(1)グローバル通商レジームの危機

世界各国、特にアジアの国々は、第二次世界大戦後に構築された現在の国際経済体制に参加し、国家間の通商関係を拡大させることで、それぞれの国が経済成長を遂げ、政治的な安定を享受し、政治および経済協力を進展させてきた。しかし、2008年の世界金融危機によって、その体制に変化が生じた。金融危機の際、G20が景気刺激プログラムなどを実施したが必ずしも有効に機能せず、各国の雇用は大きなダメージを受け、その結果各国でこれまでの開かれた通商体制に対する疑念が起き、反グローバリズム、保護主義の考えが拡大し、英国でBREXIT、米国で保護主義政策を提唱するトランプ大統領の誕生などが起こったのである。

実際には、欧州も米国も、金融危機以後も経済成長がなされており、グローバルな通商から得られる利益も安定している。ただその利益が一部の層のみを潤して国内で十分に配分されておらず、その格差が拡大しているのである。特に米国では、通商から得られる利益を配分するための国内政策が失敗し続け、脆弱な社会保障システムも相俟って、その格差が顕著に表れている。その状況を背景に、保護主義が拡大しているのである。こうした保護主義の拡大は、一時的なものとなる可能性もある。例えば現在のトランプ大統領の経済に関する発言は、選挙キャンペーン中の過激な内容からトーンが落とされている。しかしトランプ政権は、WTOの紛争処理プロセスに反対する姿勢をみせるなど、その政策によってこれまでの国際経済体制が揺さぶられていることは間違いない。

(2)トランプ政権による危機の拡大

こうしたトランプ政権による国際経済体制への揺さぶりは、政治、安全保障にも影響を与え、これまでの同盟関係をも危機に陥れるかもしれない。トランプ政権は、米国がグローバルな通商によって不利益を被っているとし、特にその原因としてアジア各国を批判することで、米国において、米国国内の経済問題から目をそらさせている。こうしたトランプ政権の姿勢は、オーストラリアなどの米国の同盟国において、トランプ政権また米国自身への反感を高めているのである。もちろんアジアには、台頭する中国にどう対応するのか、中国をどう国際社会に組み入れていくのかという課題がある。しかしながら、そもそも自由で開かれた通商自体がなければ、中国を国際的な経済体制に組み入れていくことはできないのである。世界はグローバルな通商レジームによって利益を得ている。もし米国が、かつてトランプ大統領が提起していたように、中国、メキシコに45%の関税をかけ、日本やほかの国に15%の関税をかけるようなことをするならばば、世界は大不況に陥り、その影響は米国も巻き込むことになるだろう。

(3)今後のグローバル通商レジーム

国際社会は、グローバル通商レジームから後退するべきではない。TPPから米国が脱退したことで、その経済効果は落ちてしまっているが、安倍政権の努力もありTPP11で進んでいこうとしている。またアジアにはRCEPも進展している。また、昨年のG20ハンブルク・サミット、ベトナム・ダナンでのAPECでは、保護主義と闘うとの声明を採択することができた。こうした様々な動きが、トランプ政権が保護主義的な政策をとる歯止めになっていくだろう。そして、さらなるグローバルな通商レジームの推進が、経済協力、さらに将来的な地域の経済共同体、政治共同体への動きにもつながっていくだろう。

(文責在事務局)