営規則に基づき、かつまた各委員会において委員の職務を全うするためには課題分野別の有能な政策スタッフの配置が不可欠であるということに配慮すれば、6名からなる各分野の政策形成、必要な情報収集・分析、関係機関との協議などに従事する政策スタッフ・チームを持つ予算措置が不可欠と考える。同時に、6人の政策スタッフにはその職務を遂行するために必要な法的権限を与えられなくてはならない。周知の如く、米国連邦議会ではこのような政策立案・監視に通暁した政策スタッフが十分配置されていることによって、議員立法制度が有効に機能して、三権分立体制の下での立法府と行政府の間にチェックアンドバランスの緊張関係が堅持されている。なお、我が国でも将来の政策スタッフや政策に通暁した議員立候補者の育成を目的にしたインターン制度の導入も一考に値する。